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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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静けさが耳朶を打つ

 

 祠を目指して進むが特段気になるような異変は見えない。

 兵士たちの証言では奇妙なもの、なんて捉えどころのない話をされたが道中は平和なものだった。


 訝しみながら進むユルグだったが、祠の目前に来てやっと彼らの言葉の意味が分かった。


「なんだこれは?」

「んぅ、なんかあるね」

『うむ』


 祠の石扉の隙間からは何かが顔を出していた。


「あれは……植物か?」


 何かの植物の根のようなものが、祠の中から這い出してきているようにも見える。

 色味は緑からは程遠く、仄暗い色をしている。

 そんなだから、あれが生きているのかも不明だ。


「前来た時はこんなのなかったよな」

「うん」

『中から生えてきたようにも見えるなぁ』


 この現象にはマモンも不思議がっていた。彼にとっても予想外の出来事なのだろう。


『ここも含め他の場所は瘴気の浄化は出来ていない。鬼が出るか蛇が出るか、と言ったところだな』


 充分に気を付けろとマモンは言った。ユルグもそれには同意だ。

 とりあえずはみ出している根を無視して石扉の隙間から中に入っていく。


 しかし祠の中は皆が予想したものとは違った様相になっていた。


「思ったよりも綺麗だな」

「なんもないね」

『……どういうことだ?』


 シュネー山の祠以外、マモンは瘴気の浄化を行っていない。匣の許容量だってどこもいっぱいだ。そうなれば必然的にあぶれた瘴気はヘドロとなって祠の内部に溜まっていく。

 しかしその予想を裏切るように足を踏み入れた中はとても綺麗なものだった。


『まさか瘴気の欠片もないとは』

「今までこういったことはあったか?」

『いいや。そもそも何年も瘴気の浄化をしないことも異例だったのだ。何が起きてもおかしくはないが……それが無くなるとは露にも思わんよ』

「誰かが掃除してくれたのかなあ?」


 フィノの一言にユルグは祠の内部を見渡す。


「誰かって、ここにはあのへんな根っこしか……」


 言いかけて、ユルグはあることに気付いた。


 ――これが異変の原因ではないだろうか?


「もしかしてコイツのせいか?」

『うむう、それが的を射ている気がするな』


 足元に広がっている根は、祠の内部を侵食していた。

 そして、それは大穴の淵から這い上がってきている。つまり根元はあの大穴から来ているのだ。


「んぅ、でも悪いことじゃないよ」


 これが瘴気をまき散らしているというのなら大事だった。

 けれど見たところその逆だ。この不気味な根は瘴気を吸い出しているようにも見える。


『確かにそうではあるが……正体不明なものを放置しておくわけにもいくまい。後々脅威になるやもしれぬ』

「何にしてもコイツの調査を頼まれたんだ。やるしかない」


 とはいえ、これの正体を探るために大穴に飛び込むことは出来ない。

 少し考えて、ユルグは帯刀していた剣を抜いた。


「お師匠、なにするの?」

「まあ、みてろ」


 フィノが心配そうに見る中、ユルグは足元に伸びている根っこに剣を突き刺した。

 すると刺された傷口からじわじわと瘴気のヘドロが溢れてくる。


「犯人はコイツだな」

『ううむ……何とも奇妙な』


 どうやら祠の中にあった瘴気はこの根が吸ってしまったらしい。瘴気を吸い取る植物なんて聞いたことも無い。

 それはマモンも同じで、目の前の現象に驚いている。


「俺たちに害はなさそうだが、問題はこれがどうして出現したかだ。偶然って考えるのはしっくりこない」


 この状況にしかめっ面をしていると、それを見ていたフィノがぽつりと呟いた。


「これ、なんの植物?」

「はあ?」

「ねっこがあるならその先に何かある」


 ――なんだろう。


 フィノは大穴の淵から暗闇を覗いてそんなことを言う。

 しかし確認したくても伸びている根は大穴の淵を伝って下に伸びているのだ。当然ここに足を踏み込むわけにはいかない。


『何かあったとしても瘴気を吸う化け物だ。関わり合いにはなりたくないところだ』

「そっかぁ」


 傍に寄ってきたマモンの言葉に少しだけ興味があったのか。フィノはどこか残念そうに返事をする。

 冗談じゃないぞとユルグは内心思いながら、先ほどのフィノの発言には思うところもある。


 もしこの現象が偶然ではなく、何かの意図があったのなら。関わっているのは確実にあの四災とかいう奴らだろう。

 瘴気を必要としているのなんて彼らくらいだ。

 しかも根は大穴の底に続いている。これでは正体を明かしているようなものだ。


 けれどユルグたちが祠に足を踏み入れても、何もいなかった。こうして調査している間も何もない。

 ということはこちらには干渉してこないということだ。

 ならば触らぬ神に祟りなし。放っておくほうが得策である。


「さっさと用事を済ませて出るぞ。ここに長居はしたくない」

「んぅ、わかった!」


 匣の回収に乗り出したユルグの呼びかけに、フィノは踵を返した。

 その一瞬――


「――もし、お嬢さん」


 背後から、誰かの声が聞こえてきた。



故障していたパソコンが復活しました!

修理に出している間、スマホで書こうとしましたが私のアイフォンが化石のため、フリック入力が遅くてイライラして無理でした。


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