悪魔の所業
あとがきあります。(少し長いです)
疑問に思っていると、女神は今まで溜まっていた鬱憤を吐き出すように捲し立てた。
「呪詛が創られた所まではまだ良かった。一部の関係者だけで問題が解決していたからね。でも、自分たちに都合が悪いからってそれを取り上げて、悪者を仕立て上げて……あまつさえは面白くもない筋書きを描いてまるで神様気取り! 私が言えた事じゃないけど、そんなことをされたら今まで私が積み上げてきたすべてが台無しよ! 何の為に反吐が出る慈悲を吐いて、めいいっぱい優しくしてあげたと思ってるの!」
今まで定命に対して愛想を振りまいていた為か。女神はたいそうご立腹だった。
それもそのはず、女神は人間がとても嫌いで彼らの滅亡さえも計画の内に入っていたのだから。ここに居る誰よりも嫌悪しているのだ。
怒り心頭な女神に、四災は宥めるもせず楽しそうに笑った。
「ハハハッ、総じて上手くいかないと言ったのは君だろう。結局その言葉通りになったんだ。預言が当たってしまったわけだね」
「笑い事じゃないわよ! 終いにはあいつら、勇者なんて大層なものを作って好き勝手やるんだもの! あいつらが滅びるよりも前に私が憤死しそうだった!」
口汚く罵る女神の言葉に、フィノはふと疑問が湧いた。
今の彼女の口振りでは、勇者の存在には女神はまったく関与していないとでも言いたげなのだ。
「ま、まって! 勇者って、あなたが決めてるんじゃないの!?」
「いいえ。私は少しもそれに関与していない。力は貸しているけれど、それ以外のこと……対象者の選定はあいつらが勝手にやっていることなの。女神の神託だ、なんて嘯いているけどね。本当に迷惑よ」
「そっ……そんな」
女神の返答にフィノは言葉を失う。
勇者の選定に女神は一切関わりがない。それすなわち、国の権力者たちの意向でどうにでも出来るということだ。
ユルグが勇者に選ばれたのには、れっきとした理由があった。彼があんなにも悩み苦しんでいたのは、私利私欲に塗れた人間たち……すべて見知らぬ他人のせいだったのだ。
「……っ、それの理由はなに?」
「勇者に選ばれた理由のこと? さあ? 興味もなかったから私は何も知らない。誰が選ばれようとも私にはどれも同じだもの」
でも――、と女神は続ける。
「生贄に選ぶに値する人選って言うのは昔から決まってる。身寄りがなくて、居なくなっても誰も困らない、身分の低い者。奴隷とか労働力にならない子供……それが一番使い勝手が良い」
彼女の一言に、フィノはハッとした。
生前、ミアに聞いた事がある。ユルグとは幼馴染みだったけれど、彼の両親が死んでしまったから勇者として旅立つ前は一緒に暮らしていたのだと。
ユルグだけではない。先代の勇者についても同じだ。
ティナの弟……彼がユルグの前の勇者であったとフィノは聞いている。その彼も女神が言った条件に当て嵌まる、ハーフエルフの奴隷だった。
辛い境遇にいる彼らに、世界のために命を賭して戦って死んでくれと、体の良い戯言を述べて宣告するのだ。
これが悪魔の所業でないのなら、なんというのか。
『フィノ……』
「マモンはこれ、知ってた?」
『いいや。なにも……何も知らなんだ。ログワイドの一族から己を切り離した後、勇者という存在がうまれた。己に与えられた使命は、魔王としての役目のみだ』
何も知らなかった、とマモンは言った。
魔王に与えられた能力で彼は勇者の居所が知れた。けれどそれは彼の使命を円滑に進める為だ。そこにマモンの意思は介入していない。すべて千年前の権力者たちが画策したことなのだ。
フィノはマモンの言葉を信じた。いまさら彼が嘘を吐くはずがない。それに……マモンが今まで、どれだけ苦悩してきたかフィノは知っている。それを想えば疑う心なんて浮かぶはずもない。
「フィノ……だいじょうぶ?」
マモンに次いで、ヨエルが心配して声を掛けてくれる。
それに笑顔を作って応じるけれど、上手く笑えている自信がない。きっと酷い顔をしているのだろう。ヨエルはますます不安そうにして、フィノの手を握った。
「うん……大丈夫。少し悲しいだけだから」
ヨエルも今の話をすべて理解出来たわけではないはずだ。けれど、とても悪い何かがあったのだと察して、心配してくれている。
少年の気遣いに、フィノは拙く取り繕う事しか出来なかった。
勇者の選定云々の伏線はちょろっとありました。わかりにくいけどね!(以前書いた番外閑話の話)
その後の後日談的なので王の話に不信感を抱いていたグランツニキは、裏があると気づいていたみたいです。
===
伏線回収もあらかた終わったので、後は風呂敷を畳むだけになりました。
その前に、番外を書くといってまだなので今週末(たぶん日曜日)に二話分公開します!(第一部のエピローグ前に持ってくると思う)
それに加えて毎日更新分の本編一話もあるので、日に三話更新になると思われます。お楽しみに!(過労死)
最近は私事で仕事が忙しく、頑張って毎日更新は続けているもののクオリティに妥協している時もあります。これについては本当に申し訳ない……(あとで加筆するとかはそれだと思ってください)
それでも折れずに頑張れるのは読者様のおかげなので、完結まであと少し!見守ってくれると嬉しいです!




