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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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歯牙にもかけぬ

 

 無言のまま、フィノは次の一手を繰り出す。

 構えた手のひらから射出したのは、氷弾だ。ここ雨林の環境と氷魔法は非常に相性が良い。空気中にある水分と反応して効果範囲も、魔法の威力も上がる。


 以前ユルグがやってみせた手法をフィノも真似たのだ。そしてそれは予想通りの結果となった。


 フィノの予想通り、四災は放たれた氷弾を避けることはしなかった。そのまま先ほどと同様に頑丈な身体で受けきる。

 攻撃が無意味ならばそもそも避ける必要も無い。あれは四災である彼の矜持のようなものだ。だからこそ、それを存分に利用させてもらう!


 見たところ、彼の身体は鉄か、似たような金属で出来ているのだろう。ということは冷気との相性は悪い。

 あれの中身がどうなっているのかわからないけれど、急激な温度変化への対応は難しいはずだ。


 あれの身体がフィノの知る金属と同等の性質を持っているのなら、急激に温度を下げたのち高温で熱するとどうなるか。

 鍛冶師が剣を打つ時と同じ原理だ。金属は温度変化に滅法弱い。


「これは……氷か?」


 左手に命中した氷弾から、冷気が四災の身体を包む。それはすぐに大気中の水分を凍り付かせて彼の体表を氷塊が覆っていく。

 次々と精製されていく氷塊に、四災は特に焦るでもなくそれを興味深そうに見つめていた。

 氷域は這うようにして全身にまわっていき、足元を凍り付かせたところでフィノは次の魔法を放つ。


 放たれたのは最大火力の火球。大気を焦がすほどのそれはまるっと四災を包み込んでしまうほどに巨大だ。


「ほう、これは素晴らしい。私には出来ない芸当だな」


 呑気に感心している四災は、捨て台詞を残すと火球に飲み込まれた。

 ――かのように見えた。


 けれど、次の瞬間。フィノの眼前、肉薄した距離に氷漬けにされていたはずの四災が立っている。


「え?」

「私と対峙するのだから慢心はいけない。確かにあれは強力ではあるが……如何せん速さに欠ける。避けてくれと言っているようなものだ」


 ご高説をのたまっている最中に、フィノは距離を取ろうとする。

 けれどそれを許さないとでも言うように、四災はフィノの腕を掴んだ。


「いッ――!」


 直後、掴まれた箇所の皮膚が焼け爛れる。どういうわけか、彼の純銀の身体は酷く高温なのだ。先ほどフィノが放った火球のせいではない。身体を覆っていたはずの氷も跡形もなく溶けている。


 しかしその理由を解き明かす前に――


「う――わっ!!」


 凄まじい力で投げられたフィノは上空を舞っていた。

 しかし滞空していると感じたのは一瞬のこと。すぐに浮遊感は失われて身体が落下を始める。


 急いで風魔法で衝撃を和らげようとするが、こんなものは焼け石に水だ。確実に全身を打って起き上がることさえ出来なくなる。

 それでも一縷の望みをかけて抗うと、運良くフィノが落ちたのは池の真ん中だった。



 盛大な水飛沫を上げて池に落ちたフィノは、なんとか一命を取り留めた。急いで水面に上がると、池の畔まで退避する。


「げほっ、ごほっ」


 いくら水の中に落ちたからといっても落下時の衝撃をすべて緩和できたわけではない。全身の打撲に、掴まれた右手の火傷も酷いものだ。でも命は助かった。

 幸いにもあの四災は傍にはいない。体勢を立て直す為にも少しの猶予が与えられたのは僥倖だ。


 そう思っていたフィノの眼前に、絶望が這い寄る。


「随分と遠くに投げてしまった。追いかけるにも一苦労だ」


 水飛沫が降ってくる中、四災はフィノの目の前に立っていた。その身体は未だ高温を保っているらしく、降ってくる水飛沫が身体に当たる度にジュウジュウと音を上げて蒸発する。

 おそらくこれは彼の能力の一部なのだろう。どういう原理かはまったくわからないが、触れられないほどに身体を熱せられては迂闊に手は出せない。


「それにしても生きていて良かった。始末する前に、お前には聞いておきたいことがある」

「あの子は……っ、絶対に渡さない」

「この状況で戯言を言える剛胆さは認めるが、置かれている状況を良く見てからモノを言うと良い」


 眼下から見下した四災は、焼けた手でフィノの首を掴むと怪力で身体を持ち上げる。


「ぐぅっ」

「このまま喉を焼かれるのが早いか、お前が降参するのが早いか。根比べといこう」


 肉が焼ける不快な臭いが漂う中、フィノはなんとかここから逃れようと必死になる。

 空いている両手で首を掴んでいる手を離そうと躍起になるが、手のひらが焼けるだけでビクともしない。


 身体が焼かれる激しい痛みの中で、意識が朦朧とする。なんとか気力で保ってはいるが、それがいつまでも持つはずもない。

 死が頭の片隅に過ぎった――その瞬間。フィノの背後で、水飛沫を上げて何かが現われた。


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