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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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最奥からの帰還

 

 四災の長い話はそこで終わった。

 黙って聞いていたヨエルだったが、難しい話はさっぱりだ。けれど、生前の父親の貴重な証言は、どれも新鮮だった。


 今までどうして両親が居ないのか。エルリレオやマモンに聞いてみたけれど、みなヨエルが欲している答えをくれなかった。

 ――死んでしまったから。それはわかる。でもヨエルはその先の事が知りたかったのだ。どうしてそんなことになったのか。尋ねても誰も答えてはくれない。


 彼らがどうして秘密にしていたのか。いまなら少しだけわかる気がする。

 魔王とか、目の前に居る大きなしゃべる獣。それらはどう見ても普通ではない存在だ。それをなんとかしてヨエルに隠していたかったから。

 だから今まで頑なに口を噤んでいたのだ。



 父がどんな最期を辿ったのか。それはいま知れた。

 けれど結局、ヨエルは置き去りにされたのだ。どれだけ想ってくれていても、傍に居てくれなきゃ意味がない!


 四災の話を聞き終えたヨエルは、じっと地面を睨んだまま顔を上げない。

 期待したぶん、落胆も大きい。泣くことこそしなかったが、心はどんよりと沈み込んだまま。


 マモンはそんな少年の様子を気に掛けて、何か言葉をかけようと口を開く。

 けれどその前に、二人を眼下に見据えていた四災が割っては入った。


「彼からあるものを預かっている」

「お、お父さんから……?」

「そうだ。本当はフィノという者に渡してくれと頼まれているのだがね。君宛に書かれたものもある。であればここで渡してしまっても問題はない」


 そう言って、四災は自身の胸元をまさぐった。長毛の奥から取り出したものは、何枚かの紙切れだった。

 四災の手のひらからヨレヨレになったそれを受け取る。


 彼の口振りでは、ヨエルの為に何かを残してくれたらしい。

 緊張した面持ちでそれを見つめると、ヨエルは意を決して手紙を開いた。


「……あれ?」


 しかしそこに書かれていたのは、よくわからない文字だった。

 困惑していると腕の中に居たマモンが声をあげる。


『うむ……これは古代語だな』

「こだいご……ぼく、読めないよ」

『己もだ』


 神妙な面持ちで困り果てていると、頭上から声が聞こえてくる。


「それは私が代筆したものだ。指先すら満足に動かせないようだったからね。私は君たちの使う文字を知らない。だが……彼の話では古代語を読める人物はいると聞いている」

『そうさな……フィノならばこれを解読出来るはずだ』


 マモンも四災の言葉に同意した。

 ヨエルがもらった手紙は二通。一つはフィノに宛てられたものだ。


「じゃあはやくもどろう!」

「もう帰ってしまうのかい? 残念だ」


 四災はしょんぼりと肩を落とす。

 ヨエルの目的は父に会うことだったけれど、それは叶わなかった。けれど結果に不満はない。

 何が書いているかわからないけれど、こうして手紙を残してくれていたのだ! ヨエルはそれだけでも満足だった。


「フィノも心配してるし……かえる!」

「そこまで言うなら仕方ないね。引き止めることはしない」


 だが――と、四災はマモンを見つめる。


「君の望みを聞くのを忘れていた」

『己か?』

「そうだ。私の愛し子ではないからその必要もないのだが、せっかくだ」


 四災はマモンへ望みを言えと迫った。それにマモンは押し黙る。


 以前ならば、消えてしまいたいと即答していただろう。しかし、今のマモンには守りたいものが出来た。

 とはいえ、力不足は否めない。実際、その決意は口だけのものに成りつつある。


 今回、ヨエルが攫われて身に染みてわかったのだ。マモンでは彼を守ってはやれない。弱体化した状態では子供の話し相手をするのがオチだ。

 とはいえ瘴気を貯めて力を戻す事などマモンは考えていない。ユルグはそれを望んではいないし、マモンも同じだ。


 どうにもならないジレンマを抱えているが……目の前の四災ならばこれをどうにか出来るのではないか?


『この子に害を与えることなく力を戻す事は可能か?』

「できるよ」


 四災は即答した。

 本来ならば器を介してしか、マモンは瘴気を吸収出来ない。そういう創りとして生まれているから、マモンにはどうしようもないのだ。

 それを度外視して、ヨエルに影響を与えることなくマモンの力を戻してくれと、四災に頼んだ。


 マモンの望みに四災は快く叶えてくれた。

 ヨエルの腕の中からマモンをつまみ上げると、瘴気を含んだ吐息をかける。その瞬間、自分でもわかるほどに力が戻ってくるのを感じた。


「これでどうかな?」

『ありがたい。これならば充分にこの子を守れる』

「それはよかった」


 ヨエルの腕の中にマモンを戻すと、四災は笑みを浮かべる。


『ヨエルはなんともないか?』

「うん。べつになにもないよ」


 全盛期と同じくらいに力を取り戻したのだ。ヨエルの身を案じるが、それは杞憂に終わる。

 ほっと胸を撫で下ろすと、地面におろしてもらったマモンは四災と同じ獣の姿に成った。


『それでは戻ろうか』

「うん!」


 マモンの頭の上にいるヨエルにしっかり掴まっているよう釘を刺す。

 帰り支度を済ませていると、四災はふとあることを思い出してマモンへと尋ねる。


「そういえば、君の正体を聞くのを忘れていた」

『いずれ再び会う時が来る。それまでとっておいて欲しい』

「そういうことなら……また会う時を楽しみにしておこう」


 マモンも四災に聞きたいことはまだ残っている。けれど今ここで時間を掛けている余裕はない。

 フィノのことも心配だし、ヨエルは救い出せたのだ。これ以上ここに居る必要は無い。


 名残惜しそうに頷いた四災を大穴の底に残して、マモンは壁面を登って地上へと帰っていった。


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