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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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終わりの話 4

 ユルグは死んでくれと四災に願った。

 その結果は、面白味のない回答で終わることになる。


「それで、どうなんだ?」

「ああ、死ねと言うことだが……不死者には無理な相談だよ。それだけはどうあっても出来ない」


 ――諦めてくれ、と四災は言う。


「それよりも、だ。私は君に興味がある」

「俺はない」

「そう冷たくしないで欲しい。私が何かにこうして興味を抱くのは、本当に希有な事なんだよ」


 そう言って、四災は身体を動かす。

 バランスを崩してヘドロの中に尻餅をついたユルグを眼下に見据えて、彼は話を続けた。


「どうして私がここまで人間に目を掛けていると思う?」

「それは……自分が創ったものだから、じゃないのか?」

「それもあるが、それが一番の理由ではない」


 無人の四災はユルグの出会った竜人(ヤト)の四災に比べれば、温厚な性格をしている。しかし、そうはいっても人間の感覚からは彼らの普通は離れすぎているのだ。

 例の如く、ユルグの指摘に彼はかぶりを振った。


「私は人間に不死性を持たせた。だがそれは不完全なものだ。上位者と同じ存在を創ることは禁止されていてね。だから、どれにも言えることだが何かしらの欠陥を定命は持っている」


 ――欠陥。これは竜人(ヤト)の四災も似たような事を言っていた。

 あくまでも定命とは自らに似せた存在。それが創造主を越えてはならないのだ。


「私が彼らに与えたのは、不滅の魂。しかしそれは死ななければ発現しない。加えて全ての記憶を引き継げるわけではない。大半の人間は前世の記憶をもっていない。だから彼らは死ぬ瞬間には、みな死にたくないと言うんだ」


 当たり前の事を、四災は嘆く。

 何をわかりきった事を、と普通なら思うはずだ。けれど彼にはそれが大層奇妙に見えたのだ。


「私はそれを見た瞬間、失敗したと思った。あれは欠陥品だ。持たせた不死性の代わりに寿命を減らしたつもりだったが、それが裏目に出てしまった」


 しょんぼりと、彼は首を竦める。


「そこで私は考えた。どうすれば彼らが潔く死んでくれるかを」

「死ねと言われて死ぬ奴はいない」

「その通りだ。だが、例外というのは存在する。例えば……君のような」


 まるで頭から丸呑みにするかのように、四災はユルグへと顔を近づける。


「長年観察してきてようやくわかったことがある。人間というのは未練がなければあっさりと生を手放せるものなんだ。極端な例を挙げると、復讐を遂げた人間。これが一番扱いやすかった」

「……そう、だろうな」


 四災の話はユルグには耳の痛くなるものだった。

 復讐を選ぶ奴は、それ以外を投げ捨ててでも目的を達成しようとする。その後の事なんて考えていない。自分の命すら投げ打つのだ。


「だがそんな人間は殆ど現われない。ではどうやって彼らを導くべきか……私は一つの結論に至った。それが今のこれだ」

「なんでも望みをかなえる、ってやつか」


 ユルグの相づちに、四災は頷いた。


「だがね、人間はとても欲深い生き物だった。どれだけ叶えても望みは尽きない」

「だろうな」

「その結果が、この状況に繋がるわけだ」


 つまり――人間の自業自得、というわけか。

 長い説明を終えた四災は、ふとユルグに問いかける。


「時に、君は先ほど未練はないと言った。生きたいと思わないとは、つまりそういうことだろう?」

「未練、は……」


 彼の問いにユルグは沈黙する。

 四災の言葉通りだ。けれど、まったく未練がないというわけではない。


「……産まれたばかりの子供がいるんだ」

「であればなぜ、君は延命を望まない? 親であれば子を気に掛けるものだろう?」

「いいや、それはもういい」

「……理解出来ない。なぜだ?」


 四災はユルグにしつこく問い質す。

 生に執着していないユルグの存在は、彼にとっては異物そのものなのだ。だからそれを理解しようと必死になっている。

 人間を死なせるために、あんな馬鹿げたことを延々と繰り返しているのだ。四災の執心も、もっともだ。


「お前に言ったところで、理解出来るとは思えない」


 基本的に定命の考えを彼らは理解出来ない。本質的に違うものを見ているからだ。

 それでも、自然と言葉が溢れてくる。


「……あの子のことを嫌っているわけじゃない。愛してる。でも、俺は一番大事なものを守れなかった。その時点で、俺の命に価値はない」

「面白い考え方をする」

「でも、一つだけ……やり残したことがあるんだ。俺はあの子に何も残してやれなかった」


 こうして残り僅かな時間を使って、過去を振り返ると見えてくるものがある。


 産まれたばかりのヨエルは、成長してもユルグの事は覚えていないだろう。それでいいと考えていた。

 けれど覚えていなくとも、彼にとってユルグは父親なのだ。その存在がなくなるわけではない。


 いつか……もしかしたら、知りたいと思うときも来るかもしれない。

 そうなった時、人伝ではない。彼を想った言葉が必要になる。それをユルグは残せなかった。


「だから、これが最期だ」


 ユルグは四災へと最期の望みを伝える。

 それを聞いて、渾沌の獣は静かに笑みを深めた。


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