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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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渾沌の獣

 

 祠へと戻ったフィノは、まずは内部に蔓延っている不死人の排除をする事にした。

 プロト・マグナが相手をしていたが、いくら破壊してもすぐに起き上がってくる。不死人の対処は大穴に放り投げる他はない。


「よっ――と」


 大穴に落ちたヨエルの事は心配だ。けれどこちらから手出しは出来ないのなら、現状フィノがしてやれることはない。今は信じて待つしかないのだ。


 無心で不死人の処理をしていると、祠の石扉が開かれた。

 中に入ってきたのは、先ほど置いてきたプロト・マグナだ。どうやら動けるまでには回復したようで、もくもくと水蒸気をあげてゆっくりとした足取りでフィノに近付いてくる。


「もう動けるの?」

「多少、無茶をされたが問題はない」


 返答を聞いて、彼の中身が変わっていることにフィノは気づいた。

 どうやら今の彼は四災ではなく、自らをプロト・マグナと呼んだその人らしい。


 咄嗟に身構えたフィノに、彼は堅苦しい口調で訂正する。


「危害を加えるつもりはない。マスターからの意向だ」

「ならいいけど……」


 マスターというのは四災のことだろう。どうやらこれ以上の敵対の意思はないみたいだ。それならばフィノも安心して不死人の排除に当たれる。

 これにはプロト・マグナも協力してくれて、二人がかりでやっとのことで祠の内部を元通りに出来た。


「ありがとう、助かった」

「自らの責務を果たしただけ。謝罪は不要」


 素っ気ない返答に苦笑して、フィノは大穴の淵に立つ。

 底が見えない暗闇が続く大穴はいつみても不気味だ。この最奥がどこに続いているのか……ヨエルが今どこにいるのか。知れないのはもどかしい。


 気を揉んでいると、ふとある事が気になった。


「そういえば、ヨエルはどうしてここに居たんだろう?」


 彼の傍にはヨエルを攫っていった男もいた。彼の目的は祖国に魔王を連れ帰ることだ。こんな場所で寄り道などしてる暇はない。


「プロト・マグナが案内した」

「どうして?」

「魔王の奪取がプロト・マグナに与えられた使命。それに、彼が父親に会いたいと言った」

「え?」


 突然の証言に、フィノは驚愕する。

 彼の口振りでは、まるで死んだ人間に会えると言っているように聞こえるのだ。そんなことなどあり得ない。けれど、プロト・マグナは不可能では無いという。


「それ! どういうこと!?」

「言葉通りの意味だ」


 大穴の底にいる者ならば願いを叶えてくれる。プロト・マグナはヨエルにそう言った。そしてそれは嘘偽りなどではないと言う。

 にわかには信じられない話に絶句していると、彼は気になることを語り出した。


「少年に伝え忘れたことがある。大穴の底にいる者と対峙する時は、必ず一人の方が好ましい」

「それ、破ったらどうなるの? 何か危険な目に遭うとか」

「それは当事者次第。彼の面前で何を願うか。それが重要」


 曰く――大穴の底の主は、どんな願いも叶えてくれるのだという。




 ===




 真闇の中、真っ逆さまに落ち続けていたヨエルは、ほどなくしてその終点へとさしかかる。

 永遠に続くかと思われていた落下が、何かに遮られたのだ。


「ぶわっ――」


 ヨエルはそれに頭から突っ込んだ。

 しかし痛みはまったくない。なぜなら顔を突っ込んだそれは非常に柔らかだったからだ。そう、まるで何かの動物の豊かな毛並みに顔を埋めているような感覚。


「ここ、どこだろ」


 どうやら足場もしっかりとしているようで、ヨエルは起き上がると周囲を見渡す。

 しかしどこを見ても暗闇だけ。何も見えないし何も存在しない。

 そうなってくると、俄然ヨエルの下にあるこれの正体が気になってくる。


 どうやらヨエルの居るそこは歩けるほどには広いらしい。

 少し探検してみようと思い立ったヨエルは足元に気をつけて歩き出す。


 しばらく歩いていると、急に足場が消失した。足を踏み外したというよりも足場の淵に到達したという感覚だ。


「うわっ」


 慌てて手を伸ばして生えている何者かの体毛を掴む。その感触に微かに既視感を覚えると、突然その場全体が揺れ始めた。

 あまりの激しさと、握力の限界でヨエルは掴んでいた手を離してしまう。


 またもや落下していくところを、何かが少年の身体を支えてくれた。


「うぐぅ」


 先ほどと同じく顔面からそれに突っ込んだヨエルは小さく呻き声を上げる。

 慌てて顔を上げると、目の前には見知った姿があった。


「マモン……?」

「おや、これは随分と小さな客人だ」


 それは自らの手のひらにヨエルを乗せて、口元を歪めた。

 正体不明の彼の姿はヨエルの見知ったものだった。先ほどマモンが変身してみせた獣の姿と同じ。けれど彼の発した言葉からも分かる通り、姿は同じだけど中身は違うらしい。


「君はどうしてここに? 偶然落ちてきたのなら、地上に帰してやろう」

「ぼくは……」


 それの問いかけにヨエルは当初の目的を思い出す。

 この大穴の底には偶然落ちたけれど、元々この場所を目指していたのだ。だったらヨエルの求めているのは、今話しているこの獣になる。


 答えを保留にして考え込んでいると、ヨエルを凝視していたそれは、奇妙なことを言い出した。


「ところで君、どこかで見た顔だ」

「えっ?」

「ああ、思い出した。ということは……君は彼の縁者か。しかし、聞いていた話よりも随分と成長している。産まれたばかりだと言っていたんだが……ううむ、人違いだろうか」


 彼の話はヨエルには上手く伝わらなかった。何の事を話しているのかわからない。ヨエルを見て彼は不思議がっているけれど、当の本人も意味がわからない。


「なんのはなし?」

「暫定、君の父親の話だよ」

「えっ?」


 思ってもみない話に、ヨエルは目を円くする。

 どうしてここで父親の話が出てくるのだろう? 純粋な疑問に頭を傾げていると、目の前の彼は唐突に見上げた。


「おっと、また来客だ。今日は忙しいね」


 告げると同時に何かが彼の頭の上に落ちてきた。それをつまみ上げると、ヨエルの傍に持ってくる。

 落ちてきたのは、ヨエルと共に大穴に落ちた男だった。


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