脱出作戦
アリアンネに直接聞こうにも、あの後――関所で馬車に乗せられて帝都まで連行された後、すぐに居城まで連れてこられた。
すったもんだあって、ミアが口を開く前にこうして軟禁されてしまったのだ。
あれ以来、アリアンネとは一度も会っていない。ティナが人伝で仕入れてくる情報によれば、まだユルグを探しているらしいが、幾らマモンが着いているからと言ってもあの方向音痴では、この広大な帝都で一人で人捜しなんて無理に決まっている。
「アリア、大丈夫かなあ」
アリアンネの提案には期限が設けられていた。六日経って、何の進展もなければ強行に出る――つまり、国を挙げてユルグを探し出して皇帝の前に引きずり出す。
この国の皇帝陛下がどういった人物なのかはミアも理解してきたところだ。こうしてミアを城に軟禁して人質に取っているのだ。強硬手段に出られたら、ユルグがどうなるかなんて考えなくても分かりきったこと。
例え、皇帝の口車に乗せられずとも、帝国の兵士と対立することになる。そうなったら幾ら勇者といえども無事ではいられない。
タイムリミットは今日の夕刻まで。まだ数時間は猶予がある。
状況がどちらに転ぶにせよ、ミアがここに居ては駄目なのだ。確実にユルグの足枷になってしまう。
「ずっとこのままじゃいけないよね」
テーブルに突っ伏していた顔を上げると、ミアは傍に控えているティナに目を向けた。
その視線に気づいた彼女は、紅茶を淹れようとポットを持ち出すがそれを片手で制して、ミアは切り出した。
「ティナ、一つ聞いても良いかな」
「なんでしょう」
「私がここから逃げ出したらどうなると思う?」
真っ直ぐにティナを見つめて言い放ったミアの言葉に、彼女は持ち出したポットをテーブルに置いて、しばし無言で見つめ返した。
そして、ゆっくりと問いの答えを口にする。
「……そうですね。特別危害を加えられる事はないでしょうが、脱走が露見した暁には地下牢に監禁されるかもしれません」
「そっか。まあ、そうだよね」
皇帝陛下にとっては、ミアは大事な人質なのだ。今は大人しく従っているから軟禁という形で済んでいるけれど、一度逃げ出してしまえばそうもいかない。
それでも、殺される心配がないというのはミアにとっては好都合であった。
「どうなさるおつもりですか?」
ミアの考えはお見通しらしく、ティナは落ち着いた声音で尋ねる。
「とにかく、ここには居られないから……ええと。城から脱出するでしょ。その後は、都に身を隠して取りあえずはアリアを探そうと思う」
アリアンネと共に居るマモンならば、ユルグの居場所も分かる。今のミアがすべきことは、彼女と行動を共にする事だ。
ミアの計画を聞いたティナは、難しい顔をして黙り込んだ。少しすると、重苦しく口を開いた。
「助言致しますと、その計画ではものの数秒で城の者に見つかってしまいますよ」
「うっ、」
「城から脱出するにしても、この部屋がどこにあるのかも知り得ないでしょう。そんなことでは地下牢行きは免れませんね」
「……仰る通りです」
ティナの指摘は的を射ていた。城内の地理に詳しくないミアでは外に出ることすら叶わないだろう。
「ですから、私もお供致します」
「――えっ?」
まさかの提案に、ミアは瞠目して固まった。ティナがこんなことを言い出すとは露程も思っていなかったのだ。
「い、いいの?」
「もちろんでございます」
「いや、でも……私なら殺される心配はないけど、ティナはそうもいかないでしょう。脱走の片棒を担ぐよりも隙を突かれて逃げられたってことにしたら」
「例えミア様に非があると見せかけても厳罰は免れません。私はハーフエルフなので、あの皇帝陛下がお許しになるはずがありませんよ」
「……そう、なんだ」
ティナは淡々と事実を述べる。けれど、それがミアにとっては酷く残酷な事に思えた。
エルフというのはミアが思っているよりも遙かにしがらみが深いみたいだ。しかし、それにどれだけ心を痛めてもミアにはどうすることも出来ない。
それ故に、ミアの出した答えはその事実に落ち込むことではなく、彼女の意思に寄り添うことであった。
「わかった。お願いする」
「そうと決まれば準備致しましょう。ミア様にはこれに着替えてもらいます」
「これって……メイド服?」
まるでミアの考えを既に読んでいたかのように、ティナの手際は良かった。
目の前に突き出されたメイド服を上から下まで丹念に見回して、ミアは少しばかり動揺してしまった。
確かに、この変装は城内から脱出するには必要不可欠だろう。けれど、こんな格好は生まれて初めてである。
「とても、はずかしい……」
「お似合いですよ」
「そうかなあ。変じゃない?」
「おかしなところはございませんね」
何度も頷くティナの言葉を鵜呑みにして、ミアは心を落ち着かせることにした。恥ずかしくても何でも、この方法が最善なのだ。ここまで来たのなら腹を括るしかない。
「よし、行こうか」
「はい。部屋を出たのなら城内を出るまではミア様は私から離れないでくださいね」
「う、うん。わかった」
ガチガチに緊張しながら、ミアは一世一代の大勝負に挑むのだった。




