明かされる正体
静かに剣を構えたフィノを見て、プロト・マグナは上機嫌に笑みを作る。
余裕に見えるそれは彼の自信の表れだ。目の前のちっぽけな存在になど遅れを取ることはないと高を括っているのだ。
こういう場合、相手の挑発に乗ってしまうのは愚策である。
いかなる時も冷静に対処しなければどんなに実力差があろうと足元を掬われてしまう。この場合、それは相手に言えることだ。
けれど彼がフィノを侮っているのならばそれを利用させてもらおう。
相手の力は未知数。だからこそ、隙が多いこの瞬間に畳み掛ける!
「まずは……」
とはいえ、無闇に突っ込む事はしない。
先ほどの彼の奮戦を見ていれば、あれが近接戦闘に長けていることなどフィノにはすぐにわかった。
怪力で頑丈。まるでマモンと似通った性質を持つ彼をどう相手取るべきか。
考えるまでもないが、剣を交えて戦うのは御法度だ。そもそもフィノでは確実に力負けしてしまう。やはり遠距離から攻撃を仕掛けるのが無難だろう。
「なんだ? 悩ましげにしているだけで、向かってこないのか?」
プロト・マグナは不死人を破壊しながら嘲笑を向ける。
それを見据えて、静かに構えたフィノは炎弾を放った。
ありったけの力を込めたそれは、目で追えない速度でプロト・マグナへと迫る。
――刹那の一瞬。
瞬きの合間に、高威力の炎弾は逸れることなく彼のがら空きの胴体にぶち当たった。と、同時に爆発する。
フィノの放つ炎弾は、最後の爆発が肝である。炎弾の速度はそれを悟られず、避けられずに当てるためのものだ。
しかし、奴はそれを受け止めた。
「っ、うそ……」
衝撃で半歩後ろに下がったが、プロト・マグナはその場に立っていた。
しかも一つの傷も負っていない。本来ならばあり得ないことだ。
一瞬、瘴気の化物とも似ていると思ったが、彼からはそういった感じはしない。そもそもああして意思の疎通も出来るし、マモンのように瘴気の靄を纏っているわけでもないのだ。
「これが魔法というものか。面白い事をする。知っているのと実際に体験してみるのとでは、やはり感じ方が違うな」
フィノの炎弾を受けて、プロト・マグナは面白がっていた。それにますますフィノは混乱する。
「……どいうこと?」
今まで見てきた事象の中でどれにも当て嵌まらない。
目の前のそれは規格外で、未知の生き物だ。
ここにきてようやく、フィノは彼に確信を突く問いかけをする。
「あなたはなに?」
構えを解かずに静かに問うと、プロト・マグナそれの是非を問う。
「それはどちらに言っている?」
「え?」
「私か? それともこれか?」
彼は自分の身体を小突いて、どちらだと聞いた。
今の質問で、フィノは確信する。
目の前にいるあの純銀と、今話している彼は別物なのだ。明らかに最初と雰囲気が違うし口調も変わっている。
どういう方法を取ったのかはまったくわからないが、フィノの考察は正解に近いはずだ。
「今話してる、あなたの方」
真偽を確かめる為にフィノは彼の問いかけに答えた。
「いいだろう。面白いものを見させてもらった礼だ。答えてやる」
プロト・マグナはフィノとの問答を楽しんでいるようだ。それ故か、すんなりと正体を明かしてくれた。
しかしそれは、フィノが予想だにしないものだった。
曰く――
「私はこの大穴の最奥に潜む者。お前たち定命が四災と呼ぶ、それの一つだ」




