変革をもたらすもの
誤字修正しました。
「さて。私の元に君が来てくれたことだ。最後の仕上げといこうか」
気落ちしたフィノに構いもせず、四災は声高に宣言する。彼の一言で、皆の視線が一気に四災へと注がれた。
「最後の仕上げ?」
「ああ、そうだ。君は私が地上に戻った暁には世界を元の姿に戻すべきだと言ったね」
「ええ、それは今も変わらない。本当はあいつらを消してやりたかったけど……この結末には何の不満もないわ」
四災は女神に意見を聞くと、次いでフィノに問う。
「三番目の変革者となる君も、それで良いのかな?」
「……うん。そうして欲しい」
それについてはフィノも同意している。何も問題はないと答えを出した。
そうすると四災は続けてある事をフィノに聞く。
「私を解放した君に問いたいのは、その後の世界の在り方だ」
「……在り方?」
彼の発言はフィノにとって意外だった。四災は自らの目的より他には興味がないと思っていたからだ。
理解が追いつかないフィノに、四災はゆっくりと説明をしてくれた。
「世界を元の姿に戻すのは容易い。しかし、この五千年に培ってきたものも多くある。その最たるものが魔法だ。私が君に問いたいのは、彼女が創り出した魔法。それをどうするか、ということだね」
「それって……つまり」
「魔法を残すか、消してしまうか。君の手中にあるのはその二択だ。どちらを選んでも私はそれに異を唱える事はない」
「もし、魔法を消すっていったら?」
「もちろん従おう。その場合、魔法の源泉である女神を殺すことになるがね」
無人の四災はフィノの問いに素っ気なく答えた。惜しむこともなく、冷徹に切り捨てるのだ。
「で、でも……あなたはそれでいいの!?」
「構わないよ」
「私も、未練なんてないし目的も達成された。これ以上望むものは何もないから、殺されたとしても文句はないわ」
もともとそういう運命だったし、と女神も心残りはないという。
本人たちは既に達観していて、フィノだけが踊らされているのだ。なんだか納得がいかないながらも、彼らがそれで良いと言うのなら余計な口出しをすべきではない。
「それで、君はどうしたい?」
「私は……残すべきだと思う」
フィノの決断に、四災はわかったと頷いた。
女神は明確な思惑があって魔法を創ったが、今やそれは世界になくてはならないものになっている。これからの発展に必要不可欠なのだ。
それに……世界を元の状態に戻すべきではあるが、何もすべてが同じでなくてもいいのではないか、とフィノは考えている。
そうした結果、また同じ結末を迎えました、なんて間抜けにもほどがある。
「ああ、だが……彼らがこれを許すかどうか。それが問題だね」
「彼ら?」
「他の上位者たちのことだ。私も彼らがどう動くか。予想がつかない」
ふとフィノから視線を逸らすと、四災は次いである人物を指名する。
「そう、君のことだ」
彼の視線の先はフィノの後ろを指していた。それに釣られて背後を振り向くと見知った姿がフィノの目に映る。
「……アルマ?」
「機人の君は、彼の干渉器だろう? いつまで傍観者で居るつもりだ? それとも、怖じ気づいて私に文句の一つも言えないのかな?」
あろうことか、無人の四災は煽り文句を発した。
それを聞いたアルマ……否、機人の四災は大口を開けて反論する。
「戯言を言うのも大概にしろ。よほど穴底に帰りたいと見えるが……そうなれば永遠に日の目を見ることもないだろうなあ?」
「ふはは、面白い事を言うね」
無人の四災はアルマを見下ろしてそれを笑い飛ばした。
しかし機人の四災のあの物言いはわりかし本気であるとフィノは感じた。彼らを大穴の底に押し込めた元凶が目の前にいるのだ。不満の一つも言いたくなるというもの。
「貴様も女神とやらも不愉快極まりないが……培われてきた技術には何の罪もない。少々癪ではあるが、ここは大人しく目を瞑ってやろう。無人どもにまた同じことをされても面倒だ」
機人の四災はうんざりとした様子で嘆息した。
彼の思惑はフィノにも理解出来る。魔法という技術を用いることで、人間たちの劣等感を払拭しようという魂胆なのだ。
これから先、古代のように他種族が復活するのならば、人間は別の意味で進化をするべきだ、と彼は言外に言っている。
もちろん、フィノもそれに異論はない。




