飛んで火に入る猛獣
激高したグァリバラはユルグ目掛けて突っ込んできた。
痛む身体に鞭を打ち、巨体による突進を避けるとユルグは取り出した投げナイフを投擲。狙いは相手の足元。
ナイフが地面に刺さった瞬間、熱と爆音が響く。
けれど攻撃魔法が発動する前にグァリバラはそれを察知して一歩下がっていた。おかげでユルグの攻撃はかすりもしていない。
「そんな小細工、何回も通用すると思ってんのか!?」
「はっ、やっぱり引っ掛からないか」
最初の奇襲をいなした相手だ。今の攻撃も通じないとユルグは見抜いていた。
ならどうして仕掛けたのか。
それは相手の動きを見るためだ。
「分かってンなら、うざってぇことしてんじゃねェ!」
すぐに踵を返したグァリバラは迷う暇なく踏み込んで、両手に握っている武器を振り回す。
かすっただけでも吹っ飛ばされる勢いだ。それをすべて避けきって、ユルグはこの男に勝つ算段をつけた。
グァリバラという男は確かに戦い慣れている手練れだ。その自信が行動にも表れる。
観察力も判断力もいい。しかもあの怪力ときたら向かうところ敵なし。
そんな彼の唯一の欠点を上げるなら、頭に血が上りやすいところだろう。それでもグァリバラは冷静に状況を見て判断できる。しかし、そうは言っても多少なりともその短絡的な思考が行動に現れている。
(あいつは近づかなきゃ攻撃できない。だから、その隙を見逃さない)
――罠を張るとしたら、ここだ。
握っていた剣を放ると、両手にナイフを取る。
ユルグの行動を見て、グァリバラは詰めていた距離を離した。
明らかに警戒している。しかしこうして攻撃の動きを見られるならば、当然の判断だ。
既にユルグの攻撃の手は読まれている。このナイフをどう使うかなんて知られているのだ。だから充分に避けられるように距離を取る。
それも見越して、ユルグは大きく踏み込むと両手のナイフを投擲した。それぞれに込めた魔法は違う。
目眩しの〈ホーリーライト〉と陽動の火炎魔法。前者は顔面、後者は足元に放つ。
――当然、すべて躱されて不発に終わった。
もちろんそれも考えてのこの罠だ。
「ハハッ、馬鹿の一つ覚えってか!? ンなの、くらうわけねえだろうがァ!」
グァリバラは空手になったユルグに、まっすぐ突っ込んできた。
(そうだ、こっちにこい!)
それを見越して一足飛びで真後ろに距離を開ける。刹那――ユルグの張った罠魔法が、グァリバラに牙を向いた。
高火力の炎魔法は瞬時に全身を火だるまにする。
周囲の空気を奪って炎は燃え続ける。燃料は沢山ある、焼け死ぬのが早いか、酸素が足りずに気絶するのが早いか。
少なくともこのまま放置していればアイツは死ぬだろう。
凄惨な様子を眺めて、ユルグはかつてミアが言ってくれた言葉を思い出す。
彼女はユルグに、人殺しなんてして欲しくないと言った。ここで見捨てればあの男は死ぬ。追手を巻くにはこれが一番確実だ。
それでも――
「甘くなったもんだよ、俺も」
きっとここにミアが居たら助けてあげてというはずだ。
何よりも、人殺しの父親なんて良いものじゃない。
そこまで考えて、ユルグはこの男を助けてやることにした。
魔法で水を生み出して、火だるまの男を消化する。彼の火傷は酷いものだった。特に発火点から近かった足は切断しなければ助からないレベルだ。
これならば追ってこられはしないだろう。
「思い切りぶっ叩かれたお返しだ。これに懲りたら二度と関わるな」
「……っ、な、のつもり」
「別に意味はない。じゃあな」
身動きできないグァリバラを置き去りにして、ユルグは剣を拾いなおすと先に逃がしたフィノを追って去っていく。
確か事情を知っていそうなやつに話を聞きに行くと言っていた。
しかしユルグには件の人物がどこにいるか分からない。
「一難去ってまた一難ってやつだな」
溜息交じりに零して、ユルグは帝都を彷徨う。
間が空いて申し訳ない……( ;∀;)
戦闘回はいつも遅筆になるのですぅ
 




