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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第四章
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選定

 

 翌日。ユルグは武器屋へと足を運んでいた。


 フィノが扱える武器となると、自ずと選択肢は限られてくる。

 ユルグの使っているロングソードなどの大振りの刀剣を持たせた暁には、敵の首を狩る前にこちらが狩られてしまいかねない。


 よって、武器選びにおいて一等優先するのは軽くて扱いやすいものであること。この際、他は二の次だ。いくら強力な武器だと言って持たせても、満足に扱えないのなら無用の長物である。


 店内には刀剣の他に、槍や斧。メイスなどの鈍器。それらが所狭しと立て掛けられていた。


 ユルグは好んで剣を使っているが、彼の師であるグランツは多種多様な武器を扱う人だった。

 槍、大刀、長刀の長柄武器から、斧や鈍器など。武芸者と言っても遜色のないものだった。


 普段はグランツも使い勝手が良い刀剣類を主に使ってはいたが、ユルグとの稽古試合での修練では決まって剣を取らなかった。


 グランツの真意は知れないが、この稽古試合がまた意地が悪いのだ。

 長柄武器を取るのなら剣の間合いには入れさせてもらえないし、斧や鈍器ならば攻撃を剣で防いだ途端にへし折られる。

 よって、結果は毎度のこと悲惨なものであった。グランツには一度だって勝てた試しはない。

 いつだったかは、(こん)で叩きのめされたこともあった。ただの木の棒だとなめて掛かったせいだ。物を知らない若気の至りで、苦い記憶である。


 しかし、魔物と戦うだけならば多種多様な武器を使っての、あんな鬼のような戦闘訓練は必要ないのだ。エルリレオにも度々窘められていたし、何を思ってグランツがあんなことをしたのか。一度彼に尋ねたことがあった。


 曰く――『何事も経験が一番の近道』なのだそうだ。


 確かに、グランツの言い分は的を射ていると、今になって思い返してみれば納得する。対人でなくとも魔物を相手取って剣を交えるのなら、どんな状況でも対応出来なければならない。


 だからって、あそこまでぶちのめす事はなかったのではなかろうか。修練と銘打って憂さ晴らしに使われていた感は否めないが、それでもあの経験は無駄では無かった。悪し様に言うのはこのくらいにしておこう。



 さて、とユルグは気持ちを切り替えて再度店内を見回した。


 選ぶとなると、やはり刀剣の類いがベストだろう。

 その中で一等(いっとう)軽量なものとなると、ブロードソードが無難である。両刃剣であるが、一キロ程度で扱いやすい。

 切れ味はサーベルなどの片刃のものよりは劣るが、フィノは初心者だ。いたずらにそれを持たせたところですぐに刃毀(はこぼ)れを起こして使い物にならなくなる。

 武具代も馬鹿にならない。やはり慣れるまでは両刃剣で様子を見た方が良いだろう。



 宿舎に戻ると、フィノが昼飯の準備をしていた。


 街中で食事をすると昨日の二の舞になると踏んで、自分たちで用意しようと決めたのだ。多少不便ではあるが、フィノもやりたいと意欲的だったので任せることにした。


「もうそんな時間か」

「あ、ユルグ。おかえり」


 宿舎の入り口を、入って左に向かえばそこは土間になっている。ここで(かまど)に火を起こして飯を作る。


「この匂いは……シチューか」

「うん。ラーセさん、おしえてくれたの」


 鍋を覗き込みながらフィノは答える。

 自分がやると言い出した時は少し不安だったが、ラーセの仕込みなら食えないことはないはずだ。


 内心安堵して、ユルグはテーブル椅子に座るとフィノを呼びつけた。


「こいつをお前にやる」

「……けん?」

「俺の使っている物よりも軽い。これなら振り回されることもないだろ」

「おもくないね」


 フィノは鞘から剣を引き抜いて、軽く振る。

 どうやら問題は無さそうだ。


「もう少し刀身を擦り上げたかったんだが、この腕じゃ無理だからな。治ったらやっておくから今はそれを使ってくれ」

「うん、ありがと」


 鞘に収めた剣を宝物のように大事に抱いて、フィノは嬉しそうにはにかんだ。


「そういえば、俺が出掛ける前に出しておいた課題は終わったのか?」

「んぅ、へやにあるよ」


 フィノには出掛ける前に、昨日説明した魔鉱石を使っての魔法の修練。それをやっておけと言いつけていた。

 流石にもう少し時間は掛かると思っていたのだが、フィノは終わったのだと言う。


 半信半疑で部屋まで戻って確認すると、ベッドのサイドテーブルに置かれている魔鉱石は赤く色づいていた。どうやらフィノの言っていた事は本当みたいだ。


 カルラに師事して、ユルグもこれをやったことがある。しかし、流石に半日では物に出来なかった。

 フィノは魔術師なのだから、ユルグよりも魔法の扱いに秀でているのかもしれない。それと、物を知らないまっさらな状態に近いから、そのことも幸いしたのだろう。


 カルラが言うには、魔法を習得するには感受性が豊かな方が、覚えが良いのだそうだ。ある程度のイメージを掴めなければ、魔力を魔法という形で具現化するのは難しい。

 それには勿論個人差もあるが――この結果を見る限りでは、将来冒険者として独り立ちしても難なくやっていけそうだ。



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