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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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自由な一日

 

 聞こえた物音でヨエルは目を覚ました。

 重い瞼を開いて枕元を見遣ると、そこには黒犬のマモンが丸まって眠っている。室内はまだ薄暗く、今が夜明け前である事を告げていた。


 なんとか眠気に抗って、もぞもぞとベッドから起き上がると既に起きていたのか。

 フィノがヨエルに気づいて小声で話しかけてきた。


「おこしちゃった?」

「フィノ……どこかいくの?」


 寝起きで見た彼女の姿は外套を羽織って、腰には剣を帯刀している。

 旅支度を既に終えている様子に、ヨエルが尋ねるとフィノはうんと頷いた。


「アリアのところに行ってくる。ヨエルはお留守番。明日の朝には戻ってくるから」

「今日だけいないってこと?」

「そうそう。すぐに戻ってくるから、ふたりと一緒に待ってて」


 いきなりの事に驚きつつも、ヨエルはフィノの留守番について素直に言うことを聞いてくれた。


「……ぼく、おいてかれないよね」

「ふふっ、そんなことしないよ」


 不安がっているヨエルを安心させるように、フィノはヨエルを抱きしめた。

 ぽんぽんと頭を撫でられて、ヨエルの眠気は一気に覚める。


「き、気をつけてね」

「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってくるね」


 微笑んで、フィノはヨエルを一瞥した後、部屋を出て行く。


「アルマも、ヨエルのことお願い」

「了解した」


 去り際に、入り口近くに無言で立ち尽くしていたアルマに声を掛けて、フィノは旅立って行く。

 その後ろ姿をぼんやりと眺めて、ヨエルはしばらくぼうっとしていた。

 それは寝起きのせいでもあるし……あんな風に頭を撫でられたのは久々だった。それに驚いて、それでいて少し恥ずかしさもあった。


 ぶんぶんと頭を振って、雑念を消す。余計な事を考えていると気持ちよく眠れない。

 静かな室内に衣擦れの音を響かせながら、ヨエルは取りあえず二度寝することに決めた。

 枕元にいるマモンを抱き寄せて、毛布を頭からかぶる。


『……ヨエル。起きていたのか』

「ううん。もういっかい寝る」

『そうか、おやすみ』


 ふわふわと夢見心地な気持ちで、ヨエルは再び眠りについた。




 ===




 少年が再び起きたのは、それから四時間後。既に陽が昇っている時間帯である。


『おはよう。よく寝ていたな』


 毛布から顔を出すと、開口一番、傍からマモンの声が聞こえてきた。

 寝惚け眼を擦ってマモンを見つめて、それから部屋の中を見渡す。


 室内にはヨエルとマモン。それと壁際にずっと立っているアルマだけだった。フィノはいない。

 その事に遅ればせながらヨエルは気づく。そういえば、まだ暗い時間帯に出て行ったのだった。


「フィノいないね」

『うむ。今日一日留守にすると言っていた』

「じゃあ……戻ってくるまで、おるすばん?」

『そうなるな』


 マモンの肯定を聞いて、ヨエルはしばし思案する。

 彼の頭の中では、今日一日どうやって過ごすか。色々な案が浮かんでくる。とはいえ、危ないことは出来ないし、街の外へ出る事だって出来ない。

 それでもずっと宿に居るのだって暇で死にそうになる。幸い、街中で遊ぶことは禁止されていないから、ヨエルのする事といえば――


「探検しよう!」

『……たんけん?』

「うん!」


 ヨエルの一言に、マモンは嫌な予感を感じながらも聞き返す。

 すると少年は嬉々として、今日したいことを話し出した。


「昨日ご飯食べにいったけど、ぜんぶは見てないから……フィノはいないけど、ぼくとマモンとアルマで街の探検にいく!」

『ううむ……危険な事をしなければ良いが』


 マモンの懸念は他のところにある。

 こういった時のヨエルは、総じてハメを外しまくる傾向にあるのだ。危険なことやモノには近付かない、といった約束は守る。けれど、少年の探究心に際限はない。

 つまるところ……保護者としてマモンの気苦労が増える、ということだ。


『日が暮れる前には、宿に戻ってくる。それは守れるな?』

「うん!」

『ならば今日は存分に楽しむとしよう』


 すべてを飲み込んで、マモンはヨエルの願いを叶えることにした。

 マモンが傍にいれば大事にはならない。一応、アルマもいる。先日のようにヨエルを危険な目に遭わせることもないはずだ。


 それにこんなに楽しげにしているのだ。水を差して笑顔を失わせることだけはしてはいけない。

 満面の笑みを浮かべるヨエルを見つめて、マモンはやれやれと苦笑を零す。


「じゃあいこう! すぐいこう!」


 ベッドから飛び降りたヨエルはすぐに出掛ける支度をする。

 その様子を眺めながらマモンは小さな背中に声を掛けた。


『行くと言ってもどこに行くつもりだ? 帝都ほどではないにしろ、街中はそれなりに広い』

「うーんと……まずは、あさごはん! お腹すいた!」

『うむ、そうしようか』


 同意すると手早く支度を終えたヨエルがマモンを腕に抱く。


 今となっては長時間実体化していても問題はない。だからこうして、ヨエルに抱かれる必要もないのだが……どうやらヨエルはこのスタイルが好きらしい。それを薄々感じているマモンは、余計な事をいうのは野暮だと判断して好きにさせているわけだ。


「アルマもごはん、食べるよね?」

「どちらでも構わない」

「じゃあ食べ歩きしよう! アルマのおいしいもの、見つけるんだ!」


 意気揚々と宣言するとヨエルはアルマの腕を引いて、喧騒で満たされた街中へと駆けていった。


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