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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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見えなかったもの

 

 ドンドン、と小屋のドアを叩く音でユルグは起こされた。

 昼飯を食べた後の昼寝を堪能していたところ、さっさと起きろとでも言うようにドア向かいにいる人物は声を上げる。


「にいちゃん!」


 声が聞こえたと同時に外からの冷たい空気が室内に入り込んできた。

 訪問者はやんちゃなアルベリクとそのお供である黒犬のマモンだった。


「アルベリクか。どうしたんだ?」

「あそびにきた!」


 寝ていた寝台から身体を起こして問うと、元気な回答が聞こえてくる。彼らしい答えだが、それでもこうして遊びに来るのは珍しい。

 アルベリクからの遊びのお誘いも、エルリレオから止められているのか最近はぱったりと途絶えていたのだ。


「さっき街でねえちゃんに会って、にいちゃんが一人で留守番してるから話し相手になってくれって」


 疑問に思っているとアルベリクは寝台の傍にある椅子に腰かけて語ってくれた。

 なるほど、と思うと同時にユルグが見た少年の顔は少し不満げである。大方、話し相手じゃなく、遊び相手が欲しいといったところだろう。


「それ、退屈じゃないか?」

「え、うーん……うん!」

「そう言うと思ったよ」


 試しに聞いてみると、アルベリクは少し迷ったあとに元気よく頷いた。

 子供は体を動かして遊んでこそだ。ただ話をするだけなんて退屈で仕方ないだろう。そこでユルグはある提案をする。


「外で雪遊びでもしよう」

「えっ、いいの!?」

「少し動いておかないと身体が鈍るからな」


 嬉しそうなアルベリクに笑って答えると、それを聞いていたマモンから小言が飛んでくる。


『絶対安静だと聞いたがなあ』

「……バレなきゃ問題ない」


 痛いところを突かれてユルグは苦い顔をする。

 これについてはエルリレオにもミアにも口煩く言われている。それだけユルグのことを心配しているのだが、流石にずっと寝てばかりでは身体の動かし方を忘れてしまう。


「じいちゃんとねえちゃんには内緒にしておく! マモンも言っちゃダメだよ!」

『はあ……まったく。後で誤魔化しが露見して叱られても知らんからな』


 小言を言いつつもマモンは黙ってくれるようだ。

 いつも一緒にいるからか。マモンはアルベリクには随分と甘いらしい。


 二人のやりとりを聞きながら、ユルグは外套を羽織ると外へ出た。ユルグを追いかけて二人も外へと飛び出してくる。

 外はあいにくの曇り空だった。しかしそんな天気でも気分転換には充分である。


 久しぶりに雪の上を歩く。足裏に感じる浮ついた感覚に戸惑いながらも大きく伸びをしていると、突然背中に衝撃を受けた。


「やったな」

「油断してるのがわるい!」


 振り返りざまにアルベリクは再度雪玉を投げてきた。それを手で受け止めて軽く投げ返す。


「なかなか上手いじゃないか」

「ほんと!?」

「狙ったところに当てるのは誰にも出来ることじゃないよ」


 褒めてやるとアルベリクははにかんだ。


「そうだな……将来は狩人なんて向いてるんじゃないか?」

「お、おれでも出来るかな?」

「今度暇な時にでも教えてやるよ」

「ほんと!? やった!!」


 少年は飛び上がって喜んだ。手に持っていた雪玉を放り投げると、ユルグの傍に駆け寄ってきてあれやこれやと質問攻めにする。


「にいちゃん、狩りもできるの!?」

「むかし師匠に……エルに教わったんだ。そんなに難しいものじゃない」

「へえ~~」


 アルベリクの相手をしているユルグを見て、マモンは驚いていた。

 勝手な思い込みだが、ユルグはあまり子供の相手は好かないものだと思っていたのだ。しかし今の様子を見ればそうではなかったのだと分かる。


『ふむ……意外ではあるな』


 しかしマモンの所感もあながち間違いではない。

 本来のユルグはこうなのだろう。今までの彼が普通ではなかったのだ。心に余裕がなければ他者に優しくは出来ない。

 そこまで追い詰めた原因はマモンにもあるのだ。仕方ない事とはいえ、酷なことを強いてしまった。


 ひとりしおらしく反省していると、陰っていた雲の隙間から夕陽が顔を覗かせる。


「あーあ、そろそろ帰らなくちゃ」

「ああ、もうそんな時間か。気を付けて帰れよ」

「うん。にいちゃん、またね!」


 アルベリクはハイタッチすると、名残惜しくも帰り支度を始めた。

 その背中にマモンは声をかける。


『アルベリク』

「ん、なに?」

『こやつと少し話をしていく。先に帰っていてくれないか』

「わかった! 夕飯までには戻ってきてね!」


 アルベリクは頷くと、手を振って山を下りていく。

 突然のマモンの言動に驚いたのは、それを聞いていたユルグだ。


「いきなり何なんだ?」

『ひとつ提案がある。おぬしにとっても悪いものではあるまい』


 居住まいを正してマモンはあることを申し出る。

 それはユルグにとって、思ってもみない提案だった。



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