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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第四章
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これからのこと

 

 風呂から上がり、人心地ついたところでユルグはフィノへと切り出した。


「冒険者になったわけだが、いきなり魔物を倒してこいだとか、そんなことを言うつもりはない」


 ――まずは、戦闘技術を身につけるところからだ。


 部屋に置かれているベッド。それぞれに腰を落ち着けてユルグはフィノへと、これからの予定を説明する。


 フィノにやってもらう事は、大きく分けて三つ。


 剣の修練――これについてはユルグにも考えがあった。


 試しにと剣を持たせてみたが、ユルグの扱う両刃のロングソードはフィノには合わなかった。刀身が長すぎる故にどうしても剣に振り回されてしまうのだ。

 それを踏まえて、比較的扱いやすいショートソードでも持たせてみようと考えたのだが、おそらくこれも合わないだろう。


 根本的な話をすると、フィノには剣を振るえるだけの筋力が無い。両刃剣は刃の鋭さで斬るというよりも叩き付けるといった使い方をする。勿論、刀身の切れ味も大切なのだが、総じて重量のある鉄の塊を構えて振り下ろさなければならない。


 フィノの細腕でそれは至難の業だ。それでも努力して筋力を付ければ可能かも知れないが、そこまでして剣を振るうなら、魔術師らしく後衛での魔法援護に徹してもらった方がマシである。


 しかし、だからといって諦めてしまうのは些か早すぎる。

 この問題に関しては後日、ユルグが武器屋で丁度良いものを見繕ってくるとして。



 剣の次は、魔法の修練――これは、カルラの教え方を真似ることにした。


「いきなり実践で使えなんて言われても無理だからな。最初はこれでコツを掴むんだ」


 言って、ユルグが取り出したのは小ぶりの魔鉱石だった。


 親指と人差し指で輪っかを作る――それくらいの大きさの魔鉱石は、戦闘用ではなく生活用として使われる。

 カンテラに光を灯したり、火付けに使ったり。様々な用途に使われるのだが、このくらい小ぶりであると込められる魔力も微々たるものだ。

 戦闘用の魔鉱石と比べても怪我をするような高威力の魔法は込められない。従ってこれに魔法を込める練習は、初心者にはうってつけなのだ。


「どうやってやるの?」


 受け取った魔鉱石を掌で転がしながらフィノは聞いてきた。


 魔法と聞くと扱いが難しそうに聞こえるがそんなことはない。神官が扱う補助魔法は感覚的に少し難しい所があるが、攻撃魔法となれば話は変わってくる。


 炎や氷は身近にあるものだ。それ故にイメージがしやすい。


 例えば、炎魔法を習得しようとするならば、一晩中焚き火の前に陣取って、炎に顔を炙られながら瞑想していれば自然と使えるようになる。

 これもカルラのやり方なので、なぜだと突っ込まれれば答えに窮するのだが、フィノは取りあえず頷いた。


「とにかくコツさえ掴めれば良い。今日は一日中それを肌身離さず持っていてくれ」

「んぅ」


 ――そして、三つ目。

 これについては戦闘云々は関係ない。関係はないのだが、なんとしてもここで叩き込まないと後々苦労するだろう。


「それと平行して、お前には言葉を覚えてもらう」

「ん、……フィノ、しゃべれるよ」

「そうなんだが、そういうことじゃなくて……言葉って言ったのは部分的なものだ。教養って言えば伝わるか?」

「きょうよう」

「人前でおいそれと裸になるなってことだ」

「むぅ」


 ユルグの言に、フィノは口を尖らせた。

 なんでも――誰にでもそんなことをするわけではない、とのこと。


 だったらなぜああも、ユルグの前ではホイホイ脱ぐのか。

 ユルグ以外の他人と接しているフィノは殆ど目にした事は無いし、あれが通常運転だと誤認しても仕方ないだろう。


「だって、ユルグはみなれてるから」

「前々から思っていたんだが、お前、貞操観念がおかしくないか?」

「ていそう……?」

「それと、見慣れてるとか言うな。あれは不可抗力だし、変態だと思われるだろ」


 この宿舎に他の人間がいたのなら確実に誤解を招きかねない。それほど、フィノのそういった無頓着な所は恐ろしいのだ。


「とにかく、色々と物は覚えてきてはいるが、まだ心許ないだろ」


 出会った頃と比べると、ラーセの教育もあり格段に良くはなっているが、それでもまだ粗が目立つ。


 冒険者としてやっていくにしても、ただ魔物と戦うだけではない。他の同業者と情報交換やらコミュニケーションを取らなければならない場合もあるだろう。


「冒険者はなめられたら終わりなんだと、俺の師匠が言っていた」

「へえー」


 これの発言元はグランツだ。

 彼は専ら資金繰りにギルドの依頼を受けていた。それにユルグも度々付き合わされていたのだが、よくこういったことを言っていたと記憶している。


「腕っ節が強いとそれだけ横暴な態度を取ってくる輩も居るんだ。面倒ないざこざを避けられるならそれに超したことはないからな」


 将来的にフィノがどんな道を辿るのかは分からない。けれど、文字の読み書きや常識などは覚えていて損はないものだ。

 覚えも良いだろうし、もしかしたら剣や魔法を習得するよりもこっちの方を先に物にするかもしれない。


「やることは沢山あるから気張っていけよ」

「はあい」


 掌の内側に隠した魔鉱石を握りしめて、フィノは屈託のない笑顔を浮かべるのだった。




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