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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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感傷と後悔

 

 宿へと戻ってきたフィノは、荒れ果てた部屋の状態を目にする。

 壁も天井も、家具さえもボロボロで見る影も無い。そして、先ほど出立する時に待っているように言いつけたヨエルがどこにも居ないのだ。そればかりか、マモンの姿も見えない。


「……っ、これ」


 絶句しながら、フィノは瞬時に彼らに何かあったのだと知る。

 この場所に居ないのは、誰かから逃げているのか。それとも捕まっているのか。後者については考えたくは無いけれど、あり得ない話ではない。


 今のマモンが弱体化していることはフィノも知っている。

 先ほど相手にしたゴロツキのような素人相手ならば遅れは取らないだろう。けれど、それなりの手練れならば話は変わってくる。

 きっとヨエルもマモンも、フィノの助けを待っているはずだ。


 すぐさま部屋を出ると、宿屋の店主に怪しい人物は見なかったかと尋ねる。すると――


「お客さんが出てった後に、そういえば一人部屋を借りていきましたな。店の出入り口から出て行った所は見ていないので、おそらくまだ部屋にいると思いますよ」


 件の人物は人目に付く場所から出ていっていない。

 けれど、あんな事をしでかしたのだ。まだ宿に残っているとは考えられない。おそらく……割れていた窓から外に出たのだろう。


「ありがと!」


 礼を述べると、フィノはすぐさま宿を飛び出した。


 外に出たのなら、誰かしら目撃者がいるはず。しかしそれを探している時間もないし、いまは早朝。人通りも少ない。誰にも見られていない可能性もある。

 ここは敵の目的を探って行き先を推測するしかない。


 フィノはゴロツキたちの証言を思い出した。

 彼らに依頼をした人物は、フィノを足止めしたかったのだ。けれど、これからヨエルの元を離れるつもりだったフィノをわざわざ足止めする必要はないように思う。

 ゴロツキに絡まれていなくとも、フィノが依頼主の邪魔をすることはないのだ。


 よくよく考えてみるとおかしな点が浮き彫りになってくる。

 どうして依頼主はそんなしなくてもいいことをわざとしたのか。逆に情報漏洩で自らの計画がバレるとは考えなかったのだろうか?


「んぅ……なんかへん」


 依頼主はゴロツキのように考えなしとは思えない。意味があってあの足止めをしたのだ。

 ゴロツキたちは時間稼ぎをしろと言われたみたいだけど、もっと単純な意味合いがあったはずだ。


「足止めってことは……行ってほしくなかった?」


 フィノの向かう先はスタール雨林だった。

 もし事が上手く運んでヨエルを攫った後、向かう場所が同じだったら? 

 せっかく上手くいったのに、最後の最後で邪魔をされることを恐れて、フィノを目的地へと向かわせないように仕向けたのなら……一応、辻褄は合う。


 スタール雨林に向かうのにも理由があるのだ。

 国境を越えるのならば、あの場所が一番足がつかない。関所の警備は厳重だし、子供を連れて通れるほど杜撰ではないはず。


 雨林を通って行けば誰の監視も無く国境を越えられる。

 しかもあの場所は戦場となっている。誰も彼も他人の事など気にしていられないだろう。


「うん、だったら向かったのはあっちだ」


 スタール雨林へ向かうには、街の西門から出た方が近い。元々フィノもそこに向かう予定だった。


 足早に駆けて向かってみれば、どういうことか。マモンの姿を見つけたというわけだ。




 ===




『己では守りきれなかった……面目ない』


 力なく項垂れたマモンに、フィノは大丈夫だと励ます。


「ヨエルが無事ならそれでいいよ。目的地もわかったし、私に任せて」

『だが……』

「マモンはヨエルのところに戻って。ひとりじゃ心細いから」

『――っ、……ああ、そうだな』

「私が必ず助けるから。マモンはヨエルの傍にいて」


 余計な事はしなくてもいいと念を押すと、マモンはわかったと頷いた。

 少しだけ安堵したマモンは、すぐさま霧散して消えてしまう。


「……今度は大丈夫」


 言い聞かせるように呟いて、フィノは前を見据えた。


 自分のあずかり知らぬところで大事な人が傷つく事なんて、もう二度とあってはならない。

 感傷と後悔を胸に、フィノはスタール雨林へと向かう。


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