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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第十章
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思いがけない報酬

加筆しました。

 

 麓の街へと辿り着いたフィノは、方々をヅェ・ルヴィとまわって歩いた。

 はじめは警戒していた住民だったが、彼がどういうものか知ると戸惑いながらも受け入れてくれた。


「ははあ、なるほど。こないだの山火事はあんたらの仕業ってわけだ」

「その件については謝罪しよう」

「いやいや、責めようってわけじゃないよ。むしろ感謝してるんだ。ここんところ随分と暖かくなって過ごしやすいからな」

「……これで暖かい?」


 肉屋の店主と店先で話ながら、ヅェ・ルヴィは困惑している。彼ら竜人(ヤト)は寒さに強くはないので、今の気温でも堪えるのだ。


「兄ちゃんは寒いのは苦手かい?」

「とても」

「ははっ、じゃあちゃんとあったかい格好しなきゃなあ! 安値で買える良い店があるんだよ。そこの角を曲がって――」


 世間話をするヅェ・ルヴィは意外なもので、もう街の人達の輪に溶け込んでいる。これもひとえに彼の人当たりの良さから来るものだろう。礼儀正しく紳士的である。いかに彼の姿が変わっているからといっても、まともであれば寛容になれるものだ。


「んぅ、それどうしたの?」

「餞別にと肉を貰った。ありがたい」


 肉屋の店主から一抱えもある肉塊を貰って、ヅェ・ルヴィは嬉しそうだ。


「みんなに紹介は終わったし、必要なものも買えたから戻ろう」

「ここまで良くしてくれた恩は忘れない。何か礼が出来れば良いのだが……」

「お礼?」


 彼の発言にフィノはあることを閃いた。


「だったら、呪詛について教えて欲しい」

「呪詛……?」


 フィノのお願いに彼は不思議そうにする。どうしてこんな事を言うのか、意図がわからないからだ。

 フィノの考えはマモンの問題をなんとか解決しようというものだった。


 今のマモンは遅かれ早かれ、瘴気の消滅によって消えてしまう身である。もちろんそれは阻止するつもりだけど、現状何の手段も持ち合わせていない。

 唯一の手掛かりと言えば、マモンが呪詛を使って創られたということ。ならばそれを利用すれば打開策も見つかるかもしれない!


「良いが、キミがそれを扱うには荷が重すぎる。アレには相応の対価が付き物だ」

「半分エルフだから、寿命なら」

「キミがそれでもかまわないと言うなら止めはしないが……それよりももっと良い方法がある」

「良い方法?」

「私たちがその対価を肩代わりする方法だ」


 妙案を思いついたと、彼は意気揚々と宣言する。

 しかし、彼の言うそれがどういうものか。知らないフィノではない。もちろん大反対だ。


「そっ、そこまでしてもらうつもりはない!」

竜人(ヤト)ならば身体が少し欠けても問題はない。それが一番対価の払い方としては被害が少ない」

「で、でも……」


 渋るフィノに、ヅェ・ルヴィは任せてくれと笑って言った。




 ===




 ――その頃。


 街へと行ったフィノを見送った後、ヨエルは山頂の探索をすることにした。

 今回はマモンではなくドゥ・ルヴィに肩車をされている。特等席だ。


「なんでここ、こんなに暑いの?」

「あそこに孵化場があるからだ。ほら、あの窪みが見えるか?」

「うわっ!」


 ドゥ・ルヴィはヨエルにそれ見せようと孵化場に近付く。しかし一歩近づくにつれて顔を熱風が撫でていく。これ以上近付いては干からびてしまう!


「ここでいいよ!」

「そうか?」


 ヨエルの制止にドゥ・ルヴィは止まってくれた。

 ここからでも孵化場の様子は見える。しかしじっと見つめていてもあそこが何をする場所なのか。ヨエルには少しもわからなかった。


「あの場所は竜人(ヤト)が生まれる場所だ。煮だった大地からタマゴが湧いてくる。我らには雄雌の区別がないんだ」

「じゃあみんなタマゴから生まれたんだ」

「そうだ。キミが触れている俺の鱗皮は柔らかいだろう? 生まれたばかりの者は皆こうなんだ。時間が経てば硬くなる」


 この鱗皮が竜人(ヤト)の強さの一因なのだと彼は語る。

 硬い鱗皮は刃物も通さず、熱にも強い。身体を守る天然の鎧なのだ。


「ところで……キミといっしょにいるあの黒い者はなんだ?」

「マモンのこと?」

「そう、それだ。とても奇妙だ。本来ならあのように身体を維持出来るものではない」

「そうなの?」


 ヨエルは振り向いてマモンを見遣る。彼は背負っていたギィ・ルヴィと何やら話し込んでいた。

 いつも傍に居てくれるから、マモンがそんなに特別な存在だとはヨエルは思っていなかった。けれど、ドゥ・ルヴィの話ではそう簡単なものじゃないみたいだ。


「アレがキミを依代として存在しているなら、今のままでは居られないだろう」

「えっ?」


 彼の不穏な発言にヨエルはドキッとする。けれど、ドゥ・ルヴィは構わず続ける。


「何かが存在するにはそれなりの動力が必要になる。生物ならば食事で代用は可能だが、あの者は生物とは言い難い」

「じゃあマモン、死んじゃうってこと!?」


 眼下にあるドゥ・ルヴィの顔を覗き込んで問い質すと、彼はヨエルの質問に難色を示した。


「今の段階では何とも言えない。キミが依代であり続けるならば完全に消えてなくなることはないだろうが……今のままではいかないはずだよ」

「そんな……」


 せっかく一緒に居られるようになったというのに、またすぐにお別れになるかもしれない。それを聞いて、ヨエルはしょんぼりと肩を落とした。

 ドゥ・ルヴィは明言しなかったが、最悪の場合マモンが消えてしまう可能性もあるのだ。それを聞いてしまったヨエルは気が気ではない。


「そんなに落ち込まなくてもいいよ」


 落胆しているヨエルに、ドゥ・ルヴィは明るく話しかける。


「彼は呪詛で創られた。ならばそれを使えば何かしらの解決策が見つかるかも知れない」

「ほんと!?」

「ンアァ、もちろんだとも。だから安心するといい」


 前のめりになって落ちそうになるヨエルを担ぎ直すと、ドゥ・ルヴィは皆の元へと戻っていく。


最近、体調を崩しまくりで執筆作業が滞っています。本音は毎日更新したいのですが、限界を感じているので今日明日と更新はお休みするかも知れません。

もうしわけない……

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