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半吸血鬼少女の往く道は  作者: 月弓
学園潜入生活
13/46

幸福は罪です


アヤネの鍛錬を受け持って1週間、私は意地でも剣を握らせなかった。

武器は戦う勇気をくれるけど、同時に本来持ってる筈の工夫する力を奪ってしまう……それが師匠の教えだから。

自分の時には理解らなかったけど、アヤネを見ているとよく理解る。最初こそ不服そうだったけど、今はもう私の動きをどんどん真似して自分の中に取り込んでる。

だから……


「アヤネ、これを」

「?」

「アヤネの為の特注品、今日から武器を持っての鍛錬を始めるよ」


私が差し出したのは、王都でも有名な鍛冶屋に打って貰った刀。アヤネの身長に合わせてから少し短めで、(キッサキ)諸刃(モロハ)造りになってる。


『貰えません』

「お金なら気にしなくて良いよ、ちゃんと使い熟してくれれば」

『でも、私ばかり貰うのは…』

「……私のこの刀、師匠から貰ったんだ。もう何年も前に………」


魔人族領で採れた最高硬度の珠鋼に、一流の刀匠が鍛えてくれた私の愛刀……玖音断(クオンタチ)は、日頃丁寧に手入れしているお陰で鋭い斬れ味を保ってる。


「私も最初は断ったよ……でも、今になって理解るんだ…師匠が私に望んでた事って、"技の継承"なんだよね。自分が磨き上げた技を、絶やさず正しい形で後世に伝えて欲しい……刀を渡すのは、バトンを受け継ぐのと同じなんだよ」

「ッ……」


認めるしか無かった。

アヤネは強い、自分の弱さに立ち向かう強さがある。

何度殴っても立ち上がって、何度蹴り飛ばしても諦めない。何度も止めて良いって言った、何度も楽な道を提示した────それでもアヤネは、苦しい道を選んだ。

…だから、継いで欲しい。


「これからもっと辛い鍛錬になる、何度やっても上手く出来ない自分が心底嫌いになる……それでも、私の後を継いでくれるなら、その覚悟があるなら刀を取って」

「ッ……」

「無いならそれでも良い、約束は果たすよ」


アヤネと目が合う。

その眼は……笑っちゃうくらい強い意志が篭った眼だった。


「そう……覚悟は良い?」

「(コクッ)」

「理解った、じゃあ早速構えて」


やっぱり……久々に武器を構えたアヤネは、私の構えを真似していた。隙だらけだよ……でも、ミテクレはだいぶ様になってる。


「手加減するけど、気を抜いたら手脚が飛ぶからねッ!」


金打(キンチョウ)という儀式が、私の故郷にはあるらしい。約束をする時に、その約束を絶対に守ると誓う意味で互いの持つ金属を打ち合わせる行為なんだけど……アヤネと斬り結んでいる今、まさに私達は金打してるんじゃないか──そんな風に思ったんだ。












◇◇◇◇



「瑤華……最近僕に構ってくれないね…」

「…私のベッドに潜り込んでおいてよく言いますね」

「……それは……………べ、別としてさ…明後日から武芸大会が始まって、瑤華は初日から予選でしょ?もっと僕に構ってくれても良いんじゃないかな?」

「……私が、態々ユイナを殺すのを様子見(・・・)してる事を忘れてません?」


むぅ……瑤華の心の壁は思ってた何倍も厚いみたいで参っちゃうね。


「瑤華……そんなに僕の愛の言葉は軽いの?」

「そもそも興味を持たれてない事を自覚して下さい」

「……血を吸ってる時は可愛い顔してるのに…」

「普段が不細工で悪かったですね」

「そうじゃなくってさぁ〜!!」


やっぱり、正体に気付いた事を言っちゃったのが不味かったかな?でも、そういう嘘は吐きたくないし…。


「……もう寝たいんですけど?」

「ホントだ、もう日付変わっちゃう!おやすみ!」

「……自分のベッドに戻って下さい」

「一緒に寝よ?」

「……………セクハラしたら姉妹解消します」


完全に諦めた眼だったけど、許してくれた。

律儀に奥の方に詰めてくれてる辺り、根は優しい子なんだって改めて思う。

……まぁ、他人なんて外面しか見ないから、瑤華はあんまり言い風に言われないけど…。


「……ふふっ可愛い寝顔」


いつもはキリッとしてるのに、寝てる時は少し筋肉が緩んで優しい顔になる。可愛い、もう可愛いしか言えなくなるくらい可愛い。


「おやすみ、瑤華…」


いつまでも見ていたいけど、流石に僕も眠くなって来た……。















多分明け方、僕は隣の騒がしさで目を覚ました。


「うっ……うぅ…ごめ…なさい…………ゃ…ぁ…」

「…今夜もだね……」


瑤華はここ最近、酷く魘される夜が続いてる。

いつも、瑤華が魘される度に僕はベッドから出て瑤華の手を握っていた。

……でも、昨日の夜はそうも行かなかった。

嫌だ、止めて、助けて────頻りにそう懇願して、ベッドの上で藻掻き苦しんでた。だから今日は、最初からベッドに入らせて貰った。苦しむ瑤華を、すぐに抱き締めてあげられるように。


「…助けて……ゃ…やだ………殺して…」

「ッ…!」


……何、それ…。

助けを求めるのに『殺して』なんて言うの?

一体どんな経験をしたら、そんな悲しい事を願ってしまえるの??


「…ころ…して……きらい………んで…わたし………が…」


言わせたくない、聞きたくない…。

僕はいつもより強く瑤華を抱き締めた。

そうでもしないと、瑤華がこのまま壊れてしまいそうだったから……。


「瑤華…、誰がなんて言おうと……僕はキミが大好きだよ……」


今は届かなくて良い、きっと瑤華は満たされてる(・・・・・・)から悪夢を見てる。幸せな自分が許せないんだ。瑤華を守って死んだ師匠、他にも手が届かなかった者……その全てを想う優しさが、瑤華に幸せになる事を許さない。

……だから、僕は待つよ。

瑤華が幸福を享受出来るようになるまで、僕は軽薄な人間を演じ続ける。この夜の事も覚えてなくて良い、知らないまま生きてて良い。


「…………」

「…全く……僕とした事がベタ惚れだなぁ…」


最初は衝動だった。

でも、毎日一緒に居て……瑤華の良い所も悪い所も沢山見付けた。その度に、瑤華の事が好きになる。

瑤華が笑って生きてくれるなら、僕の命だって差し出せるよ。……まぁ、欲を言うと隣に居たいからしないけどね。


「瑤華ッ…?!」


吃驚した……瑤華が僕に抱き締め返してくれた。

…ダメ、ニヤニヤが止まらない……。なんでそんなに可愛いの?ねぇ、どれだけ僕の理性を擦り減らすつもりなの?そろそろ我慢出来ないよ……


















◇◇◇◇



「あ、瑤華ちゃん!」

「結美…、これから鍛錬?」

「うん!瑤華ちゃんも?」

「いや、アヤネの用事に付き合ってる」

「…そうなんだ」

「……」


思わず瑤華の後ろに隠れちゃいました。

結美さんが私に向けてくる視線が……怖くて。


「…じゃあ、また」

「う、うん……」


瑤華が察してくれたみたいで、私達は足早にその場から離れました。







「…それで、話したい事って?」

「……」


私は瑤華に1枚の紙を手渡しました。

そこには、私のステータスが書き写してあります。


「……私が見ていいモノじゃないと思うけど」

『瑤華には、知ってもらいたい事があるんです』

「…理解った」






────────


名前:アヤネ・フラウロス

種族:人間族

Lv:33

適性:無・水・風・闇

異能:«歌姫(ディーバ)»

筋力:6254

敏捷:6395

耐久:5277

持久:5819

魔力:5983


────────




「レベルから考えたら、逸材だと思うけど……でも…」

『私はアーツを使えません。私のアーツは、声が出てこそ使えるモノだからです』

「……そっか…」

『私は瑤華の役に立てません。私みたいな出来損ないが、革命軍に居る資格はありません』


師匠の手が柄に伸びました。


「いつそれを?」

『私、耳が良くて』

『前に結美さんとゲオルグさんが話をしてるのを聞いて、そこから』

「………それで?学校に密告した?」


私は必死に首を振りました。


『してません、この刀に誓えます!』

「…………理解った、今は信じる」

『ありがとうございます』

『でも、私は瑤華みたいに強くないです』

『もう沢山良くして貰いました。役立たずと斬り捨てられても構いません』




──パチンッ!




「ッ!!?」

「……本気でそう思ってる?」

「…」

「私はッ、アヤネが心の底から強くなりたいって思ってたから、どんなに苦しくても諦めないから!技を継いで欲しいって思ったのッ!」

「ッ……」

「…伝わってると思ってた……」


本当は、知ってたんです。

瑤華は打算無しに、純粋に私を鍛えてくれたこと。

……でも、信じてた相手に裏切られるのが怖くて、逃げたんです。信じない方が楽だって…、見捨てられても傷付かないって。

その結果、私は瑤華を泣かせてしまった……ちゃんと伝えないと。謝らないと……ッ!





「──でも、私がアヤネの信頼に値しなかったのは事実でしょ?」


それが、私の謝罪を聞いた瑤華の第一声でした。


「ごめんね…心配ばっかり掛けて……」

『違います!私が悪いんです!』

「ううん……だって、師匠はちゃんと出来てたもん。誰も信用出来なかった私が……心から信頼して憧れるくらい…厳しいけど、ちゃんと私に寄り添ってくれた……」


…私は、踏み抜いちゃいけない地雷を踏み抜いてしまったみたいです。


「……やっぱりダメだね、私…」

「ッ…」


悔しい……私が瑤華に出来る事は、こうやって抱き締める事くらい……。


「……アヤネ?」

「…」

「…アヤネは優しいね……」

「(フルフル)」

「………温かいね、安心する」

「(コクッ)」

「こんな私だけど、もう一度……チャンスをくれる?」

「(コクッ!)」

「ありがと……じゃあ、私もちゃんと伝えなきゃね──」


そうして、私は瑤華の秘密を知る事になりました。

でも、その秘密を聞いても私の気持ちは変わりません。

私は……瑤華の一番弟子として、無縫艶舞を受け継いでいきます。













◇◇◇◇



「……ユイナは、私がユイナを信頼してない事を辛いって思いますか?」

「急にどうしたの?」


私が今日あった事をユイナに話すと、少しだけ笑われた。


「瑤華が素直なんだし、僕も素直に言わせて貰うけど……寂しいとは思うよ」

「ッ…」

「だから、想いが届いたらその分の埋め合わせはしてくれる?」


やっぱり、ユイナは強い…。

私なんかとは……全然違う。


「……悩んでた私が馬鹿みたいですね」

「ふふっ、瑤華はそれくらい辛辣な方が安心する」

「…全く……」

「ふふっ、拗ねないの」


…アリア様との念話を通じて、革命軍が勇者を受け入れる方針を固めた事は知ってる。何なら、見極めが終わったならすぐにでも王都から離脱して良いらしい。

でも私は、王都の内情を調査する事も兼ねて最低でも1年が必要だと進言した。それは半分本心で、もう半分は……私がユイナを信じられないから。

アヤネと違って、ユイナは自分を偽る術を知ってる人。

私がそれを見抜けなかったら、革命軍全員が危機に晒される……私はそれに耐えられない。


「ねぇ……血、吸って」

「…すっかり癖になってますよね?」

「瑤華が相手だからだよ」

「……3日前に吸ったばかりだから、ほんの少しだけですよ」


いつもそう……ユイナは私が考え込んでる時にばっかり『血を吸って』とか『襲わないの?』とか言ってくる。

別に血を吸うの自体は私にデメリットは無いから良いけど……吸った日の夜は、ほぼ確実に夜中起き出して自分を慰めてるのがキツい。自分の名前を呼ばれながらの行為を聞かされるこっちの身にもなって欲しい…。

……私が起きなければ解決かも知れないけど、そう言う問題なのかな?


「──ひうっ!…………本当にちょっと…」

「…………大会が終わったら、好きなようにしてあげます」

「ッ……理解った、今は我慢する……」


私はユイナを籠絡したいだけ、私から離れられなくする為に……私という名のアメをあげるだけ。

そう自分に言い聞かせる事で、内側から込み上げてくる知らない感情を抑え込む。……知りたくない、ユイナのペースに呑まれたくない。私は……自分から堕ちる事を選んだんだのだから……。















最後の方で瑤華の想いがコロコロ変わってるのは、瑤華の精神状態が不安定になってる事を表現したかったからなんですが…多分作者の文才だと伝わってないと思います……。

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