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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第五章
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新たな旅立ちとその準備 2

 

「いいなあ」


 そんな二人を見てか、無意識に作業の手を止めたフィノは小さく呟いた。

 その声はこの場にいる者たちの視線を一身に集めることになり、注目されていることに気づいた彼女は俯いて続ける。


「ともだち、フィノにはいなかった」


 フィノは寂しそうに言って、荷物を荷馬車に積み込む。


 突然のフィノの発言に、ユルグは少しだけ驚いていた。

 彼女が今まで執着を見せてきたのはユルグだけだった。他のものに興味が無かったのか。ユルグに捨てられたくないと必死だったからか。

 判然としないが、そのフィノが初めて他人を羨んでいるのだ。目に見えた変化に、これが吉と出るか凶と出るか。未だ判断はつかないが、ユルグの手を離れて他に行ってくれるのなら、これほど嬉しいことはない。


「どれいだったから……すきなひとは、いるけど」


 ――あんなだし。


 ちらりとユルグを見遣って、フィノは呟いた。

 なんだか引っかかる物言いに、口を挟もうとしたがそれよりも先にアリアンネがフィノへと言葉を紡ぐ。


「奴隷であることは関係ありませんよ。貴女は自由なのですから、何にだってなれるしどこへだって行けるのです。それを自ら不自由を強いてしまっては勿体ないと思いませんか?」

「う?……んぅ」


 フィノの反応を見るに、あれはアリアンネの言葉をよく分かっていないのだ。難しい顔をしながらも、なんとか彼女の言葉をフィノなりに咀嚼して、今一度深く頷くとどうしてかユルグの傍に寄ってきた。


「ユルグ、ともだちに」

「――断る」


 にべもなく即答すると、フィノは口を尖らせて抗議してくる。


「なんで!?」

「それはこっちの台詞だ! そもそも今の流れでなんで俺に振ってくるんだ。友達ならミアやティナが居るだろ。そっちにしろ」

「でもそれだと、おちかづきになれないよ」

「……はあ?」


 こいつは一体、何を言っているんだ?

 脈絡の無いフィノの発言にユルグが困惑していると、


「まえね、アリアがいってた」

「昨日、フィノの案内で城へと戻ってきたでしょう。その時に、勇者様とどういった関係なのかを聞いたのですよ。フィノが勇者様のことを好いていて、でも振り向いてもらえないと嘆いていたので、僭越ながらアドバイスをさせて頂いたのです」

「……それで、どうして友達が関係してくるんだ?」

「好きだと告白しても振り向いてもらえないのでしたら、まずは徐々に距離を詰めたらどうかと。そういう話でしたよね」

「うん、そう」


 全てを聞き終えたユルグは盛大な溜息を洩らした。

 フィノは何も知らないからこんなことをされては余計質が悪いと言うものだ。といって一から訂正するのも面倒である。


『友人くらい良いではないか。減るものじゃ無し。冷たい男だ』

「これ以上、こいつと接点は作りたくないんだよ」


 本当に、それだけは御免である。

 ユルグの心境を知ってか知らずか。呑気なことを言う同行者たちにもはや呆れるしかない。フィノの強引さを知らないからそんな無責任なことを言えるのだ。


「それにしても、モテモテなのですね。勇者様は」

「冗談じゃないぞ」

「そんなに邪険にせずとも良いのではないですか? 御身を想ってくれる人が傍に居るというのは、欲しいと思っても得られるものではありませんよ」

「……俺の話は良いんだよ。アリアンネは皇帝とは何を話してきたんだ?」


 唐突な話題転換。多少強引だったが、アリアンネはなにも言わずに答えてくれた。


「うーん……特には。ああ、ぬかりなくとは言われましたね」

「そうか」


 未だに皇帝の思惑が読めない。

 勇者に魔王討伐の再開を求めるのには疑問の余地は無い。しかし、わざわざそれに皇女の立場にあるアリアンネを同行させる意図が見えないのだ。監視というのなら腕の立つ人間など幾らでも居るはずだ。それなのに自分の娘を監視役に据える。


 おそらく何かしらの思惑があってのことなのだろう。こればかりはアリアンネに聞いたところで素直に答えてくれるとも思えない。一応、彼女の動向には気を配っておこう。


「心配しなくとも、勇者様の寝首を掻こうなどとは思っていませんよ。目的を果たしたのなら魔王討伐を再開してくださると仰ってくれましたし」

「……もしかしたら心変わりするかもしれないぞ」

「その時はその時です。今はそうではないのでしょう? 旅は長いのですから、ずっと気張っていては疲れますよ」

「……ほどほどにしておくよ」


 ユルグの胸中を読んだような発言に、内心驚きつつもそれを悟られないように頷きを返す。


「ただいま~」


 ある程度荷物の積み込みを終えた所で食料の調達に出ていたミアとティナが戻ってきた。


「ちょうどお昼だし、ご飯買ってきたよ」

「たべていい!?」

「どうぞどうぞ。ユルグも、どうぞ」

「俺は後で良いよ」


 やんわりと断って、先ほど買ってきてくれた食料を積み込もうと運んでいると、ティナが進捗の確認へとやってきた。


「準備の方はどうでしょうか」

「買ってきてくれた食料の積み込みが終われば出発できる。途中で水樽も調達して……帝都を出るのは昼過ぎ頃になるな」

「御者は私が務める、ということでしたよね?」

「ああ、頼むよ」

「お任せ下さい」


 着実と出立の準備は整っている。

 懸念事項は色々とあるが、うだうだと悩んでいても先には進めない。


 一先ずは頭の隅にしまっておいて、ユルグは食料の積み込みへと精を出すのだった。



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