故人を想う
誤字修正しました。
リエルの案内に従って、二人の元へ向かう途中、彼女はこの十年……ユルグと別れてから何をしていたか徒然と語ってくれた。
「ユルグさんと別れてからは今まで通り、三人で人助けの旅をしていました。色々な場所を巡って……戦争が始まった頃に祖国である王国へ戻ってきたのです」
思い出を語るリエルは楽しそうだ。
それもそのはず、彼女たちは勇者と魔王討伐の旅に出ていたのだから。他人への献身がなければそんなことやっていけない。
ユルグとはソリが合わなくて仲違いしてしまったが、元々、みんな心優しい人達なのだ。
「今は戦時中ですけど……この戦争が終わったらまた三人で旅に出ようかと話していたんです。アロガさんは、ダメ元でユルグさんも誘おうって言っていましたね」
「んぅ、それはむり」
にべもなく断られることを想像して、微かに笑むとリエルも同じ気持ちなのか。くすりと笑みを零した。
「まあ、そうですよね。ですから、どうやって止めようかロゲンさんと話していたのですけど……そうやって阻止する必要も無くなってしまったのですね」
悲しそうな、少し困ったような顔をして、リエルは口を噤む。
ユルグは嫌っていたけれど、元仲間の彼らはユルグの事が好きだったのだ。それはフィノも知っている。だからこそ、リエルもこうして悲しんでくれている。
フィノはそれに嬉しさを感じた。でも、ヨエルは少し違ったみたいだ。
彼はじっとリエルを見つめて、不思議そうにしている。自分の父親の知り合いと言うことはわかっているだろうけど、それ以外は何も知らないのだ。無理もない。
驚き顔に、この人はなんなんだろう、と書いてあるようだ。
それでも自分から尋ねないのは、初対面で警戒しているからだろう。さっきから静かにしているし、まだ話しかけるまでは時間がいる。
話ながら歩いていると、目的地にまで辿り着いた。
リエルに案内されたのは王都にある王城の一室。部屋の扉をノックしてから入ると、雑多な室内が目に入った。
壁際はびっしりと書架で埋め尽くされ、地面にはうずたかく本が積まれている。窓際を見遣るといつか見た顔がそこにあった。
「リエルと、あなたは……ああ、思い出しました。あの時一度だけ会った魔術師さんですね」
十年振りの再会にロゲンもリエルと同様、フィノを快く迎えてくれた。
リエルの話では、今の彼は魔法研究に精を出しているらしい。エルリレオと同じ生業だ。こうして王城の一室に居を構えられるくらいには成果をだしていて、何不自由ない生活を送れているのだとか。
「それで、僕に会いに来たのはどういった用件でしょうか?」
突然の訪問に瞠目しているロゲンに、かくかくしかじか。説明をする。
ユルグの訃報を知った彼はリエルと同じく、驚き、そして悲しんだ。
「そうでしたか……」
重く息を吐き出したロゲンは、少し困ったように顎を摩った。
「この話、アロガには話しましたか?」
「いいえ、まだですけど……」
「それはよかった」
ほっと胸を撫で下ろしたロゲンに、フィノは首を傾げる。彼に話されては何かマズいことでもあるのだろうか?
「どうしたの?」
「いいえ、その……この話を彼にしてしまうと何をしでかすか、わかったものじゃありませんから。これから彼の元に行くのなら、僕も着いていきますよ。荒事になった時に止める人間は必要でしょう。僕だけでは心許ないですけどね」
不穏な事を言って、ロゲンは支度を始める。
意味がわからずリエルを見ると、彼女は言葉もなく苦笑していた。少なくとも何かしらの心当たりはあるらしい。
「こわいひと?」
「んぅ……すこし?」
不安がっているヨエルにフィノも適当な返事しか出来ない。
確かにアロガは粗暴で荒々しい言動が目立つ。けれど根は優しい人だというのはフィノも知っている。少しだけ自分の感情を抑えられないだけだ。
「だ、大丈夫ですよ!」
「そうそう、少しだけ声が大きい脳筋馬鹿なだけです。子供には絶対に手をださないですから!」
二人のフォローに、ヨエルは浮かない顔をしながら犬の振りをして大人しくしているマモンを抱きしめた。




