これからの事を考えよう
グレンの一件が片付いてから3日後。
さまざまな事が片付き、しばらくは穏やかな日々を過ごしているかというと、そうでもなかった。
別に新たな事件が起きたとかそんな話じゃなく、長期にかけて家を空けていたことによる問題が発生しただけだ。
そう、掃除や片付けに洗濯、買い出しである。
繰り返すが最早この世界はゲームの世界ではなく現実だ。旅に出てからおよそ二十数日空けていたギルドハウスの中は人がいなかったとはいえ埃が積もっているし、グレンの襲撃を受けた時の対策としていろんなものをインベントリにぶち込むために動かしたから猶更だ。帰って来た当日や翌日はさすがにあの状況だったので掃除も全く手を付けていないしな(風呂だけはやったけど)。
そして、そのインベントリの中のモノも引っ張りだして整理しなければならなかった。アレはギルドハウスにいる分には丁度いい物置として使えるかもしれないが、いかんせん今は必要なものばかりが突っ込まれている。それなりの広さはあるとはいえかなり乱雑に突っ込んだので、そのままだと不便なことこのうえない。
ということで、あの日の翌日(結局あの日はだいぶ遅い時間まで寝てしまい、風呂に入ってからもう一度寝た)の朝方、皆に朝食を振舞いながら俺は全員にそれを宣言した。
メイが一日くらいは休まない?といってきたが、俺はこの手のことは先に片付けないと落ち着かないタチなのでギルマス権限で強行させてもらう事にした。
まず一日目。
最優先の事をこなすために、ひとまずメンバーを二つに分けて家事をこなすこととなった。
一つは買い出しチーム。旅に出る前に当然食料品は全部処分していたし、インベントリの中に格納していた食料品もほぼ尽き欠けていたのでこれは最優先だった、担当メンバーはメイ、リアル、岩鉄。買い出しメモを作って持たせて村へと向かわせた。
拡張インベントリがあるから運ぶのは一人でもできるが、村の中でぽんぽん使うわけにもいかないし買う分量もあるので肉体派の連中を派遣である。
もう一つは洗濯・掃除チームで、こちらは俺、シード、フラットが担当だ。
といってもひとまず掃除はフラットに任せ(あの形状なのにフラットは掃除が上手い)、俺とシードは洗濯専念だ。なにせ分量が多い。先日まで身に着けていた装備品は勿論の事、旅先で着て洗濯屋に回せずインベントリに突っ込んでいたものもあるし、ベッドのシーツやタオルケットも一度洗濯したい。しかも洗濯機なんてものは当然ないので全部手洗いだ。大仕事である。
……あとうちの女性陣、容赦なく俺に下着とか迄洗濯物ぶん投げてくるのなんなんですかね。一応こっち中身男なんだけど、普通はその辺は嫌がるもんじゃないの? 今や自分自身も身に着けてるものだから俺自身は特に何も感情わかないんだけどさ。どこかでちゃんと俺が男だとわからせた方がいいのでは。
……言っても無駄な気がしますね。
閑話休題。
さすがに分量が分量だったためシードにも手伝ってもらい、全部を干し終わるころには昼を回っていた。そこから残り僅かな食材で昼飯を準備したところで帰って来た買い出し組と昼食を取り、午後は全員大掃除。共用スペースを中心として分担分けした掃除箇所を終えることにはすでに陽が暮れかけていた。掃除とか本気で根をつめてやるとすごい早く時間が過ぎるよな……
あとこの日アレスタさんから連絡があった。
用件としては俺の要望が概ね協会に通りそうだという報告だった。これで完全に一安心ってことになるかな?
そして二日目。
この日は特筆すべきようなことは何もなかった。何せ全員自室に引きこもったからだ。
勿論喧嘩したとかそういったわけではなく、自室の掃除とインベントリの整理の為である。これがまぁ大変だった。旅先から持って帰った荷物だけだったらそんなでもなかったのだが、グレン襲撃対策でぶち込んだものが大問題だった。せっかく退避先があるのだからと何も考えずに片っ端から詰め込んだせいで引っ張り出すのも大変なら元の位置に戻すのも大変である。ついでに模様替えもするかなんて余計な事を考えちゃったもので地獄を見た。俺が終わるころにはみんなとっくに終わって自分の時間を過ごしてましたね。
で、三日目、本日である。
とりあえず周囲を巻き込んだ俺のしたかったことは二日間でひとまず完了したので、この日をようやく休息日と決めた。特にすることは何も決めずに思い思いに過ごす感じだ、
最も、初日の朝に俺が出しておいた宿題のようなものの回答次第では今後は当面そんな状態が続くんだがな……
昼下がりの午後。昼食後に焼いたクッキーと旅の途中でこっそりと買っておいた茶葉で入れた紅茶を用意して皆を食堂に呼び寄せた俺は、それぞれにそれをサーブした後話を切り出した。
「一昨日した話の件、なんか思いついたか?」
問には全員が頷いた。いや、スライムだけはよくわからん挙動したな。どっちだ。
でもほぼ全員考えてくるとは思わなかったな。
俺がみんなに考えてくれと言ったのは、”今後やりたいこととか考えて欲しい”だった。先程宿題なんて言い方はしたが、別に必ず考えてきてくれなどということではなく、思いつくようならレベルの話だ。何せ別にそこまで焦って決めなくちゃいけないわけでもない。
ただ俺達は大きな目標を失ってしまった。これから先の事はまっさらと言える。
ここ一か月近くは密度の高い日々を送ってきたし暫くはまっさらのまま怠惰な日々を過ごすのも悪くはないのだが、誰かにやりたいことがあればそれに合わせて動いた方がメリハリもつくだろう。そう考えて提案したんだが……これは嬉しい誤算かな。
よし、それじゃ一人ずつ聞いていってみるか。
1人目、リアルの案。
「村の方でさ、レストランみたいなの開こうよ! リセがシェフでさ、あたしたちが店員するの!」
「いやいや、さすがに金をとって提供するようなレベルじゃないぞ俺の料理は?」
「えー、すっごくおいしいよー?」
リアルは本当にいい子だなぁ。ただ、
「あと流石に料理は仕事にしたくはないかなぁ。俺はあくまでみんなに食べてもらえれば充分だよ」
「そっかー。じゃあママの料理はあたしたちが独占だね!」
本当にいい子だなぁ!ただママはやめてね?
2人目、シードの案。
「このギルドハウスを改装してさ、温泉旅館とかにしてみたりする? せっかく立派な温泉が付いていることだし」
「この辺り目立った観光資源もないし、客こないんじゃないか?」
「えっと、そしたらこの辺り一体を一大リゾート地として開発するとか」
「……話が大掛かり過ぎる」
「後は女将のリセの魅力でなんとか」
「俺が女将かよ! 後とある理由からこの案は却下だ」
「とある理由って?」
「俺が好きな時に風呂に入れなくなる」
「あ、はい」
3人目、メイの案。
「メイちゃん考えたんだけど」
この出だしですでにろくでもない案な出てくる気がしたが、一応そのまま聞く。
「この世界、娯楽が少ない気がするのよね」
「そうだな」
まぁ現実世界に比べると圧倒的に少なくなるのは仕方ないだろう。あちらの世界にあってこちらの世界にないものが多すぎる。
「そこでアイドルですよ!」
「……はい?」
「リセねぇが美少女アイドルとしてデビュー、歌にダンスや演技などで荒んだこの世界の住人を癒し、いずれは世界的アイドルに!」
脳みそ沸いてるんじゃねぇのか。後この世界の住人が荒んでるとかいうな。
「そうすると、私たちはプロデューサーということになるのかしらね?」
シードも乗るな乗るな。
俺は嘆息し、二人に言ってやる。
「そういう事やりたいならメイ、お前がやればいいだろ。それに歌ならシードが上手いんだからシードもやればいい」
「えーやだー」
「私を巻き込まないでくれるかしら?」
おい待てコラ。
4人目、フラットの案。
「いやぁ、僕は特に何も浮かんでなかったんですが今の皆さんの話を聞いて一つ思い浮かびましたよ」
「よし却下だ」
「いやいやいや! まずは聞いてくださいよ、妙案です」
この流れで思いついたって完全にロクでもない気がするんだが……まぁ聞くだけ聞いてやるか。
「いいだろう、言ってみろ」
「では……私はTS美少女メイドカフェを提案します」
フラットの口から出たワードに、一瞬俺の思考が停止する。それに構わず、熱を込めてフラットはそのまま語り始める。
「内面は強く男性のままの美少女、リセさんがメイド服姿でお出迎え!自ら作った料理を持ち恥じらって赤面しながら、震える声でご主人様お召し上がりくださいと提供! 羞恥心に染まるその姿の愛らしさに……」
俺は席を立つと、無言でフラットをつかみ上げる。
「あれあれまだ話の途中なのにどうしたんですか?」
その言葉には答えずに俺は窓を開けると大きく振りかぶり
「外で頭冷やしてこいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
若草色の饅頭を全力で外へと投げ捨てた。




