一歩を阻むもの
前話、昨日の更新時よりも加筆してあります。それに伴い昨日の更新分と多少の重複箇所があります。
ルトナークにある大穴の祠は開けた丘にぽつんと建っていた。
周囲には他に何もなく、異彩を放つ建造物がひとつだけある。しかし他の祠と比べて古めかしい様子はなく、しっかりと人の手も入っておりきちんと管理されていた。
翌日――ヨエルを連れてそこへ向かうと、祠の中に入る事すら許されなかった。門前払いである。
「――通せない?」
目の前の兵士に再度問うと、彼はしっかりと頷いた。
「はい。この先は許可がなければお通しできません」
「んぅ……そっか」
予想していたことではある。
けれどフィノを悩ませている原因はまた別の所にあった。
『国王よりも、大司祭に話を通せとは……またきな臭くなってきたなあ』
「許可もらえるといいけど」
もし無理ならば強行突破しかない。もちろんそんなことはしたくないし、最後の手段だ。
だがフィノの不安を後押しするように、マモンは懸念を語る。
『国王を差し置いて大司祭に交渉するということは、権力はそちらが上ということになる。これはなおさらタチが悪そうだ。少なくともこの一件には女神が関わっているのだからな』
「んぅ……」
マモンの一言にフィノは改めて考える。
他の大穴はこんな風には管理されていなかった。ましてや女神の存在など皆無だ。それが今回は、まるでここを護っているかのような有様。
教会がこうして大穴を管理する理由は何か知れないが……マモンの言う通り、一筋縄ではいかなそうだ。
新たな懸念事項が湧き出てきた所で、これからどうするべきか。
フィノはもう一度、考えることにする。
「やっぱり入れてもらえるように交渉するべき?」
『それが一番だろうが、もしそれすらも断られたらどうする?』
「んぅ……」
教会の大司祭とやらに話を付けに行くのは満場一致。問題はそれが叶えられなかった時、どうするか。
魔王であるマモンがいる限り、祠の内部に入ることは可能だろう。元々魔王の役割でもあるし、祠を管理しているのが協会だとしても魔王制度について、実権を握っているのは国王なはず。最悪、国王に直談判して上手く言いくるめてしまえば問題は解決する。
しかしフィノはこの作戦にはあまり乗り気ではなかった。
そもそも魔王は秘匿されるべき存在であり、おいそれと公言するようなものではない。そこに戦時中という状況も重なってくる。
アリアンネが停戦をこぎつけてくれているが、各国からしても魔王という存在は是が非でも欲しいものだろう。
そこにマモンが自ら正体を明かしてしまっては、この前の拉致事件の二の舞が起こりかねない。何が何でも慎重になるべきだ。
「マモンは最後の切り札。どうにもならなくなったら手伝って」
『わかった。そうさせてもらうよ』
「まずは王都にいかないとね」
祠からの帰路、そのまま王都へと向かう街道を歩きながらフィノは告げる。それにいち早く反応したのはヨエルだった。
「王都って、お城があるところ?」
「そうだよ」
質問に答えてやるとヨエルは目を輝かせた。途端に軽くなった足取りを見るに、何を考えているのか丸わかりだ。
『観光に行くのではないぞ。フィノの用事があって』
「わかってるよ!」
すぐさま飛んでくるマモンの小言にヨエルも負けじと反論する。
けれどせっかくの王都だ。心の底では期待している事をフィノは知っている。だから、ついつい甘やかしてしまうのだ。
「私の用事、これでぜんぶ終わるから、暇になるんだ」
「じゃ、じゃあ……みんなで遊びにいける?」
「もちろん!」
期待に応えるように頷くと、ヨエルは飛び上がって喜んだ。
彼にとっては、マモンやフィノ、アルマと一緒に楽しいことが出来るのがとても嬉しいのだろう。
すべてが終わったならば、フィノはヨエルを連れてシュネーへと戻るつもりだ。そうなれば遠く離れたこの地へも来ることだってない。
もしかしたら人生で一度きりの訪問になるかもしれない。だったら、めいいっぱい楽しませてやるべきだ。
やれやれと困り果てているマモンだって同じ気持ちなはず。
ともすれば、面倒なことは早急に終わらせるに限る!
ブクマ、900件達成しました! これも日頃から読んでくださる読者様のおかげです! 本当にありがとうございます!
記念に近々、番外編をあげるつもりです。お楽しみに!!
そろそろ完結も間近ですが、見通しが甘いのであともう少し、がズルズルと長引かないか心配しています。(予定では今年中には完結するつもりです)
しかし、その後にもifストーリーが待っているので、作者はまだ筆を置けません。嬉しいやら悲しいやら……とりあえず、本編の完結はエタらないように頑張っていきますので、これからもどうぞよろしくお願いします!∈^0^∋




