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灰色の嵐


俺の声に応じて、岩テュランソスの頭上に産まれたのはいくつもの光だった。始め蛍のようなか細いものだったその光は瞬く間に膨張し、そして次の瞬間にはその真下へ向かって放たれた。


「!!!」


幾筋もの光線が雨のように岩テュランソスに降り注ぎ、その身を激しく打ち付ける。光の瀑布に飲まれた巨躯はその身を激しくよじらせ苦悶の叫びをあげた。


ほんの数秒の間、光の豪雨が消えた後でも光に激しくその全身を殴打された岩テュランソスはその巨体を大きくよろめかせる。


……よし、これは明らかに効いている。アイツに光属性への耐性はない!


確信と共に、俺の体をどっと疲労感が襲う。<<セレスティアルレイン>>は広範囲に強力な光線の雨を叩き込む大技で消耗もでかい。このままこいつを連発すればそのまま倒しきれるかもしれないが、その場合俺との体力勝負だ。そしてこの後も行程があることを考えれば体力を使い切るわけにはいかない。連打とはいかないだろう。


まぁそこは問題ない、光属性の攻撃スキルは他にもある。明らかに弱ったアイツなら後は押し込めるはず。


「畳みかけるぞ!」

『了解!』


返事とともに、間髪いれずリアルとシードが射撃を叩き込んでいく。


「ヘイト貰うよ!」


<<セレスティアルレイン>>の一撃で危険視されたか俺に移っていたヘイトを、メイが<<タウント>>で改めて拾いなおしてくれる。助かる、こっちは回避も防御も得意じゃない上に脆いからな。


なんにせよこれで体勢も万全、あとは勝利まで一気に攻めるだけだ!


俺はそう思い、奴に次のスキルをぶち込むためにポジションを調整する。


その時だった。

テュランソスが突然大きくその体をのけぞらせた。最初岩鉄がノックバックでも入れたのかと思ったが、見れば岩鉄は武器を構えているだけで振るった形跡はない。じゃあなぜ、と疑念の答えを求める前に、テュランソスがのけぞらせたその頭を今度は大きく前に振った。


俺達へと、その大きな口を開いて。


そしてその巨大な口から噴き出された灰色の何かが、大量に俺達に向けて降り注ぎその体を打ち付ける。


「あだだだだだだ!」


なんだこれ、石か!? 


「石のブレスとかどういった身体構造してるんだよ!?」

「いたた……石袋とかあるのかな。でもダメージはそれほどでもないからなんとか」


シードの言う通りだ。

降り注ぐ石は一つ一つはさほど大きくない。勢いがあるので効かないわけではないが、現実よりも遥かに強靭な体とフラットのバフがある状態では痛くはあるもののそこまでのダメージが入っている感じはない。その痛みだって痛覚減衰が入った今の状態ではそこまでのものではなかった。


……このレベル帯のモンスターでこの程度か……?


中~高レベル帯のプレイヤー6人がかりですらなかなか倒しきれないコイツは、間違いなくボスレベルのエネミーだろう。そのレベルにあるエネミーの特殊攻撃の威力がこの程度……?


いや、ダメージ目的じゃないのか!?


この攻撃の目的に気づき、俺は岩テュランソスの姿を見る。


奴は石礫のブレスをやめ、その身を大きく回していた。先程まで何度も見ている、尻尾による強力な一撃を放つ際のモーションだ。その身を回した方向の反対側、尻尾の向かう先にある姿は……


「メイ!」


先程俺から取ったヘイトが仇になったか!

俺達より近くにいたメイは石礫のブレスをより大量に受けていた。そのためか彼女は顔を隠したガード体勢で立ち尽くしてしまっている。

そう、岩テュランソスのブレスの目的は足止めと目くらまし。本命は渾身の力を込めた尻尾の一撃だ。恐らくこれまでで一番強い攻撃。ダメだ、今からじゃ何も間に合わない──


「コネクト:[聖者の護り]!」


叫びのように発せられたその声と共に、メイの周囲を半透明の障壁が包む。


「ぐあっ……」


次の瞬間にはその障壁もぶち抜いて、だが確かにその速度を落とした岩テュランソスの尻尾がメイの体を打ち付けた。少女の体はまるでボールか何かのように吹き飛ばされ、丁度俺の側の地面に叩きつけられる。


俺は岩鉄が<<タウント>>でヘイトを獲得したのを確認すると、メイの側に駆けよった。


「メイ!!」


メイはすでによろよろと体を起こそうとしている。


「いったぁ……」


呻く彼女に、すぐさまフラットがスキルを飛ばした。


「コネクト:<<ハイヒーリング>>!」


メイの体を回復を示すヒーリングのエフェクトが包み、体についたいくつもの擦り傷が次々と消えていく。


「ありがとフラット……<<プロテクション>>も助かった」

「ギリギリでしたがね……石礫の方に間に合わず申し訳ない」

「いや、あの攻撃は想定外だったから仕方ない」


恐竜がブレスを吐いてくるとは思わないし、ましてや石を吐いてくるなんて想像もしないだろう。

ゲーム内にいたエネミーならともかく、アイツは知る限り未実装のエネミーだ。そして俺達はファンタジー世界における熟練の冒険者でもない。あんな攻撃読めてたまるか。


「でも、攻撃パターンが変わったなら……そろそろかな?」


ヒーリングで回復した体の調子を確認するかのように肩をぐるぐるまわしながら、メイは視線を岩テュランソスに向ける。全身傷まみれとなった奴は相変わらず暴れまわっているが、その動きは明らかに鈍っていた。スキルのものだけではない、累積ダメージによるものだろう。そのため岩鉄も先ほどまでに比べるとかなり安定してその攻撃を捌けている。


「みる感じ、このまま行っても勝てそうだが……」

「でも、さっきのような隠し玉がないかが恐いですね」

「ああ」


フラットの言葉に俺は頷く。倒れる間際の発狂モードのようなものがあったらたまったものではない。


「リセねぇのさっきの奴、あと2~3回ぶち込めばいけるんじゃない?」

「この後一歩も動きたくないと言い出してもいいならやるけどな」


先程の疲労感から考えて、あれをもう3発も打ったら多分立てないくらい疲労する。この後この場で寝てしまって構わないならやることは厭わないが、この後にまだ工程が半分残っている以上そういうわけにもいかない。

だいたいさっきの<<セレスティアルレイン>>は、止めの為ではなく削りと確認のため放ったものだ。その結果問題なく光属性は通ることが確認できた以上、切り札は他にある。


「残りは一気にケリを付けよう。フラット」


俺がフラットに視線を送ると、意図に気づいたのかフラットがため息を吐いた。


「あの規模だと、今度は僕がその後使い物にならなくなるんですがね……」

「いや、<<セレスティアルレイン>>じゃなく<<ヘブンズレイ>>で行く。それなら大丈夫だろ?」

「まぁそれなら通常サイズで行けるので……外さないでくださいよ?」


そこが問題だな。<<ヘブンズレイ>>は攻撃力が高い光線を放つスキルだが、発動時1秒ほどタメの時間がある。上手く動きが止まったところを狙わないと折角のウチの切り札を無駄撃ちすることになる。

シードの<<スロウ>>とダメージで大分動きは鈍ってはいるが……


「何々、なんかいい手段があるの?」


俺とフラットのやり取りをきょとんとした顔で見ていたメイが聞いてくる。

俺はフラットの頭(体?)をポンポンと叩き


「こいつの能力でな、火力増強のスキルがある。あそこ迄弱ってれば多分一気にもっていけるんだが、どうやって当てるかだな」

「動き止められればいいの?」

「……止められるのか?」


メイは腰につるしている投擲用のナイフを手に取る。


「<<影縫い>>っていうスキルがあるわ。あのサイズだと効きづらいけど……全力で行けば5秒くらいなら止められるかも」

「……充分だ!」


5秒もあれば確実に当てられる!



・各コンボスキルについて

[聖者の護り]

<<プロテクション>>+<<サクリファイス>>


・スキルの効果について

<<セレスティアルレイン>>

広範囲に光線の雨を降らせる強力なスキル。消耗が大きい。


<<プロテクション>>

対象の周囲に力場の壁を作るスキル。


<<ハイヒーリング>>

傷を癒すスキル。通常の<<ヒーリング>>より回復力が高い。

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