表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
510/573

お互い様

 

「魔王を辞めろだって?」


 突然のマモンの提案にユルグは顔を顰める。睨みつけるような眼差しにマモンは静かに頷いた。


『うむ。端的に言えばそうなる』

「お前、それがどういうことか。分かって言っているんだろうな?」


 詰問するようなユルグの言葉に、マモンはそうだと答える。

 当然、快い返事が来ることはない。


「今更そんなことを言って、どういうつもりだ? そもそも俺は好きでこんなことをやっているわけじゃない」

『それは重々承知している』


 声音に怒気が垣間見える。

 マモンの提案はユルグの神経を逆なでするものだ。そのことはマモンも充分に理解している。


『黒死の龍を倒すためとはいえ、あれがおぬしの望んだ結末ではないことは知っている。だからこそ……今だからこそ、この提案をしているのだ』


 宥めるようにマモンは諭す。


 四災を解放すれば瘴気は消える。そうなれば魔王という存在も不要になる。

 いずれそうなるのならば、ユルグが魔王であることを辞めても、それは遅いか早いかの違いでしかない。

 それに今のユルグの身体は、以前のように瘴気の影響を受けていない。つまり寿命の問題も、命を繋ぐために魔王の器である必要もないのだ。


『これから先、守るべきものも増えていくはずだ。ならば不安要素は消した方が良い』

「俺がそれに賛同したとして、その後はどうなる? お前ひとりが犠牲になって消えるならいいが、そうはならないだろ」

『……それなら適任がいる』


 ユルグの問いを予見していたマモンは自らの見解を述べる。


『一時的な依代としてはフィノが適任だ。彼女はログワイドの縁者でもある。魔王としての役割を与えられる前の状態に戻ると思えばいい』

「それに俺が分かったというとでも思うのか?」

『勘違いしないでほしい。以前と違って魔王の役割も変わっている。四災を利用して瘴気をなくすなら、己の器であっても身体への害はない。あくまで瘴気が消えるまでの一時的なものだ』


 マモンの意見にユルグは多少なりとも難色を示す。

 言い分は理解できた。しかしどうしてマモンがそうまでするのか。それが掴めないのだ。


「そうすることでお前に何の得があるっていうんだ」

『損得の話ではない。己はただおぬしの身を案じて言っているだけだ』


 ユルグの疑問に、マモンは自分の気持ちを正直に答えた。

 思ってもいない吐露に、ユルグは意表を突かれる。


「お前、変わったなあ」

『それはお互い様だろう』


 マモンの心変わりはここまでのユルグを見てのことだ。

 初めて会った時から今まで。変わったといえば、それはユルグのことだろう。


 マモンの心情を知ってユルグは腕を組んで思案する。


「……わかった。だけど、一つ条件がある」


 ユルグが出した条件は、弟子であるフィノについてだった。


「フィノのことだ。こんな話をされたら二つ返事で承諾するだろ」

『うむ』

「それだと俺が納得しない。俺のためって理由なら譲渡はなしだ」


 これだけは譲れない、とユルグは言った。それにマモンは頷く。


『わかった』

「その前に、一度あいつとは話しておかないとな。色々と状況も変わったし……何を遠慮してるんだか」


 やれやれと溜息を吐いたユルグに、マモンは明後日の方を向く。

 こういうところで素直になれないのは、今でも変わらないらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ