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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
452/573

二千年前 3

前話の最後、切りが良いところまで少しだけ加筆しています。

 

 ログワイドの目の前に現われた奇妙な獣は、奇妙な自己紹介をして満足げに頷いた。

 その威圧感に気圧されながらも、ログワイドは恐れずに話しかける。


「この世で一番だなんて、随分な不名誉だな」

「勘違いしないで欲しい。これは君たちが勝手につけた評価だ。四災などと大層な名称をつけてね」

「……シサイ?」


 聞いたことのない名前にログワイドは困惑する。

 彼も彼の周りの人間たちも、そんな名を口にする者などいなかった。


「知らないな? なんだそれは。女神よりも偉くてすごいのか?」

「女神……ああ、そうだね。彼女より何でも出来て、偉くてすごい」

「ふぅん」


 このシサイとやらの言葉をすべて信じたわけではない。けれど彼のすべてを鵜呑みにするのなら、そんな存在がどうしてこんな地の底に居るのか。


「そんな奴がどうしてこんな場所に居るんだ? 外に出ようとか思わないのか?」

「色々あって今はそれが出来ないんだよ。本当は私もここから出たい。しかし、果たさなければならない約束がある。まずはそれが先だ」


 彼は至極残念そうに語る。

 この獣は大穴の底から出たがっている。けれど何かの制約があってどうしても出られないらしい。

 可哀想ではあるが……ログワイドにとってはどうでも良いことだ。彼がここに囚われていようが居まいが、どうだっていい。


 ――と、普段ならそう考えていただろう。

 けれど、彼の話を聞いてある妙案を思いついてしまった。


「お前、今の話は本当なのか?」

「今の話とは?」

「女神よりも偉くてすごいってやつだ」

「もちろん」


 再度の確認に、シサイは頷いた。

 それを見てログワイドは確信する。この獣を上手く外に出せたなら、あの憎い女神を消してしまえるんじゃなかろうか。彼が画策しているのは、いわゆる神殺しだ。


 ログワイドがこのまま地上に戻ったところで、彼を取り巻く環境は変わらない。その根本の原因は女神にある。あれが居る限り何をどれだけ努力しようとも平穏は訪れないのだ。

 だったら、悪魔だろうが忌まわしきモノだろうがなんでもいい。利用できるものは片っ端から利用して女神を殺す。


 元々、ログワイドは産まれた時から女神の庇護下にはない。今更あんなものを敬う気にもなれないし、女神の存在を信じろだなんて反吐が出る。


「じゃあ、そんなにすごいなら……女神を殺せるか?」


 気づけばログワイドはシサイに、問うていた。


 神殺しは可能か。それを問われたシサイは、ログワイドをじっと見つめて少しのあいだ呆けていた。

 けれどその沈黙も腹の底からの哄笑によって破られる。


「ククッ、ハハハハッ! 面白い事を言う! 女神を殺す!? よくもまあ、そんなことを思いつくものだ!」

「笑いたきゃ笑え。それで、出来るのか出来ないのか。どっちだ?」

「はははっ、ああ面白い。……もちろん、神殺しは可能だよ。君がそれを望むのなら、特別に叶えてあげよう。笑わせてくれた礼だ」

「ほんとうか!?」

「だが、女神を殺すといっても結果的に可能であるというだけ。そこに至るまでの過程に障害が多すぎる」


 喜んでいたログワイドだが、シサイの一言にすぐに落胆する。


「まず第一に、私がここから地上に出なければそれは叶えられない」

「でもそれは約束があるから出来ないんだろ?」

「そうだ。だから結局君の望みは叶えられないということになるね」

「つまりそれは、神殺しなんて出来ないってことか?」

「そうなるね」


 シサイの返答にログワイドはがっくりと肩を落とした。結局、ぬか喜びに終わったわけだ。しかし裏を返せば、その約束さえどうにかしてしまえばシサイを縛っているものはなくなるということ。


「まてよ。その約束を叶えてしまえば、俺の望みも果たせるんじゃないか?」

「まあ、そうなるね。でもそれは絶対に無理だ」

「なぜだ?」

「君は自らの意思で、望んで私に会いに来たわけではない。それが君ではないのなら、いくら君が私にこの場所から出てくれと望んでも叶えてやることは出来ない」

「意味がわからない」

「そういう制約なんだ」


 随分と融通の利かない事をいう。そもそも彼がいう約束とはどういうものなのか。ログワイドの興味は次第にそこに逸れていった。


「さっきから言っている、その約束っていうの。何なんだ? 俺よりも前にお前に接触した奴がいるのか?」

「いいや、こうして私の元に辿り着いたのは君が初めてだ。私が交わした約束は、こうなる前のことを言っている」

「つまり……お前は昔、地上にいたってことか?」

「そうだ。あの時に交わした契約によって私はこの大穴の底にいる。そして来たるべき時を待っているんだ」


 元々地上にいたのがどうしてこんな場所に押し込められたのか。浮かんだ疑問はシサイの一言で解決した。

 彼がこの場所にいるのはその約束とやらのせいだ。それがあるおかげで、この場所に留まり何かを待っている。そしてその待ち人はログワイドではないらしい。


「ひとついいか?」

「なにかな?」

「お前はなんで自分に不利になるとわかってて契約を交わした? どうして断らなかった?」


 女神よりも凄くてえらいのなら、従わないことだって可能だったはずだ。それなのにこうして律儀に守っている。ログワイドにはシサイの考えが理解出来なかった。


「人間の望みを叶える事が私のすべきことだからだ。そこに対象の優劣は関係ない」

「つまりそいつはお前のことを独占しようとしたってわけか」


 気持ちはわかる。誰だってこんな奴がいると知ったら自分の思い通りに動かしたいと考えるはずだ。

 でもそう考えるには少しおかしいということにログワイドは気づいた。


 独占しようと企むなら、シサイがここから出られないようにするはずだ。それなのに彼は約束があるからここから出られないのだという。

 契約の中にわざわざ抜け道を作ったことになる。どうしてそんなことをする意味がある?


「何を考えてこんなことをしたんだ?」

「さあ? 彼女の考えは私には読めない。心の機微には疎いものでね」

「……彼女?」

「君が目の敵にしている、女神のことだ」


 さらっと漏れた事実に、ログワイドは絶句する。

 この獣を大穴に閉じ込めた輩は、他でもないログワイドが最も嫌う女神だというのだ。


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