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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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二千年前 7

 ログワイドの啖呵に、シサイは面白いものを見たと満足げに笑む。


「なるほど……それで、君はどうするつもりだい? 私や女神を嫌っているとしても、せっかくここまで来たんだ。一つだけ君の望みを叶えてやろう。それがどんなものでも、私は拒みはしない」


 面と向かってあんなことを言ったというのに、シサイは腹を立てるどころか好意的である。

 何をされても計画に支障は無いと高を括っているのか。それとも単純に退屈していて、面白い玩具を見つけた為であるか。


 なんでもいい。シサイは今、どんな望みでも叶えるといった。だったらそれを最大限活用すべきだとログワイドは考えた。


 ……どうすれば女神の鼻を明かしてやれるか。


 彼女の計画は完璧だ。

 女神の前身である少女が真に望んでいたのは、シサイをあの状況から解放することだった。彼女は最期までその行く末を案じていたように思う。

 しかし当の本人は何の危機感もなく、人間たちからの扱いに異を唱える事もしない。それを目の当たりにして、あんな結末に至ったのだ。


 だから女神が一番に重きを置いているのが、この大穴からシサイを地上に出すこと。その後どうなるか、ログワイドは知らない。もしかしたら地上に出た後にまた何かしらの契約が女神とシサイの間に成されているかもしれないが……とにかく、この獣を外に出してはいけない。


 けれど、女神はそうなることも見越していたのだ。

 シサイが地上から姿を消した後、実質的な支配権を握った女神はこの計画が失敗した時の事を考えて保険をたてた。

 それが新たな世界の理である、魔法。


 瘴気への対抗策である呪詛を廃する為に、女神はそれに代わる魔法を創った。これには呪詛のような重い対価は必要ない。加えてある程度、魔法を使える者を彼女の任意で選別できる。

 つまり……信仰の対価に力を与えるという構図だ。


 元々、呪詛は人間には使い勝手が悪かった。短命で脆弱な人間ではそれを扱うにはあまりにリスクが高い。そんな折に魔法という使い勝手の良いものがもたらされた。

 これに飛びつかない奴らではない。

 女神への信仰も、特に制約もなければ特別な事は何もなかった。けれど、神秘を目の当たりにすればそれを有り難がる奴らもいるわけだ。それらが自然と集まって、今の女神信仰に成った。


 ――というのが表向きの戯曲である。


 その根底にあるのは、瘴気をもってして定命……人間を根絶やしにするという明確な悪意。

 その為に呪詛を廃して、それに代わる魔法を生み出し、自身を盲信させて真実から目を背けさせる。


「よくもまあ、嫌いな相手にここまで出来るもんだよ」


 表向き、女神の行いは彼ら人間たちにとっては献身そのものだ。

 かつてあった災厄を大穴の底に押し込めて、世界に安寧をもたらした存在。彼らは見事にそれを信じ切っている。

 その果てに破滅が待っているとも知らずに。


「さて……どうするかな」


 どちらに転んでも女神の思惑は達成される。

 彼女の邪魔をしたいログワイドにとってはこの上なく厄介な状況だ。


 シサイを大穴から出さなければ、いずれ地上は瘴気に満たされて滅亡。

 かといってそれを阻止するために、瘴気を抑えようとすればシサイを地上に出す他はない。


 どちらを選択してもログワイドの負けになる。

 なんとか上手い案はないか……シサイを大穴から出さずに瘴気をどうにか出来る方法。それさえあれば――


「――っ、そうだ!」


 瞬間、ログワイドの脳裏にある妙案が浮かんだ。

 一つだけあるのだ。シサイの解放なしで瘴気をどうにか出来る方法が。


「おい! お前!」

「なにかな?」

「俺が呪詛とやらを使うことは出来るのか?」


 突然の問いかけにシサイは驚いたように身じろぎをした。少しして、彼は静かに頷く。


「出来るよ」

「だったら俺にそれを教えろ。それがお前への望みだ」


 声を張り上げると、シサイはどうにも乗り気ではない様子でわかったと肯首した。


「構わないよ。でも呪詛を扱うならば対価が必要だ」

「知ってる。肉体か寿命か、だろ? それなら問題ない。俺はエルフだ。こんな成りをしているが純血……五百年は生きられる」


 問題ないと語って、ログワイドは先ほど閃いた妙案をシサイに確認の意味も込めて話し出す。


「その呪詛を使って瘴気をどうにか出来るって言っていたが……それは真実か?」

「ああ、出来るよ。術者本人に負わせるか。それとも別の媒体にするかで対価も変わってくるけれど……なるほど、君はそれを選ぶのか」


 ログワイドのやろうとしていることにシサイも気づいたらしい。


「俺の目的は呪詛を使って、瘴気を無効化出来る媒体を創ることだ。俺が自らそれになっても、死んでしまったらそれでおしまいだからな。未来永劫、続いていくものにしたい」

「上手く考えたものだ。彼女の計画は完璧だと思っていたけれど、こんな形で抜け道を作るなんてね」

「俺を止めるか?」

「いいや、好きにするといい。私はこの場所で刻が来るのを待つだけ。それ以外には干渉しない。後の事はすべて彼女に任せているからね」


 シサイはログワイドを止めなかった。好きにしろと言うのだ。

 だったら、とログワイドも好き勝手やらせてもらうことにした。


「それじゃあ契約成立だな」

「ああ……だが、君が呪詛の行使に支払われる対価は莫大なものになる。森人(エルフ)の寿命といえど、そう長くは生きられないだろうね」

「それでいい。長生きしたいとは思ってないもんでね」


 あっけらかんとして答えたログワイドに、シサイは驚いたような素振りを見せた。

 けれど何を言うでもなく、シサイはログワイドを送り出す。


「きっと君の存在は世界に変革をもたらすだろう。さしずめ女神の次……二番手といったところか。それがどのように作用していくか……直に見られないのが残念だ」


 こうして異端のエルフは、世界を変えうる変革者となったのだ。


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