秘密基地を作ろう!
――その頃。
フィノが麓の街まで行っている間。ヨエルは崩れた秘密基地の前で仁王立ちしていた。
彼の手には大きなショベルが握られている。まずは崩れた秘密基地を掘り起こそうという魂胆なのだ。
『掘り返さずとも、新しく場所を変えて作れば良いのではないのか?』
「それだとダメ!」
ヨエルはマモンの意見を頑なに拒絶した。
その理由はなんてことはない。ヨエルはこの秘密基地に大事な宝物をしまっていたのだ。
雪虫の大きな脱皮の殻とか、きれいな雪の結晶とか。他人が見たら下らないと思う物だが少年にとっては宝物である。
それが崩れた秘密基地の下に埋まっている。それを掘り起こさなければヨエルの気は済まないのだ。
ヨエルの説明を聞いて、マモンは仕方ないなとショベルの一つを手に取った。
『これを掘り起こすとなると一日では終わらぬかもしれんなあ』
秘密基地、もとい雪山はガチガチに凍っていた。新雪のように柔らかくはない。到底、子供の力では掘り起こすのは不可能だ。
それを前にしてヨエルは早々にショベルを放り投げた。
「フィノにも手伝ってって、お願いしようかな」
『フィノは忙しいのではないか?』
「えっ、おしごと終わったって言ってたよ」
『まあ、そうだが……なにぶん多忙な身だからなあ』
「戻ってきたらお願いしてみようっと」
ザクザクとマモンが切り分けた雪塊を後ろに放り投げながら、ヨエルは呑気に語る。
フィノならば魔法でこんな雪山もすぐに解体してくれそうだ。
ヨエルの一案は知恵を絞った結果である。何も楽をしたくて手伝わせようとしたわけではない。
などと、言い訳がましくマモンに抗議しながら少年は黙々と手を動かす。
その直後――
「……あれ?」
ふいにヨエルの手が止まった。
マモンがそれに気づくと同時に、ヨエルはぴたっと雪山に耳を当てる。
『どうしたのだ?』
「なんか聞こえる……」
少年の呟きにマモンは首を傾げた。彼の耳には何も届いていない。
しかしヨエルは何か声が聞こえるという。ということは……この崩れた秘密基地の中に何かがいるということだ。
『それはなんと言っているのだ?』
「ううんと……たすけて」
ここに埋まっているなにがしかは、助けを求めている。
それを聞いてすぐに掘り起こして助けてやるべきだ、というヨエルの意見にマモンはすぐに首を縦には振らなかった。
この秘密基地の残骸の中にいる者の正体が掴めない。街の子供がわざわざこの雪山に遊びに来るとは思えない。麓の街の住人はシュネー山には近付きたくないのだ。遊び場ならば街の近くになる。
だからこの中にいる者が何であるか。マモンにはまったく見当がつかない。
「なんで助けてくれないの!?」
『掘り起こすのはいいが、それが危険ではないと言い切れないからだ。どこの誰かもわからない』
「でも困ってるよ!」
渋るマモンとは対照的に、ヨエルは助けるべきだと言う。その意見にマモンはショベルを置いて熟考する。
ヨエルの言っていることは間違いでもないし、そうするべきだとマモンも思う。しかし如何せん、状況が怪しすぎるのだ。ここにいる何かが良い奴だと断言できない限り、少年を矢面に立たせるような事は出来ない。
『わかった。ただし条件がある』
「なに?」
『ここから掘り出した何かが何であれ、安全だと証明できるまで近付かないこと。それが守れるようなら』
「わかった! わかったからはやく!」
『うっ、……ううむ。それはわかったとは言わないのではないのか?』
ヨエルに急かされてマモンは渋々、ショベルを持ち直すと雪山を掘り進める。その様子をヨエルはマモンの忠告通り、彼の背後で見守っている。
固い雪を掘り進めること十数分。ついにその時は来た。
『むっ、見えたぞ』
雪山の中心近くまで掘り進めると、そこには小さな空洞が出来ていた。そして、その穴からマモンも、もちろんヨエルも見たことのないモノが出てきたのだ。
子供一人が入れるくらいの空洞から出てきたのは、ヨエルと同じくらいの全長を持つトカゲだった。




