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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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身勝手な想い

 剣の汚れを拭き取り、武器を回収していると騒ぎが収まったのを見計らって、ミアが荷台から外に出てきた。



 眼前に無惨にも作り出された血だまりに、ミアは一瞬言葉が出てこなかった。

 凄惨な現場に、悲嘆に暮れることも憂惧(ゆうぐ)を感じることもない。ただ少しの間、呆然とそれを眺めていた。


 これを、あのユルグがやったのだとどうしても思えなかったのだ。


 なぜ彼がこんな戦い方をしたのか。それはちゃんと理解している。

 相手は問答無用で殺しにきていたのだ。それに対抗するにはこうするしかなかった。ユルグの決断は皆を守るためでもある。


 それは分かっている。それでも、身勝手な事を考えてしまうのだ。


 ――人殺しなんて、して欲しく無かった。


 こんなことを願うのは今更なのかもしれない。

 村を見捨てて救えたはずの命を見殺しにしたのだ。ミアはそれを糾弾する気はないが、ユルグにとってはそんな簡単に区切りを付けられるものでは無いのかもしれない。



 装備を回収して荷馬車まで戻ってくると、血だまりの真ん中でミアが立ち尽くしていた。

 慌てて近寄ると、こちらに気づいたのか。見えた幼馴染みの表情は、少しだけ落ち込んだような暗い顔色をしていた。


 こんな血みどろの惨状を目にしてはそれも当たり前である。

 なんと声を掛けて良いか。考えあぐねていると、そんなユルグを置いてミアが血まみれの手をそっと握ってくれた。


「怪我してない?」

「あ……うん。これは俺のじゃないから、大丈夫」


 触れた暖かさにほっとする前に、彼女の手が微かに震えている事に気づいた。

 それを止めるように握り返すと、消え入りそうな声でミアが告げる。


「ユルグ……私いまものすごく身勝手なこと考えてる」

「どうした」

「……やっぱり人殺しなんてして欲しく無かった。全部終わってから言うのってすごい卑怯だよね。あの人たちが襲ってきたとき、もしかしたらそうなるかもって分かってたのに」


 彼女の告白を聞いて、ユルグは一瞬呆気に取られた。

 ミアの考えていることなど、思いつきもしなかったのだ。


「……そう思うのは悪い事じゃないよ。おかしな事でもない」


 普通なら、そう思うことが当たり前である。大切な人が殺人という取り返しのつかない事をする。それを嫌忌して拒絶するのは間違いでは無い。


「でも俺は例えそう言われたとしても、あいつらを生かしておくつもりはなかった。全員を見逃してまた襲われたら、次も何の被害も無く撃退できるとは限らない。人殺しは避けるべきだけど、俺は間違った事をしたとは思ってないよ」


 ユルグの答えを聞いて、ミアは俯いていた顔を上げた。


「……こういうことって、今までにもあったの?」

「仲間と旅をしているときは、野盗に絡まれる事も少なくはなかった。でも、とどめを刺すのはさせられないって言われてたからやってない。人を殺すのは今のが初めてだ」


 それでも身体は怯みもしなかった。命を奪うことには慣れているけれど、人間相手でも僅かも揺らがなかったのだ。


「俺の師匠が言ってたんだ。覚悟が出来てるなら殺せ、出来ていないなら殺すなって。……今ので分かったよ」


 グランツは人殺しをするな、とは言わなかった。荒事を生業にするのなら、人間を相手取る事もある。だから、その事を禁忌としなかったのだ。


 ――殺すのならば覚悟をしろ。


 それが出来ていたから、ユルグはあの襲撃者たちを何の躊躇いもなく殺せたのだ。

 けれどミアの様子を見て、あの言葉はユルグの思うものよりも、もっと他の意味合いがあったのだということに気づいてしまった。


 彼女は自分の大切な人が、他人を殺めてしまったことに苦心していたのだ。


 その普通で当たり前のことに、ユルグは気づけなかった。彼女に言われてそこでやっと思い至ったのだ。


 ――そこまで覚悟が出来ているのなら殺せ。


 グランツのあの言葉は、きっとこれを見越してのものだったのだろう。

 手を掛けることで、自分以外にも苦しむ者がいる。それを理解してそれでも尚、両手を血で染められるのか。それをユルグに問うていたのだ。


 結局、今になってそれに気づいてしまったわけである。


 既に取り返しのつかない状況ではあるが、それでも微塵も後悔などしていない。

 ユルグにとってミアは守らなければならない大切な人だ。けれど、それがフィノの言うユルグの一番になり得るのかと言えばそうではない。


 心配してくれるミアには悪いが、自分でも呆れるほどに薄情であると思わざるを得ない。

 彼女の存在はどうあっても、ユルグを留める枷にはならないのだ。


「――でも、ミアを悲しませたことは謝らないといけない。……ごめん」


 頭を下げると、ミアは小さく息を吐き出した。その様子は呆れているというわけではなく、何かを諦めたようにも見える。

 彼女の考えを読めないでいると、ミアはユルグから視線を外した。


「ねえ、この人たち弔ってあげても良い? このまま野ざらしじゃ、可哀想だよ」

「……わかった」


 本音を言うのならばそんなことをしてないで先に進みたかった。

 けれど、それでミアの気が済むのなら付き合ってやるべきだろう。




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