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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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過去の残滓

 

 黒い何かは不死人だった。

 落ちてきた一体を皮切りに、それはどんどん降ってくる。

 それを目にして四災はゆっくりと動き出した。


「客人の前だが……少しいいかな?」


 一言断りを入れると、四災は落ちてきた不死人をつまみ上げた。

 そしてそれを、壁面に並んでいる棺の一つに押し込める。次々と不死人を棺に仕舞い込んで、すべてを処理し終えた四災は再び二人の面前へと戻ってきた。


『今のはなんなのだ?』

「不死人は人間が瘴気に冒されて生まれるものだ。彼らは正しい終わりを迎えられない。瘴気によって本来解放されるはずの魂が肉体に囚われてしまっているんだ。あの状態では滅したところで正常に巡らない。だからああして毒抜きをしているんだよ」


 あの棺の中で十年か百年か。時を掛けて瘴気を絞り出す。そうすることで、不死人の特性は徐々に失われて死ぬ事が出来るのだという。


「私の手で滅することは可能だ。だがそれでは、魂が巡らない。そうなってしまえば人間の不死性は失われてしまう……先の彼らには酷いことをしてしまった」


 四災はしょんぼりと肩を落とす。

 彼の命の価値観はかなり変わっている。しかしそれも、人間の不死性という特殊性からくるものだ。

 生きている命を、命として見られない。だからあんなにも簡単に命を奪える。他の四災も定命に対しては容赦がないが、それとは違う不気味さを備えている。


「ところで、君たちはいつまでここに居るつもりだい? ここに長居するのはおすすめしない。地上に戻るなら私が送ってあげよう」


 四災の申し出に、マモンは胸を撫で下ろした。

 フィノの話では、無人の四災について良い印象を抱かなかったものだから警戒をしていたのだ。けれど話してみると、他の四災よりも話が通じるしこちらに好意的にも見える。どうにも取り越し苦労だったようだ。


『それはありがたい』


 マモンとしても彼には聞きたいことが山ほどあった。

 ログワイドのこと。彼が何を想ってマモンを創ったのか。四災と何を交渉したのか。あげだしたらキリが無い。

 それに四災は、マモンの存在を知らないと言った。それについても疑問は残ったまま。


 けれど、それらを差し置いても今はヨエルを無事に地上に返す事の方が先決だ。フィノの安否も気になる。

 あのプロト・マグナとやり合って無事でいられるはずがない。もし苦戦しているのならば加勢してやらねば。


 けれど、マモンの憂慮を余所にヨエルはある事を四災に尋ねた。


「あの……」

「うん?」

「さっきぼくのお父さんのこと、話してたけど……なんでしってるの?」


 ヨエルの発言に、マモンは言葉を失う。

 四災がヨエルの質問に答える前に、マモンはヨエルに詰め寄る。


『そ、それはどういうことだ!?』

「わかんない……でもこの人、お父さんのことしってるって」


 ヨエルのたどたどしい証言に、マモンは彼の腕の中で沈黙する。

 まったく状況が掴めない。生前のユルグがこの四災にあったというのは聞いていないし、マモンの知る限りではあり得ないことだ。

 元々、ログワイドが出会ったであろう四災……無人の四災を探していたのだ。それと遭遇していたのならば、フィノがここまで躍起になって探し出す必要も無い。


『……どういうことだ?』


 頭の中で情報を整理する。

 けれどどの仮説も確証には至らない。熟考していると、頭上から声が降ってきた。


「――落ちてきたんだ」


 四災は一言、そう言った。

 端的な物言いに、ヨエルもマモンも彼の話に耳を傾ける。


「きっと足を滑らせて大穴に落ちたんだろうね。ああ……それか、自ら命を終わらせに来たのかもしれない。どちらにしろ、話が通じる者と会ったのは二千年ぶりだからとても嬉しかったよ」

『それは』


 四災の話している事は、十年前のことだ。マモンがユルグからヨエルへと移った後。マモンはそう結論づけた。


 肉体に溜まった瘴気を消す方法は無い。ユルグの身体はマモンが器としていたことで辛うじて保っていた。それがなくなれば、彼の辿る運命は理性のない不死の怪物となるだけ。


 それをわかっていたからこそ、ユルグはシュネー山脈にある大穴に自ら飛び込んだのだ。

 その光景を見ていたのはマモンだけだ。ヨエルもその場にいたがまだ赤子だった。その時の記憶はないはずだ。


「身体は腐ってボロボロだったけれど、意識はまだ残っていた。だから、彼と少し話をしたんだ」


 彼の話では、ユルグは大穴に落ちた後、この場所に辿り着いたらしい。にわかには信じがたいことだが……四災がユルグを知っているのが何よりの証拠。


『……っ、なんということだ』


 それを聞いてマモンは項垂れる。

 ずっと追い求めていた存在に、死ぬ間際に会えたのだ。これほど皮肉なことはない。


「君のことも、その時に彼から聞いた」

「ぼくのこと……」


 四災の一言に、ヨエルは抱えていたマモンをぎゅっと抱きしめた。緊張に鼓動が高鳴る。

 父が何を話したのか。知りたくないわけがない。


「興味があるかい?」

「うん」


 固唾を飲んで頷くと、四災は語ってくれた。

 十年前――かつてあった、終わりの話を。


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