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タツミ


露天風呂の脱衣場でひとまず水着から着替えた俺達はそのまま少年を抱えて旅館へと戻り、まずは旅館の人間に事情を説明した。

それから少年のボロボロになった服を着替えさせ、汚れた手足を蒸しタオルでぬぐい取ってからひとまず男性部屋で寝かせる事にした。(着替えは俺と岩鉄で担当した)


傷に関してはフラットの<<ヒーリング>>で綺麗に治っているし、やつれは見えるが苦しそうな様子もない。呼吸も落ち着いていることから目が覚めるまでしばらく様子を見ようということになった。ちなみに時間が経過して力が抜けたのか着替えさせる時に刀は抜き取ることができたので、今は彼の枕元に置いてある。目が覚めた時に目に入るところになくて混乱されても困るしな。


とりあえずそこで一段落。目が覚めたときのために誰か一人は必ずついておくことに決めてから、俺達は交代で風呂に入ることにした。


何せ露天風呂は結局数分しか入っていられなかった上、水着で駆け回ったせいで体が冷えてしまっている。眠っている子供を大人数で見守る必要もないので、我々も体を温めようとなったわけだ。さすがに距離の離れた露天風呂ではなく旅館内にある内風呂の方にはしたが。


とりあえずまずは女性陣3人。それから男性陣2人。そして最後に俺という順番にした。単純にまとめて入れる人数が多い順だ。俺は女性陣に誘われたが、それぞれ体を洗いたいというところもあったので丁重にお断りして、ひとまず俺が少年の様子を見守る事になった。


少年は、穏やかな表情で眠り続けている。

年の頃は10歳前後。瞳の色はわからないが髪は黒で着ている恰好からしてもこのアズマの住人のようには見える。一応旅館の従業員にも聞いてはみたが、この辺りで見かけたことがある人間はいないとのことだった。


体に関しては脱がして旅館の浴衣に着替えさせる時にみたが、別段痩せぎすという感じではない。傷だらけでボロボロになってはいたが着ていた服の質も悪いものには見えなかったので家なき子というわけでもないだろう。


そんなことをいろいろ考察していたら、気が付いたら俺の番に風呂が回ってきていた。想定より早かったので気を使って早く上がらせてしまったかとは思ったが、もう一回入りなおしてきてくれというわけにもいかず、素直に入らせてもらうことにした。


室内の、それでもそれなりに広い風呂に浸かってしばらく後。


とりあえずきっちりと体を温め、洗った髪を乾かしながら部屋に戻ったところ、丁度少年が目を覚ました。


少年は目を覚まして体を起こすと慌てた様子で周囲を見回し、刀を見つけると大事そうに抱き寄せた。それから俺達の方にようやく気付き、何かを言おうとして──


その口から言葉が発せられるより前に、豪快に腹の虫が鳴いた。


そのあまりにも見事に響いた音に顔を赤くした少年に俺達は苦笑し、ひとまず食事にしようかと提案した。その提案に少年はなにやら渋るような気配を見せたが、彼を襲っていた獣たちは全て殲滅したことを告げると彼は安堵の表情を浮かべ俺達の提案を受け入れた。


丁度飯時だったため少しだけ早めに旅館の方に部屋に食事を運んでもらい、一緒に食事をとることにした。少年は最初は遠慮がちだったのだが、よほど空腹だったのだろう。こちらが遠慮せず食べる事を進めると、やがてがっつくように食べだした。その目が潤んでいるようにも見えたが触れる事はせず、俺達も少年と一緒に箸を進めることにした。


そして。


食事を終えた少年は俺達が全員食べ終わるのを待って、大きく畳にこすりつけるようにして頭を下げた。


「助けていただいてありがとうございます。それにお食事まで頂いて……」

「とりあえず、頭を上げてくれるかな。ええと、まずは名前を聞いていいかな?」

「あ、はい」


少年は体を起こし、居住まいを正して答えた。


「タツミといいます」

「タツミ君ね。ええと、俺達は……」


俺の方から全員の名前をざっと説明する。少年はそれぞれ名前を聞くごとに小さく頭を下げていた。

そして全員の紹介を聞いた後、改めて大きく頭を下げる。


「本当にありがとうございました」

「無事に助けられてよかったよ。それで、なんであの獣たちは君を追っていたか聞いていいかい? あとアイツらが何なのかも」


単刀直入に問いかける。

アイツらが普通の狼なら単純に縄張りに入った獲物を追っていただけだったろうが、消失の仕方を見るに明らかにまっとうな獣ではなかった。それに敵意を見せたこちらを相手にせず真っすぐにタツミと名乗った少年だけを狙っていた。

勿論彼が何も知らない可能性もあるが、エネミーの特異性や大事に抱え込む刀から俺はあることを予想していた。


「それは、ええと……」


少年が言い淀む。どうやら何も知らないというわけではなさそうだ。

俺が無言で彼の瞳を見つめると、少年は手に持った刀を抱き寄せて視線を落とした。


言いづらい事なのか。その場合はどうするか等と考えているとタツミ少年は何故か刀を見たまま2、3度頷く様子を見せ、それから顔を上げた。その表情には先ほど言い淀んだ時にあった惑いが消えている。


「ヤスツナが話していいと言っているので、お話しさせていただきます」


ヤスツナ? 人の名前か?

俺達が疑問を得ていることを感じ取ったのだろう。少年は手に持った刀を前に突きだし、言った。


「この刀がヤスツナです」


刀がヤスツナ? ……銘がヤスツナということか。ゲーム時代に作られた設定なら元ネタは童子切安綱か鬼切安綱か? まぁそんなことはどうでもいいか。それよりもだ。


「今、君はそのヤスツナという刀が話していいと言ったと言ったね?」


俺の問いに、少年が頷いた。


「はい、僕にはヤスツナの声が聞こえます。……あの、やはり皆さんには聞こえませんか?」


俺には少なくとも何も聞こえなかった。念のため他のメンバーの顔を見回すが、全員無言で首を横に振る。


「……聞こえていないみたいだな」

「そうです、か……」


タツミ少年が視線を落とす。が、すぐに顔を上げ──


「あの、まずは信じてもらえないでしょうか。その、これから話す事は僕もヤスツナから聞いた話なので、そこを信じてもらえないことには」

「ああ、信じるよ」

「えっ?」


あっさりとした俺の答えにタツミの目が見開かれる。多分自分で言いながらも信じてもらえると思っていなかったんだろう。


「本当に、信じてくださるんですか?」

「ああ。みんなもそうだろ?」


俺の言葉に、リアルとメイが即座に頷いた。シードと岩鉄は若干怪訝そうにはしていたが同様に頷く。フラットはよくわからん。恐らくリアルは素直に信じたと思うが、メイの方は俺の意図を読み取っての反応だろう。


俺自身、タツミの言葉を100%信じてはいない。嘘というより、彼の妄言、妄想の類の可能性もあるからだ。たがひとまず信じたことにしないと話が進まないし、なによりここは元の俺達の住んでいた場所とは異なるファンタジー世界だ。俺達の世界で刀が喋るなんて話を聞いたらそのまま精神病院に連れていくことになるが、ここではないとは言い切れない。


それに、俺は一つの可能性を見ている。

それは、これが実装予定だったクエストの可能性だ、このアルテマトゥーレの世界、すでに誰かが攻略済みだったクエストは世界全体として攻略扱いになっているらしく、実装済みのエリアでこういったクエストイベントが確認されたことはないが、アズマはこのアルテマトゥーレが異世界になった時点では未実装だった地域だ。なのでまだ誰も攻略していないクエストが、実装予定だった内容に沿って発生してもおかしくない。


何にしろ、まずは一通り話を聞いてから判断することだろう。


ただその予想が当たりだった場合、この後しばらく長期拘束になるんだよなぁ……

まぁ関わってしまった以上、仕方ないか。俺は心の中で覚悟を決めて、タツミに向けていった。


「それじゃあ、そのヤスツナに聞いたという話を教えてくれ」







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