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我が家(異世界)

うちのギルド、ブリッツシュトラールのギルドハウスは2階建ての大きな洋館だ。


とある村の外れに建てられた洋館は、生い茂った森の中の開けた場所にたっている。本当はこのロケーション+湖がある場所が良かったのだがさすがにそこはハウジング可能地域として競争率が激しく、敗れて選んだ次善のロケーションだ。このロケーションでなおかつ村が近いというのが決め手だった。


「ただいまー……」


ファンタジー的にはあまり飾り気のない、ただ現実の自宅の扉と比べたらあまりに豪奢な扉をゆっくりと開けて中を覗き込む。


「なんでそんなおそるおそるなの?」

「いやなんとなく」


なんというか、ゲームよりも実在感が増してる気がしてなんか腰が引けるんだよな。庶民か。庶民だよ。


まぁ建物の中、エントランスの見た目はいつもの通りだ。ウチのギルドハウス、共有部分には金かけてないからわりとこの辺り殺風景なんだよな。

そうやって周囲を見渡していると、2階から一つの人影が降りてきた。

その人影はこちらと目が合うと、その表情を一気にほころばせ、階段を2段飛ばしに降りて駆け寄ってきた。そのままの勢いで飛びついてきたのを俺はその体を受けとめる。


あ、例の服は途中でシードに買ってきてもらった奴に着替えました。下着履き替える時になんともいえない気分になったがな……


「リセ、お帰り~」

「おう、リアルただいま」

「リセにも抱き着ける!感触がある!すごーい!後お声が可愛くなってる!」


抱き着いた少女──ギルドメンバーのリアルがこっちの体をぺたぺたと触ってくる。

まぁ当然っちゃ当然だが、現在のVR機器に触覚のフィードバック機能ないしな。

あと、そういえば声もか。


「シードもそうだが……声変わってないんだな」

「リセは随分可愛い声になっちゃったわね」

「元の性別と変わらない場合はそのままなのか……?」


シードもリアルも女性アバター使用の女性プレイヤーだ。多分。直結でもない限りわざわざ確認するまでもないので本当の所はわからないが、声は確実に女性のものだったんでそうだと思っていた。まぁ世の中両性類やら高性能ボイチェンとかあるから確実ではないけども。


「フラットも岩鉄もそのままだったし、そうじゃないのかな?」


言外に自分が女性であることを肯定する形で、リアルが言ってくる。ぐりぐりと顔をこすりつけてくるのがこそばゆい。元々子供っぽい言動の多いリアルがだ、そこらへんを超えて小動物みたいになってないか?可愛いけど。


「でそのフラットと岩鉄は?」

「多分食堂にいると思うよ?」


引っ付いたまま、リアルが1階の扉を指さす。あの先は共有スペースである食堂だ。


「とりあえず食堂に移動しましょうか。リセも疲れてるしだろうし少し休みたいでしょ?」


引っ付いたままのリアルをやんわりと引きはがしながらのシードの言葉に、俺は頷く。

<<フライト>>のスキルを使用した消耗だろうか、少々倦怠感があることは事実だ。


「いろいろ話したいこともあるけど、座りながらね」

「そうだな」


エントランスから食堂へつながる、扉を開くと、やはりそこには見知った食堂があった。


そこでは、一人と()()が会話をしていた。というか一匹が一方的に話しており、一人の方はただ無言でうなずいているだけだったが。


その一匹──若草色の饅頭みたいな外見の生き物に、俺は声を掛けた。


「お前、()()姿()のままなのかよ、フラット」

「おやリセさん。お帰りなさい」


こちらに背を向けていた饅頭──まぁこの世界におけるスライム系モンスターって奴なんだが──が、こちらを振り変える。

この世界のスライムはどろどろの不定形な奴ではなく、こいつみたいな饅頭みたいな姿が基本で愛嬌のある顔もついている。確かグッズとかも販売されているマスコット的な奴だ。ただ弱いわけではなくて割と凶悪な性能なのもいるけど。


「僕はログアウト時点でこの『転身』した姿でしたからまぁそうなるでしょう。おやところでリセさんは昨夜と衣装が変わってますね。イメチェンですか?」


気にするな。


この饅頭もうちのペットとかではなくギルドメンバーの一人だ。といっても最初からこの姿をしていたわけではなく(そもそもアルテマトゥーレは初期指定可能種族は人間しかない)、とある条件を達成すると実施可能な『転身』という別の種族の姿になれる儀式によって、姿を変えている形になっている。この姿のもとになっている「アンプスライム」のスキルがくっそ有能なので最近人の姿を捨ててこの姿になっていた。


「岩鉄も、ただいま」


饅頭──フラットの背後にいた男が無言でこくりと頷く。

明かに肉弾戦タイプの筋肉質で椅子がやや小さく見えるのこの男が岩鉄。やはりうちのギルメンだ。殆どしゃべらないが無言勢というわけではなく、必要最低限しか喋らないタイプだ。


「後はっと……」


周囲を見渡すが他に人影はいない。


「他の連中はまだ戻ってきてないか」


内は小規模ギルドだが、それでも一応ある程度にアクティブといえる奴らはここにいる人間含め全部で12人いる。まぁ遠くの地域に遠征している奴もいたし、ギルドハウスにとりあえず戻るという考えが浮かんでいない奴もいるか。


そんなことを考えていると後ろにいるシードから声がかかった。


「あー……リセ、それに関してなんだけど?」

「うん」

「ウィンドウ開いて、ギルドメンバーのリスト見てみて」


うん?


「まいいいか……コネクト:<<ウィンドウ>>」


開かれたウィンドウの中からギルドのタブに移動してメンバーリストを確認する。


「……あれ?」


表示されているのはマスターの俺、サブマス表示のシード、他にリアル、フラット、岩鉄。ここにいるメンバーだけだ。本来ならログインしてなくてもオフライン表示になるだけでリストには表示される……というかログイン状況のステータス表示がなくなってるな。


「どういうことだ……?」

「あー……おそらくの推測でしかないのですが」


若草色のスライムが微妙にその身をぷるぷると震わせながら言う。


「荒唐無稽な話ではありますが、僕たちがアルテマトゥーレのゲームの中に取り込まれた、或いはアルテマトゥーレの世界は実在していって異世界転移をしたと仮定して。彼らはこちら側に来ていないのではないでしょうか?」


ふむ。

俺はふと思い立って、フレンドタブに移動してフレンドリストを確認する。……明らかに減っている。半分どころか数分の一といったところだ。あ、でもいつログインしてもいるような廃人連中の名前はいるな。


「ほんと、どうなってるんだろうねあたしたち……?」


また、リアルがべったりと張り付いてきた。確かに元々結構懐かれていたが、ここまでべたべたしてくるタイプでは……あ、いやこれもしかして不安なのか? 残っているメンバーが恐らく彼女的には抱き着くには抵抗がありそうな筋肉質な男と頼りにならなそうな若草色の饅頭で我慢していたところに女二人(片方は中身男だが)が戻ってきたら耐えられなくなった感じかな。シードじゃなくて俺なのは身長が近いからか。

そう考えると引きはがす気にもならなくなったのでリアルはそのままにして、考える。


「なんにしろ、情報が必要だよな」

「そうだね。予測はつくけどはっきりとしたことは何一つわかんないし」


となるとやらなければならないことは現時点ではただ一つだよな。


「情報収集をしよう」

「……どうやって? 街にでもいってみる?」

「それはまたあとだな。とりあえずは……」


俺は開きっぱなしのフレンドリストに視線を落とす。

大幅に減っているとはいえそれでも結構な数だ。まずは掲示板で情報交換と行こうぜ。まあネットの掲示板とか現状アクセスの仕方もわからんしメールかアルテマトゥーレのグループチャット機能になるけどな。



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