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押し寄せる波


あくまで俺狙いかよ!意地でも俺を喰いたいのか!?

ゲーム時代にプログラミングされた情報なんだろうが、ここまで執着されるのは正直違和感を感じる。戦闘開始直後ならまだしも、前回のタツミみたいな護衛クエストのNPCならともかく特定のプレイヤーをこんな戦闘終盤まで狙ってくるなんて設定するか? だいたいそういう意味で言えば、そもそも銀髪なんてキャラメイクした後はどうにもならない部分が攻略のキーになってるのがおかしいんだよ。


って、そんな考察してる場合じゃねぇ!

蛇竜はまっすぐこちらに向かってきている、正直俺の能力だと回避しきれるか怪しい。迎撃するか……と考えていると、俺と突撃してくる蛇竜の前に人影が飛び込んできた。


岩鉄だ。


「コネクト:[不滅の要塞]!」


彼はスキルを使用すると、やや右寄りの位置で蛇竜に衝突した。が、


「ぐっ……!」


先程尾の一撃を受けきった彼でも正面からの勢いを付けた突撃には耐えきることはできなかった。俺達の中では一番大きい、だが蛇竜と比べれば小さく見えるその体が弾き飛ばされる。ただ、


軌道は逸れた!


やや斜めからぶち当たったのはこれが目的だったのだろう、これなら回避できる!


俺は慌てて右側に足を走らせると、その直後後方を蛇竜の体が通り過ぎていった。ラストの尾の一撃も問題なく躱す。


アブねぇ、助かった。フルフルでガード体勢に入っていた岩鉄を吹き飛ばすような攻撃だ、俺が直撃を喰らったらそれこそ大ダメージだったろう。今回は護られどおしだな、全く。


振り返り、俺は蛇竜の方へ体を向け直す。再度軌道を変えてこっちを狙ってきたり、水の槍の攻撃がきたら厄介だからだ。だが奴はそのどちらの行動にも移行していなかった。岩鉄によって俺の反対側に弾かれた軌道をさらに帰ると、ある方向に突進する。


湖の方へだ。


再び湖に潜ってから攻撃……いや、受けているダメージから考えると


「逃げる気か!?」


いや逃げないまでも水中の深い所に閉じこもられたらこちらの攻撃は殆ど届かなくなる。そして奴には自己回復能力がある!


「止めろ!」

「大丈夫! 魔法少女ぬかりない! マジカル:<<グラヴィティチェイン>>!」


気が付けば蛇竜の胴体の真横に立っていたベルが、そのままその細い拳で蛇竜の胴体を殴りつけた。

直後、彼女の背後にいくつもの黒い球が生まれ、その中から伸びた鎖が奴の胴体に絡みつく。


その瞬間、蛇竜の動きが冗談のようにピタリと止まった。


「ずっと止められているわけじゃないから急いで!」


彼女のその声に応じて、攻撃手段を持たないフラット以外が全員で奴に攻撃を叩き込む。すでに流血まみれになっていた奴の体は更にボロボロになっていく。奴は固定された箇所以外を振り回し暴れるが俺達全員の攻撃は捌ききれない。次々と傷が増え、奴の動きが鈍くなっていき……そして奴が吠えた。まるで狼か何かのように。


断末魔か、と恐らくそこにいた全員が思っただろう。だがすぐにそれは違うと知ることになる。


湖の水が大きく盛り上がったのだ。


これは……


「津波!」


メイの言葉通り、これは津波だった。大鍾乳洞という極一部の空間の中で津波が起こっている。こんなことが自然現象で起こるわけがない。


これがあいつの切り札か!


フライトを使って上に逃げるかと思ったが間に合いそうもない。だったら、と次の手段を考えようとして──


俺の体は波に飲まれた。

不味い、このままだと壁に叩きつけられる──。そう思った瞬間、伸ばした手を誰かが掴んだ。そのまま強い力で引き寄せられる。


「リセねぇ、無事っ!?」

「がはっ……!」


巻き込まれた時に飲み込んだ水を吐き出しながら、顔を上げると目の前にメイの顔があった。


「……どうして」

「あたし達水上に立てるから!」


言葉と共に振り返った彼女の視線の先には、水上を走るリアルの姿があった。<<ウォーターランニング>>の効果か……水上を走っている限りはこのスキルは流れの影響も受けない、だからメイはわざわざ俺の方まで恐らく<<スライドムーブ>>あたりを使って助けにきてくれたんだろう。


「他の皆は……?」

「岩鉄さんとシード姉さんは波に飲まれた!フラットは……」


メイが左を見る。

そこには


「マジカル:[メテオスマッシャー]!」


頭上にフラットを掲げたまま、水の音にも負けない声量で叫びながら横に向って()()()()()ベルの姿があった。そしてその体は大口を開けて俺を飲み込もうと水上に姿を現した蛇竜の横っ面に直撃する。


横殴りの一撃を受けた蛇竜は水しぶきをあげながら吹き飛び、その巨体が鍾乳洞の壁に叩き蹴られる。その振動で天井から生えた鍾乳石が落下するのが見えた。地上ではもしかしたら誰か地震のように感じている人間がいるかもしれないな。


「メイ、そのまま支えていてくれ」

「え……うん、わかった!」


メイが俺の背中に回した手にぎゅっと力を入れ、俺の体を抱き寄せる。俺はその力に身を任せ、右手だけを彼女の背後、蛇竜へと向けて伸ばした。

その手の指す先にはすでに<<疾風怒濤>>で距離をつめたリアルがすでに武器を構えており


「コネクト:<<断空の舞>>」


幾本もの斬撃を顔面に叩き込まれた蛇竜が大きく苦痛の叫びを上げる。


ここだ。


「コネクト:[神討つ光]」


メイの暖かい温もりを感じながら彼女の肩に顔を力なくのせたまま、俺は静かにスキルを宣言した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふう……助かったよ、メイ」

「離しても大丈夫?」

「おかげ様でダメージも受けてない、大丈夫だよ」


力強く俺を抱きしてめていたメイの腕の力が緩められ、俺は彼女からゆっくりと体を離して波の引いた地面を踏みしめる。まだ水は引ききっていないので水浸しだが、立てないようなレベルではない。


水に押し流された二人──シードと岩鉄は幸い無事なようだった。シードの方は肩を抑えているのでダメージを負ってしまったようだが、死ななきゃ安いで行けるこの世界で大丈夫だろう。すでにベルから離れたフラットがぴょんぴょんと飛沫を立てて向かっている。任せておけば大丈夫だろう。


俺は反対側に視線を向ける。


そこには、蛇竜の巨大な体が横たわっていた。ピクリとも動くことはなく、つけられた傷も回復している気配はない。完全にその生命は活動を停止していた。


俺は放った<<チャージ>>込みでなければ最高レベルの一撃。それはリアルの斬撃により苦痛の叫びを上げた喉奥に叩き込まれた。結果としてそれが最後の一撃となり、蛇竜は動きを止めた。


「最後はあっけなかったな」

「あの津波、残りライフが10%になると使用可能になるとか系の奴なのかしらね?」

「ゲームかよ……元はゲームだったわ」


横からかけられた声に答えながらそちらを見ると、そこにはすでにみ空色の髪の姿に戻ったベル……鈴が立っていた。肌の色も元に戻っており、恰好もゆったりとしたワンピースみたいなものに変わっている。


「もう着替えたのかよ」

「魔法少女の変身可能時間超えたからね」


ようするにスキルの効果時間をオーバーしたのか。それにしたって着替えまでしなくてもいいと思うが、まぁこだわりがあるんだろう。


「あなたは着替えないの?」

「今ここで着替えたらずぶ濡れになるだろ……お前だって着替えた服濡れちゃってるじゃねーか」

「着ている内に乾くわ」


そりゃそうだろうがさぁ……


「まぁともあれ、これで何とかミッション終了かしらね。これで表出て何も解決してなかったらアレだけど」


……ここまで苦労してそれはいやだなぁ。










・スキルについて

<<グラヴィティチェイン>>

超重力の球体に紐づいた鎖を作り出し相手に絡みつかせて相手の動きを止めるスキル。

<<バインドウェブ>>よりも確実に動きを止めれるが、取得の前提が多い、クールタイムが長い、発動させる対象に触れる必要があるという条件があり使い勝手は悪い。

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