既視感の正体
「それならよく知ってる」
――相手の出方を見ろ。
ユルグの師、グランツはいつも言っていた。それが出来てこそ一人前である、と。
この男、グァリバラは彼と同じことを言う。
おまけに戦い方も似ている。
ユルグと違いグランツは良くも悪くも勢いが良かった。守りより攻めの一手を選ぶ性格だ。それでよくカルラやエルリレオに世話を掛けていた。
グァリバラを見ていると、その事がどうしても頭の隅にチラつく。
グランツはルトナーク王国で軍の隊長を務めていた。それはユルグが彼と会う前からのことだ。彼の交友関係も、どんな人生を歩んできたのかも。ユルグは詳しく知らない。
だから、もしかするとグランツとグァリバラには何か関わりがあるのかも。
構えていた剣を下げて、ユルグは彼に問うことにした。
「アンタの師匠、王国で軍の隊長やってなかったか?」
「あァ? なんだ、知ってんのか!? まあ、アイツは有名だったからなァ。どんな屈強な奴でも勝てない。無敗の男だ! 俺でも勝てなかった」
グァリバラの話を聞いてユルグは確信する。
彼の師匠はユルグと同じ、グランツだ。おそらくユルグが彼と会う前にグァリバラはグランツに会って戦闘技術を叩き込まれたのだろう。
「だろうな。俺も結局一度だって勝てなかった。それにしても、弟子が居るなんて聞いてない」
「弟子だァ? 俺はそんなんじゃねえよ!」
ユルグの物言いに反論してグァリバラは吠える。
彼はどうしてか不満げで、鉄棒を地面に叩きつけた。
「あの男は俺よりも強かった! 俺は強い奴が好きだ! だから負かしてやろうと思って、軍属に入ったが……どうやっても勝てねえ!」
悔し気にグァリバラは顔を顰める。
見たところ、彼は強さに固執している。そんな奴に、勝てない相手が居たならばムキにもなるだろう。
「俺が負け続けている間にアイツは軍属から抜けやがった! 勝ち逃げだ! 俺はそれが許せねェ!」
「どうしてそこまでこだわる?」
「俺は最強を目指してんだ! それをアイツは邪魔しやがった!」
グァリバラの苛立ちは最高潮に達していた。
けれどユルグは思わずそれに笑ってしまう。
「ふっ、最強ねえ」
当然それはグァリバラの逆鱗に触れることになる。
「あァ? 何がおかしい!?」
彼は青筋を立ててユルグに迫らんとしていた。あの巨体から殴り抜かれたら、再び立ち上がるのは難しいだろう。
しかしそれを見据えて、ユルグは口を開く。
「俺の師匠が言ってたんだ。誰よりも強いっていうのは、なってしまえばどうってことない。退屈で刺激もない、下らない夢だってな」
「……っ、なんだと?」
「どうせ見るなら、夢の先を見ろ。グランツはそう言っていた。俺もそれには賛成だ。数少ない、尊敬できる教えってやつだな」
肩を竦めて、ユルグはこんな状況だが懐かしむ。
この時のグランツの言動にはカルラもエルリレオも珍しく意見しなかった。
もちろんその後、色々と問題はあったのだが……とにかく。
「くだらねえ、……くだらねえだと!? ふざけやがって! そこまで言うなら、俺を倒してみろよォ!」
――今はこちらが優先。
懐かしむのは、その後にしよう。
久しぶりの更新っす
遅筆でごめんよ~




