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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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痕跡を追って

修正、加筆しました。

 

 ――一方、その頃。


 フィノは攫われたヨエルを追って、スタール雨林へと向かう。

 最短距離で向かい、彼女が到着した頃には晴れ渡っていた空は曇天が覆っていた。


「やっとついた」


 息を切らしながら、雨林の入り口に佇む。

 しかし鬱蒼とした森の境界には誰の姿も見えない。本来ならばアルディアの兵士が数名駐在しているはずだ。

 ここにヨエルを攫った犯人が向かったのなら目撃情報があるはず。それを頼りにしていたのに、人っ子ひとりいないもぬけの殻とは。


「やっぱり、おかしい」


 アリアンネに聞いていた話と違う。現在、このスタール雨林は戦場となっているはずだ。こんなに静かなのも、誰の姿も見えないのも不自然である。


 キョロキョロと辺りを探っていると、雨林のちょうど入り口付近に野営地があるのが見えた。

 傍にたっている御旗は、アルディア帝国のものだ。そしてそこに兵士の姿を確認出来る。


「ちょっといい?」


 近付いて声を掛けると、彼は驚きに目を見開いた。


「貴女様は、皇帝陛下のご友人の……こんな場所までどうされたのですか?」

「人を追ってる。十歳くらいの子供を連れた人がここに来なかった?」

「……いいえ、持ち場を離れるなとの命令なのでずっとここにいましたが、それらしい人物は目撃していません」


 兵士はフィノに慇懃な態度を取ると、しっかりと答えてくれた。

 結果は良いものとは言えないが……少なくともこの場所は通って無さそうだ。


「もしかすれば、別の場所から雨林に侵入したのかも知れませんね。我々が監視している入り口以外にも侵入経路はありますから」

「……そっか」


 彼の言う通り、他を探ってみればまだ痕跡は残っているかもしれない。

 そもそも、デンベルクの密偵であろう人物が敵国の兵士に気づかれるような真似はしないはずだ。確実に別の場所から雨林へと侵入したに違いない。


「もしや、今から雨林の中へ向かうのですか?」

「うん。そうだけど……」

「……っ、でしたら無礼を承知で一つ。頼みがあるのです!」


 新兵であろう彼はフィノに頭を下げてきた。

 それに何事かとフィノはたじろぐ。本来ならば相手にしている時間も惜しいところだが、何やらただ事ではなさそうだ。


 話だけを聞くならばそんなに手間は掛からない。

 頭を下げた兵士に、フィノは居住まいを正した。


「どうしたの?」

「それが――」


 彼の話によると、現在……スタール雨林での戦闘作戦は殆ど機能していないという。現場には指揮を執る隊長も存在せずに、野営地に残っているのは数人の新兵だけ。

 不可思議な状況に、フィノは理解が追いつかなかった。


「どうしてそんなことになったの?」

「そ、それは……あの悪魔のせいなのです」


 兵士の彼は戦々恐々として、顔を青ざめながら訴える。




 ===




 ――一月ほど前の話だ。


 隊列から外れた新兵である彼は、一人きりで雨林の中を彷徨っていた。

 そんなときに、雨林の中央に聳える祠へと辿り着く。彼はそこで奇妙な存在に出くわしたのだ。


 それが、彼が怯えて語る『悪魔』という存在なのだという。


「初めは無害なものだと思っていたのです。しかし……戦況を有利に運ぼうと、あの祠の付近に野営地を設置する計画が立案されました。補給路が有ると無いとでは、攻勢が段違いなのです。そしてそれは、敵国も同じ考えだったのでしょう。あの祠付近で鉢合わせた両陣営は当然の如く剣を交えました。それがいけなかったのです」


 自らの領土を侵略されたと思い込んだ『それ』が、問答無用で彼らに襲いかかってきたというのだ。

 その力は圧倒的で、到底太刀打ち出来るものでは無かった。あっという間に敵味方全てを肉塊に変えられ、戦場は混乱の坩堝に陥る。


 隊を率いていた隊長もそこで戦死し、生き残った彼は命からがらこの場所まで戻ってきたのだという。


「野営地にて待機していた兵たちは、数名の兵を見張りに残してすぐさま応戦へと向かったのです。私はそれについていきませんでした。あんなモノを見てしまったら……とても」


 心が折れ、戦意喪失している彼は藁にも縋る思いでフィノの手を掴んだ。


「あの悪魔を倒してくれとは言いません。しかし、せめてあの場所に向かったみなが生きているのか、探ってもらえはしませんか?」


 彼も探しに行くとこは考えた。しかし、敵兵の襲撃を考えるならばこの持ち場を離れてしまうことは避けたい。

 アリアンネはこの場所に応援を寄越すと言っていたが……もうしばらく掛かるだろう。その間、ここに居る数名だけでは守りきれないことはフィノにもわかった。

 そんな状況下で人手を割くことは愚策である。


「私の用事が終わったら。それでいい?」

「――っ、もちろんです! ありがとうございます!!」


 彼はフィノに泣きながら頭を下げた。


 兵たちと別れて、フィノは別の侵入経路を探す。

 すると雨林の外周を探っていると、遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。それを頼りに進んで行くと、雨林の周辺をうろうろと彷徨う馬が一頭見つかる。


「この子、街馬車の……」


 首に掛けられた木製の札は、馬車を引く馬である事を示している。

 ということは……ヨエルを攫った犯人は馬で駆けて、ここにそれを置き去りにして雨林へと入っていったに違いない。

 流石に馬に乗りながら雨林の中を進むのは無理だと判断したのだろう。


 手掛かりを見つけたフィノは、続いて足元を念入りに確認する。

 すると、二人分の足跡が見つかった。雨林の地形は多湿であることから、ぬかるみもある。こうして足跡が残りやすいのだ。


「これだ!」


 その足跡は雨林の中へと続いている。十中八九、犯人とヨエルのものだ。目星をつけたフィノは足早にそれを追いかける。

 しかしそれを妨害するかのように、豪雨が降り出してきた。この雨脚では足跡も消えてしまう。


 たった一つの手掛かりを無駄にしないために、フィノは雨林の中を駆け回る。


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