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霧形の獣④


「やっぱりフラグだったか」


思えばあの時そう思った事でフラグを立ててしまったかもしれない。そんな詮無き事を思い浮かべながら俺はその光景を眺める。


タツミと一緒に旅館を出発してから一夜明けた日の昼下がり。昨夜から別行動となっているメイ達からメールが入り、合流と休憩の為に目立つ巨木の下で休もうとした直後にそれはやって来た。


「もうちょっと遅く来てくれれば皆揃ったのに」

「やつらの外見を考えれば、夜襲を受けるよりはマシな気もするがな」


視界の先、黒い点からみるみるその形が浮かび上がるように距離を縮めてくるその姿にリアルが口を膨らませ呟き、岩鉄がハンマーを構えながらそう返す。


「岩鉄のいう通りだな」


確かにあの漆黒の体は、夜の闇にまぎれられたら遠距離からの発見は困難だろう。だが今は真昼間、天気も快晴だ。だだっ広く広がり背の高い草もあまり存在しないサバンナのような見た目のこの辺りの平地では、奴らの黒い体は目立つ事この上ない。おかげで索敵能力に優れたメイが居なくてもあっさりと奴らの接近に気づくことが出来た。


「……数がまた増えてる……」


タツミが呻くように声を上げる。

こちらに向かってくる影は十を超えている、前回俺達が見かけたときの倍以上だ。もっともあの時は俺等が助けに行く間に何体かはヤスツナの力で撃退していたようだが、その上でそれよりも多いという事か。彼の声に驚愕が含まれている事を考えれば、ヤスツナの想定を超えているということでもあるだろう。


やっぱこれ、霧形が想定より力を取り戻しているってパターンだよなぁ。タツミとヤスツナを霧形の所まで送り届けれてはい終わり、とはならないやつだこれ。


まぁ今はそのことを考えても仕方ないか。まずは今降りかかろうとしている火の粉を払わないとな。


「……包囲するみたいですね、これは」


岩鉄に乗っていたフラットが呟く。

こちらに向けて一直線に向かってくるかと思った使役体たちは、こちらに近づくにつれてその群れを3グループに分けていた。中央は速度を落とし、残りの2グループは大きくこちらの左右に広がっていく。


「単純に突っ込んでくる以外の頭があったか」


ある程度の自己判断能力が与えられているのか、最初からそういう作戦を取るように設定されていたのか。何にせよ広がられたのは面倒だな……俺の一撃で一気に数を減らすという訳にはいかなくなった。


俺は、背後にいる皆に指示を飛ばす。


「岩鉄、左はお前が吹き飛ばしてくれ。右手はフラットが<<イジェクションウォール>>で時間を稼いで」

「了解だ」

「了解しました」

「リセ、あたしは?」

「リアルは俺か岩鉄側の攻撃をすり抜けた奴の処理を頼む」

「うん!」


フラットの<<イジェクションウォール>>は強力だ。相手を倒す事はできないが確実に距離をとる事ができるから時間を稼げる。さらに大きく散開されると面倒だが、それならそれで時間も稼げるからな。


「「コネクト:<<エンチャントエナジ―>>」」


岩鉄とリアルが同時にスキルを宣言する。武器に無属性の力を付与したのだ。使役体はエネルギー体のように実体を持たないエネミーの可能性があるので、普通の武器では攻撃が通らない可能性がある。事前に話し合っていた、その対策だ。


「あの、僕はどうすれば?」

「タツミは俺達全員の後方になるような位置にいるようにしてくれ。あとフラット頭の上にのせてて。もし突破されたらヤスツナの力で身を守ってくれ」

「頭の上ですか?」

「その方が周囲を把握しやすいから」

「わ、わかりました!」


とりあえずフラットをタツミに貼り付けておけば、突破されても<<プロテクション>>や<<ヒーリング>>が即座に使える。ヤスツナの防衛までも突破されても致命傷を喰らうようなことは無いはずだ。

タツミは協会登録の探索者じゃないからパーティには組み込めないため、対象スキルを使用する際にはきっちり目標指定する必要があるからな……。


タツミは俺の言葉に頷いて、フラットを抱え上げると自分の頭に乗せた。


よし、これでこちらの準備万端だ。そしてあちらさんの準備もな。


三方向に展開した使役体たちが、こちらに向かってタイミングを合わせて駆けてきている。その距離は

およそ50m前後。


すなわち俺の射程内だ。


開戦の口火となる一撃を、俺は宣言した。


「コネクト:[樹氷の森]!」


前回の遭遇時と同様に行使された俺のスキルにより、地表から次々と氷の棘が生み出されていく。ギャンッ、という叫び声と共に先頭を走る黒い姿がその波に飲まれ、その後ろの姿も氷の棘の森の中に消えていく。その漆黒の肉体は白い氷に貫かれ、ずたずたになっていく。だが……


「タイミングをずらされたな」


俺の正面から向かってきた使役体は全部で5つ。内3つは突き立つ氷の棘の中のオブジェクトと化した。が残り2体はその氷の棘を飛び越えて、こちらに方へ駆けてくる。


クールタイムがあるから[樹氷の森]、というか<<アイススパイク>>は連発できない。<<ブロウイングウィンド>>で吹き飛ばすかとも考えたがシード達がいない現状、正面の相手に時間は掛けたくない。ならば、と頭の中のスキルリストから次のスキルを選び出そうとした時に背後で声が重なった。


「コネクト:[鬼神の衝撃]」

「コネクト:<<イジェクションウォール>>」


同時に左側から轟音と空気の震える感触が届く。岩鉄のスキルの効果だ。

一瞬だけ左右に視線を散らす。右側は4匹、<<イジェクションウォール>>に押され全部が押し戻されていく。右側は2体……岩鉄の一撃で2匹消し飛んだか。ならば──


「リアル、岩鉄側を!」

「あい! コネクト:[疾風迅雷]!」


結果は確認しない。二人に任せておけば左側は問題ない。ならばとっとと正面を片付けて、右側の相当へ移る!


これまでの結果から、こいつらを滅ぼすのにそこまでの火力がいらないのはわかっている。ならば、と俺は選択したスキルの名前を叫ぶ。


「コネクト:[流星槍]!」


俺の叫びに呼応し、俺の周囲に無数のエネルギーの槍が出現する。その数は数えるまでもなく80本だとわかっている。元のスキル<<<エネルギージャベリン>>の効果で4×10本、それを<<ディフュージョンⅡ>>の効果で更に倍だ。そして俺は右手を握りしめ、こちらへ向かってくる使役体の内の1体に向けて突き出す。


その腕の動きに呼応して、80本の槍がその角度を変えその尖端を使役体に向けた。


狙い……よし!


「6、7、8!」


俺が数字を唱えると同時、8つのグループの内の右側に位置した3グループが立て続けに射出され──高速で飛来した小ぶりなエネルギーの槍たちは、横殴りの雨のように使役体の一匹を連続して打ち付けた。


「ギャウンッ!」


合計30本、その内の半数以上の打撃を受けた使役体は駆けてきた勢いのまま崩れ落ち地面に転がり……そして動かなくなった。


よし! <<エネルギージャベリン>>は命中精度が高い代わりに威力がかなり低いスキルだが、<<エナジーエキスパート>>で強化してやればこいつらには充分な威力だ。ならばと俺はもう一匹の方へ腕を向けて、


「1、2、3!」


今度は左側の3グループが射出され、同様に使役体は地面にその体を横たえた。


──これで正面は片付いたか?


まだ消失はしていないから安心はできないが、少なくとも最初に氷に貫かれた3体はすでにその身が黒い粒子に変わり始めているから問題ないだろう。念のため、残りの2グループをいつでも射出できるよう構えたまま、俺は視線を左に振る。


向けた視線の先には、すでに動いている使役体は存在しなかった。リアルと岩鉄の足元にすでに粒子化を始めている使役体が一体ずつ転がっているので、残った二体をそれぞれ一体ずつ片付けたようだ。


これで戦局は決まったな。とはいえまだ休むわけにはいかないが。

倒れた2体の粒子化が始まったことを確認し、俺は体を使役体の方に向けて声を張り上げた。


「さあ、あとひと踏ん張りだ! 行くぞ!」



・各コンボスキルについて

[流星槍]

<<エネルギージャベリン>>+<<エナジーエキスパート>>+<<ディフュージョンⅡ>>


・各スキルの効果について

<<エネルギージャベリン>>

1グループあたり10本の小型のエネルギーの槍を4グループ周囲に生成する。

生み出された槍は即座に発射されず、設定したキーワード(リセはわかりやすいように番号設定)を告げる事で利き腕を向けた方向に向けてグループ単位で射出される。

射出後の速度も速いため命中率も高いが威力は低め。


<<エナジーエキスパート>>

組み合わせた無属性の魔術スキルの威力を強化する。コンボ専用。


そろそろ一度各キャラのスキルをまとめたページを作成します。

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