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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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許されないこと

 

 フィノがヨエルの元に戻ったのは、早朝。まだ陽も昇りきっていない明け方の頃だった。


 まだ寝ているであろうヨエルを起こさないようにと忍び足で宿の部屋へと入ると、入り口の傍にアルマが無言で突っ立っていた。


「アルマ、ただいま」


 小声で呼びかけると彼は無言で頷く。

 室内にあったカンテラに光を灯して、室内を見渡すとヨエルは案の定ベッドで眠っていた。静かな寝息に、フィノは微かに笑みを浮かべる。


「私がいない間、何もなかった?」

「問題は何もない」

「そっか」


 アルマの返答にフィノは安堵して、荷物をテーブルに置くとヨエルの顔を覗きにいく。

 彼はいつもと同じようにマモンを枕元に連れてきて眠っていた。寝返りを打って身体からずれていた毛布をかけ直してやる。


 そうすると微かな物音にマモンが目を覚ました。


『フィノか、いま戻ったのか?』

「うん、ただいま」


 マモンはフィノの帰還に気づくと、こっそりとヨエルの元を抜け出してフィノの傍に寄る。

 サイドテーブルにカンテラを置くと、フィノはベッドに腰掛けた。その膝上にマモンを乗せて、ひんやりとした毛並みを撫でる。


『もう少し遅いと思っていたよ』

「ヨエルが待ってるから、すぐに戻ってきたんだ」


 実際、フィノが帝都にいたのは一時間にも満たない時間だった。

 アリアンネと話して、すぐにここまで舞い戻ってきた。だから昨日、ここを発ってからフィノは一睡もしていない。


 気の抜けた、大きな欠伸を零すフィノを見て、マモンは憂慮を向ける。


『疲れているのなら眠ったほうがいい。あまり無理はするものではない』

「んぅ…………あっ、お土産買ってくるの、忘れちゃったなあ」


 疲労が溜まっているのか。フィノは眠そうにゆったりとした口調で誰にともなく話す。

 それを聞いてマモンは大丈夫だと告げる。


『気にしなくてもいい。フィノが戻ってきてくれたのが、一番の土産だろうよ』

「そうかなあ……そうだったらいいなあ」

『うむ、そうだとも』


 穏やかな会話を続けていると、不意に寝ていたヨエルがもぞもぞと動き出した。


「う……んん、マモン?」


 寝惚け眼を擦りながらヨエルは傍にいないマモンを探してきょろきょろと周囲を探る。

 そうして横を向くと、帰ってきたフィノの姿を見つけた。その膝上にはマモンもいる。


「フィノ……フィノだ」

「うん、ただいま」

「ふぁ、おかえり」


 まだ眠いだろうヨエルは、ベッドから下りるとフィノの元へ寄ってきた。

 それに気を遣ってマモンは彼女の膝上から退去する。それと入れ替わりで、


「まだ眠いんだったら寝てないと」

「うん……フィノは?」

「私も寝ようと思ってたとこ」

「じゃあいっしょにねよう」


 ヨエルの一言にフィノは驚いた。

 一緒にいても、いつもはこんなことなんて言わずにひとりでベッドに入って寝ているのに。もちろんそこにはマモンも着いているのだが。


 不思議に思って、だけどフィノはすぐにその答えに気づいた。

 きっと寂しかったのだろう。一日いなかっただけ。マモンもアルマも傍にいてくれた。それでもやはり心の底では寂しかったのだ。

 まだ十歳の子供。それが当たり前だ。


 手を握って引っ張ってくるヨエルに、フィノはいいよと答えた。


「それじゃ一緒に寝よう」

「うん……」


 ふにゃふにゃと気の抜けた笑みを浮かべて、ヨエルはフィノのベッドに入ってくる。それを受け入れて、二人でベッドに横になった。

 するとヨエルはフィノの胸元にすり寄って、すぐに眠ってしまった。


 それに微笑んで、フィノは温い身体を抱き寄せる。


「ごめんね……もう少しで、おわるから」


 フィノの謝罪は、ヨエルに寂しい思いをさせてしまったことへのもの。

 けれど、本当はそれだけに収まりきらないほど、フィノの抱える気持ちは複雑だった。


 仕方なかった事とはいえ、フィノは自分の意思でユルグを殺すことを選んだ。

 以前ヨエルに聞かれた時は詳しくは答えなかったけれど……あの時の事を知ったら、きっとヨエルはフィノを許さないだろう。


 それでも、それをわかっていても。

 いずれきちんと話さなければいけない。例えそれで嫌われてしまっても。傍に居られなくなったとしても。それだけは、なんとしても果たさなければならない。


 もしヨエルが許すと言っても、フィノは自分を許せないのだ。こうしてこの子の傍に居られるのも、この旅が終わるまで。


 それに寂しさを感じながら、フィノは静かに目を閉じた。


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