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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第十章
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秘密の約束

 

 突如現われた巨木は帝国領の東側……ちょうどアンビルの街の近くに聳えている。

 それを知った瞬間、フィノの脳裏に閃いたのは森人(エルフ)の四災が囚われていた大穴の傍である、ということ。


 きっとあの巨木も、スタール雨林の上空にある浮遊城と同じく四災の解放によって表れた変化なのだろう。

 それがどんな影響を与えるのか今はまだわからない。何よりもこの場所からでは確かめようがないのだ。


「これから忙しくなりそうだなあ」


 浮遊城と巨木、二つの事例があることからシュネー山脈にある大穴の付近でも何かしらの変化があるはずだ。

 今からその場所に帰るわけだが……用心はしておくべきである。結果的に何か面倒事に巻き込まれる可能性だってある。

 山小屋に戻ったら数日はゆっくりしようと考えていたフィノだったが、その想いも儚く消えてしまいそうだ。


「マモン、あれなんだろ」

『ただの巨木というものでもなさそうだが……』

「てっぺんに登ったら雲の上までいけるかな?」

『流石に地上から登り切るのは無理ではないか? 辿り着く前に疲れ切ってしまう』

「ええ? それじゃあマモンが頑張ってのぼってよ」


 二人の会話を聞きながら、フィノは帝都までの馬車を手配する。

 流石に広大な帝国領土を徒歩移動は堪える。楽できるところは楽をすべきだ。


 馬車に乗れると知って喜ぶヨエルを連れて、フィノは早々にメルテルの街を発った。そこから一日半かけて、帝都のゴルガまで辿り着く。



 訪れた帝都は戦争が終わった為か、以前よりも活気に溢れていた。

 しかしそんな帝都でも話題になっているのはあの巨木の件だ。あんなものが突如として生えてきたのなら誰だって気にはなる。


「なんだかとっても嫌な予感がするなあ」


 独り言を呟きながら、アルベリクへの土産を見繕って楽しそうにはしゃぐヨエルを連れて王城へと向かう。

 アリアンネへの謁見を望むと、フィノの来訪を予期していたのか。すぐに取り次いでくれた。


「やっと来てくれましたね」

「うっ」


 開口一番、アリアンネの発言にフィノは居心地の悪さを感じた。バツが悪いというか……瘴気をなくす目的は果たせた。けれどその結果が方々に出ているのだ。

 戦後の処理に加えてそれへの対処もある。アリアンネもそれに対して色々と文句もあるはずだ。


 何を言われるのか。身構えていると、気まずそうな顔をするフィノにアリアンネは労いの言葉をかけてくれた。


「色々と言いたいことはありますけど……あなたのおかげです。ありがとう」


 子細を聞くまでもなく、何があったのかを察したアリアンネは、フィノに深々と頭を下げた。

 いきなりの事に慌ててそれをやめさせる。

 瘴気をなくすことはフィノの願いでもあったのだ。だから皇帝陛下にこのように畏まられると逆に恥ずかしい。


「い、いいから! 自分の為にしたこと! アリアもたくさん協力してくれたからいいの!」

「きっとわたくしだけではここまで出来なかったでしょう。ここまでフィノが諦めなかった、努力の成果です。もっと誇っても良いのですよ」

「そっ、そんな褒められると照れちゃうから……これでおわりにしよう!」


 慌てて話を遮るフィノに、それを眺めていたヨエルがマモンに不思議そうに問いかける。


「フィノ、なんかすごいことしたの?」

『前人未踏というやつだな』

「ぜん……なにそれ?」

『今まで誰も成し得なかった偉業……まあ、とってもすごいことをしたのだよ』

「ふぅん……だからマモン、あんなに嬉しそうだったんだ」


 少年にはフィノが何を成したのか。その凄さが理解出来なかった。

 それでもああして皇帝陛下が頭を下げるくらいだ。ぼんやりと、とってもすごいことなのだ、という事はわかる。


 照れてはにかむ横顔を見て、心の底から嬉しいのだとヨエルは気づいた。なんだか晴れ晴れとした笑顔だ。

 この一年、フィノと共にいたがあんな風に笑った彼女をヨエルは一度だって見たことがなかった。いつもいつも何か思い詰めているような表情をしていたし、元気がないように見えたのだ。


 フィノと一緒に旅をするようになって、ヨエルはその変化に少しずつ気付けるようになった。

 気を遣ってヨエルの前では気丈に振る舞っているけれど、無理をしているのは子供ながらにわかってしまうものだ。

 わかってしまったら心配にもなる。けれどヨエルにはフィノの抱える問題を解決できる力はない。だからといって放ってはおけない。

 ヨエルにとって、フィノはマモンと同じ。大切で、大事な家族なのだから。


「フィノ、たくさん頑張ったんだ」

『この十年、脇目も振らずだからなあ。……あんなことがあっては、志半ばでは終われぬのは当たり前か』


 しみじみと語るマモンの話を聞いて、ヨエルは良いことを思いついた。

 アリアンネと話しているフィノに聞かれないように、小声でマモンに耳打ちをする。


「帰ったらお祝いしよう! フィノにないしょで!」

『ふははっ、それはいいな。きっと喜んでくれるよ』

「ぼくとマモンで準備してね。なにするかは……考えておいて!」


 秘密の約束をマモンと交わして、ヨエルは無邪気に笑みを浮かべた。


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