霧形の獣②
「そういうことだろうなぁ……いろいろとわかりやすすぎるし」
俺はメイの言葉に同意した。内容があっさりと予想できた通り、展開がわかりやすい。
過去の話はちょっとした物語から引っ張って来たのかといえるくらいよくある話といえるし、それが現代に蘇ったというのも物語の展開としては見かける話だ。そしてそれを倒すのに特殊な武器が必要なのもわかりやすい。ただその武器がプレイヤー側で使えないというのはちょっとイレギュラーだが……先ほどメイが言った通り、そこは護衛を目的としたクエストなんだろう。
「内容的に、この件の背景になる事柄に関してはゲームデータとして準備されていたと考えた方が妥当よね」
「これまでこの世界を見てきた限りではそう思えるな」
シードの意見に頷く。
勿論クエストなどのベース設定も何もなく起きた出来事の可能性もあるとは思うが、この世界が完全な異世界ではなくアルテマトゥーレというゲームを元にした世界な以上、用意されていたイベントとした方が考えやすい。
そう思うのは理由があって、これまで暇な時間にこの世界の事について調べてみたところ過去に関する事は大体元々用意されていた設定か、その設定の延長線上もしくは補填されたと思われることばかりだったのだ。なので少なくとも過去の設定に関しては無から発生したとは考えづらい……というか完全に無から発生したと思える過去は少なくとも俺達は見かけていない。それでいてメインの大きな流れにつながるような話でもないから、サイドストーリー的な何かだろう。
「ただ言えるのは、この話が元々用意されたものだったとしても、この世界でタツミがここまでやってきているのは自分の意思だし、親御さんや村人が傷ついたことを悲しんだり心配していることも最早ただの準備されたテキストじゃないってことだ」
この世界の元プレイヤー以外のの住人達は、最早ゲームの中の魂のないプログラミング上の存在ではない。魂のこもった、自分で考えて行動する俺達と同じ人間だ。そんなのはこの世界で数ヶ月生きてきた中で接した人たちを見ていれば骨身に染みてわかる。
タツミが一人でここまで来たのはだって理由は想像がつく。
一つに頼れるべき両親や村の人間がそもそも被害にあって動ける状態ではないこと。二つ目に苗床とされた両親や村人にタイムリミットが想定されること。そして三つ目だが、ヤスツナの声が他の人間に聞こえない事で協力を求めようにも時間がかかること。後は予測だが……ヤスツナが融通が利かない存在な気がするんだよな。
なんにしろタツミの行動は用意されたものではなく、彼自身の意思によって行われたことのはずだ。ベースになっている性格自体は元が設定されたものだとしても。
「それにゲームの世界だったら今断って後でクエストを受けるとかできたけど、今もしそれをやっても後でクエストの受け直しなんかできないよね」
「もしここで俺達が断った場合は、タツミは恐らく……だろうな」
シードの言葉に続けて口を開いた岩鉄は肝心な部分を濁して言葉にしたが、皆その濁した部分にはまる言葉は想像がついているだろう。
「僕たちは、こういったことをゲームの中の出来事だと割り切れないくらいにはこの世界の事を知りすぎてしまいましたね」
フラットが天井を見上げ、呟くようにいう。その声の調子にはある種の諦観を感じるものがあった。
見回せば、全員が恐らくある事を決断したような表情を浮かべていた。そしてそれが何を意味しているかわかるくらいには俺達は濃密な時間を過ごしてきている。
だから、俺は言った。自分の考えていることを。
「正直な、知らないところでピンチに陥っている人間を助けに行く気なんて俺にはない。俺達は正義の味方でもなんでもないからな」
だけど
「目の前に危機に陥ってる人間がいて、それを助ける力があるのにスルーができるほど強靭な心を俺は持ってねぇわ」
メンバーの安全を考えれば、スルーするのが一番だ。だけどそうしたら心には重いものがずっと残り続けるのは間違いない。そしてそれをずっと抱えて生きていけるほど俺は心が強くない。
「だいたいこの一件、タツミは完全に被害者だ。本来ならタツミがしなくていい使命を、彼は背負わせられている」
そして俺は拳を握りしめてを言った。
「俺はそういう話は好きじゃねぇんだよ」
「うん、知ってる」
吐き捨てるように言った俺の言葉に、メイは嬉しそうに笑う、
そしてシードも同じように笑い
「リセはそうだよね。物語ですらそういうところあるの嫌がるのに、目の前の現実を見過ごせるわけないよね」
付き合いが長い二人の言葉に思わず苦笑いが浮かぶ。ただそれは嫌な感じのものではなかったけども。
「いいんだな?」
俺の言葉に、メンバー全員が頷いた。
「よし。ギルド、ブリッツシュトラールはこのクエストを受注するぞ。クエスト内容は”少年の手助けをし、霧形の獣を撃ち滅ぼせ”だ」
「クエスト報酬はないけどね~」
「報酬は”完遂すればスッキリした気持ちでこの世界で生きていける”じゃない?」
「ささやかな報酬だな」
メイがおどける調子で言った言葉にシードがそう返し、岩鉄が小さく笑って頷く。
「リアル、すまんな。霊峰ヒナタの観光は少し後になりそうだ」
「うん。スッキリしてから皆でのんびりいこ! あ、そういえばさ?」
「どうした?」
ん-と考え込む様子をみせてから、人刺し指を口の端に当ててリアルが言う。
「これから、霧形の獣ってのと戦うわけだよね?」
「そうなるな」
「そうすると霧形の獣の能力って不味くない? 攻撃喰らったらアウトなんでしょ?」
「いや、どんな攻撃喰らっても無条件ということはないでしょうね。そもそもタツミ君が深くはないとはいえ傷を受けた形跡がありましたし」
少々心配げな顔のリアルに、フラットがそう答える。その意見には俺も同意だ。
「恐らく一定以上のダメージを負っている相手に使用できる特殊能力なんだろう」
「HPを吸収するって能力だけで考えればレイスみたいにHPドレインしてくるエネミーもいるしね」
俺の言葉に続けたシードのいう通り、アルテマトゥーレには元々HPを吸収して自分の力にしてくるエネミーは元からいる。例えば今名前が出たレイスの場合は生命エネルギーを吸収しそれを攻撃の為のエネルギーに転用して攻撃してくるから、それと同種の力だろう。
「問題は眠ったままになるという効果ですね。それが僕達プレイヤーにまで適用されるかどうか。目が覚めないというのを考えると通常のバッドステータスではないでしょうから、僕のスキルでは回復しない可能性高いですよね」
「正直プレイヤーとNPCの垣根はなくなっている気がするし、効果受けてしまいそうな気がするな。試すわけにもいかないしとにかく大ダメージを受けないのが前提になりそうだ」
「だとすると、事前準備とか戦術も重要になるわよね。まず護衛対象のタツミ君を守りきらないといけないし。そういうことだったら……」
シードの言葉を皮切りに、全員がいろいろと意見を出していく。
その雰囲気には懐かしさを感じる。ゲーム時代、難敵を攻略する時によくあった雰囲気だ。ゲームの時の気持ちを思い出させる。
勿論、今がゲームじゃないしミスることはできないことは理解している。だからこそゲーム時代よりも皆の会議に熱が入っている気がする。特にゲーム時代はあまり意見を言わなかった岩鉄やリアルも今は率先していろいろ提案していた。
そうして、ある程度の方針が決まった頃、スキルで隣室の様子をモニタリングしていたメイが俺達に告げた。
「タツミ君、起きたみたい」
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隣室に移動した俺達は、霧形の獣の討伐に手を貸す事をタツミに告げた。
タツミはこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはとか、報酬を用意できないと年齢に見合わないことを言っていたが、俺が彼に視線を合わせて見捨てる方が気分悪くなるからいいから守らせろと身も蓋もない言い方をしたら申し訳なさそうな顔をしつつも俺達の同行を受け入れた。
この子は少々真面目過ぎる。こんな難事、本来この年齢の子供が一人で抱え込むような内容じゃない。大人に泣きついてなんとかしてもらっていいレベルだ。
だから、これからは安心していいとタツミに対して言ってやる。俺達は強いからきっちり守ってやると。そして俺は彼に向って手を伸ばし
「これまでよく頑張ったな」
そうやって、頭を撫でてやる。
それが最後の一手となり、タツミの感情が決壊した。
これまで目を潤ませることはあっても泣き出す事はなかった彼の瞳から次々と大粒の涙が流れ出し、その口からは嗚咽の声が流れ出す。
俺はそのまだ小さな体を抱きよせて、頭を撫で続けてやった。少年がこれまでため込んだものを涙で洗い流し終わるまで、




