不可解な襲撃
街への襲撃は決まってエストの森がある東側からやってくる。
それを迎え撃つために、街の東側には大きな門扉と外壁が聳えているのだ。
壁上に立って遠くに見える森の入り口を見据えながら、フィノは周囲を取り囲む喧騒に耳を澄ます。
兵士長が他の兵士に伝達してくれたおかげで、日暮れに合わせて作戦準備に取りかかってくれている。
彼らの目的はヴァルグワイと他の魔物を分断すること。だからいつも以上に準備も入念になる。
実体を持たないシャドウ系の魔物は相手にすると厄介だけど、彼らは強烈な光が弱点なのだ。
外側の外壁に光を生み出すカンテラを取り付けて攻め手を緩める。加えて、やじりの代わりに先端に魔鉱石を取り付けた矢を放つことで、遠方や上空からの襲撃にも対処出来る。
シャドウ系の魔物は総じて朝陽に弱い。陽の光の下では活動できないのだ。だから薄暗い森の中や、夜の闇に乗じて奇襲を仕掛けてくる。
街を防衛する、その一点に重きを置くのならば明け方まで耐えればいい。しかし、それを延々と繰り返すのであればこちらの体力が持たない。
現に街を守っている兵士たちや街の住人の顔には覇気が見られなかった。疲弊しきってしまえば、あっという間に攻め落とされてしまうことも考えられるのだ。
そうなる前に、この襲撃の首魁であるヴァルグワイを討伐しなければならない。
「陽が落ちきって一時間もしないうちに奴らは現われるでしょう。魔物の接近は森の監視を任せている彼らを偵察に向かわせています。何か動きがあれば知らせるように言ってあるので、合図が来たら作戦開始……ここまではいいですか?」
「うん、大丈夫」
「ヴァルグワイはおそらく、表には出てこないでしょうから……こちらに雑兵を惹き付けている間に、奥に引っ込んでいる奴を見つけ出して叩いてください」
兵士長の作戦説明では、フィノの出番は彼らよりも少し遅れることになる。つまりは別働隊。
とはいえ、兵士長もフィノを一人で敵と相対させるのは気が引けたのだろう。数人の兵士の同行を勧められたけれど、かえって邪魔になるからとフィノはそれを拒否した。
他の魔物の相手を引き受けてくれるならばそれで充分だ。
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夕日が顔を隠して数分後、ついにその時はやってきた。
暗闇の中、突如――森の中で眩い光が見えた。
それを目にした兵士長は、緊張した面持ちで一言。
「偵察兵からの合図です。しばらくすれば森の奥から奴らが現われるでしょう。私は兵たちの指揮を執らなければなりませんので、これで。ご武運を」
最後に兵士長は、フィノへと一礼して去って行った。
彼と別れたのち、フィノは少し離れた場所で戦況を見守ることにした。
暗闇の中、眩い光が周囲を染め上げる。
目を眇めながらそれを眺めていると、フィノはあることに気づいてしまった。
「んぅ、なんかへん?」
目の前では襲ってくるシャドウハウンドらが、〈ホーリーライト〉によって尻込みしている光景が見える。
何の変哲もないそれに、フィノは微かに違和感を覚えていた。それは明確になに、とは明言出来ないが……確実に何かがおかしいと頭の中で警鐘が鳴っている。
フィノがこう感じるのは昔、同じ魔物と戦ったことがあるからだ。
あの時のシャドウハウンドと比べると、動きも鈍いし……なんというか彼らの行動が安直すぎる。
スタール雨林での戦闘時、多対一とはいえユルグもあそこまで苦戦していたというのに、このハウンドたちは光に照らされて呆気なく倒れていくのだ。
実体を持たない魔物だというのに、なんだかその能力を有効に活用できていないような印象を受ける。
「……やっぱりおかしい」
けれど、防衛している兵士たちにはこれが当たり前であるようだ。
単純に魔物の個体差が影響しているのか。しかし、そう考えるにはなんとも不可解である。
そもそもの話、こうして魔物が徒党を組んで街を襲撃すること自体おかしな話ではある。
街を襲う奴らの意図がどうにも見えてこない。何か目的はあるのだろうが、ただ人がいるから襲う、というのではここまで計画的な襲撃は行わないはずだ。
これについては兵士長も薄々は感づいていたらしく、何か裏があるとは言っていた。けれど彼もそれが何かまではわからないらしい。
きっとそこに、この襲撃の謎を解く手掛かりがあるのだ。そう結論づけたフィノは、闇夜に紛れて行動を開始することにした。




