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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
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楽しい時間はあっというま

 孤児院へ行く道すがら、カルロはアルヴァフの内情について説明してくれた。


「ハーフエルフって言っても、皆が良い奴ってわけじゃないからね。今まで生きていく中で仕方なく犯罪に手を染める輩も少なくはなかったんだ。んで、そいつらが皆、更正出来るかっていうとそうでもない」


 実際に、国の歴史が浅いアルヴァフで悪事を働くのはそういったならず者なのだという。

 差別はなくなって真っ当に働ける環境が整っていても、盗みを働く者は存在するのだ。それを取り締まったり、不正を働く者を摘発するのがカルロが携わる治安維持の仕事の一部である。


 けれど、彼女には暴漢を力でねじ伏せる腕力も技術も無い。彼女の主な仕事は不正を行っていないか、悪事を働いていないかの調査である。


「人も集まればその分問題も起きる。だから私は毎日休む暇も無く駆けずり回ってるってわけ」

「んぅ、大変だ」

「まあね。でもやりがいってのはあるよ」


 カルロはこの仕事に誇りを持っているみたいだ。本人はガラじゃないと笑って言うが、立派なことだとフィノは思った。


「んで、レシカを預ける孤児院なんだけど……ここなら大丈夫かなってところ予め選んでおいたから、今日はそこに行くよ」

「うん」


 訪れた孤児院には、預けられている子供が十人いた。彼らの年齢はまちまちで最年少が八歳から、一番上が十五歳。

 十六歳になれば独り立ち出来ると見なし、孤児院から自立することになっているらしい。巣立った子供たちは、国で定職に就けるように支援してくれる。


 加えて、孤児院は教育の場でもあるのだ。将来不自由しないように、読み書きや教養を学んでいく。

 フィノも昔、これにはだいぶ苦労させられたものだ。一朝一夕では身につかないし、それを支援してくれるのならば子供たちにとっても、国にとっても双方の益になる。


 社会福祉の一貫である政策を、なるほどと感心しながら孤児院の職員から聞いていると、院長と話を付けてきたカルロが戻ってきた。


「構わないってさ。面倒見てくれるって言ってたよ」


 良い返事に、フィノはほっと胸を撫で下ろした。

 今回の件について、フィノも同行したがカルロの主導のおかげでスムーズに事が進んだ。そもそも自分が着いてくる必要はなかったように思うが……色々と勉強になったので無駄ではなかったはずだ。


「フィノは明日戻るんでしょ? レシカのことは私がやっとくよ」

「いいの?」

「もちろん。フィノだって暇じゃないんだし…おじいちゃんに頼まれ事もされたんなら、時間は有効に使わなきゃね」


 レルフに頼まれた特使の件は、ひいてはアルヴァフの為にもなる。出来るだけ早めに解決するべき問題だ。カルロの言うことも、もっともである。


「わかった」

「でも、ヨエルがなんて言うかだね」


 レシカとはいつの間にか仲良くなっていたわけだが、彼女との別れを渋るのではないかとカルロは懸念しているのだ。


「それなら大丈夫」


 けれど、フィノはそこまで心配はしていない。

 今朝、レシカを遊びに誘ったのだって明日で別れなければならないと知ってのことだ。まだ幼い子供だと思われがちであるが、ヨエルはあれでしっかりしている所もある。

 だからこそ、フィノは大丈夫だと判断したのだ。




 ===




 夕刻になって、城の客室に戻ってきた二人は満足げな表情をして、疲れ切った身体をベッドに放り投げた。


「はああ、つかれたあ」

「たのしかったね!」


 興奮も醒めやらぬ様子で、ベッドの上でゴロゴロと転げ回る二人を見つめて、フィノはテーブルの上に出していた魔鉱石を片付けながら目を向ける。


「どこに行ってきたの?」

「お城の探検して、それから滝の上いってきた!」

「……滝?」


 ヨエルはおかしなことを言い出した。

 アルヴァフの近くに滝があるなんて聞いたことがない。不思議がっていると、レシカが説明してくれた。


「でっかい木の上から水が落ちてくるんだよ!」


 なんでも地面から吸い上げた水を、木の幹を伝って上に押し上げて外に放出するのだとか。

 滝木と呼ばれるそれは枯れ木のような風貌で葉が茂っておらず、岩のように硬いらしい。近くに川が存在しないアルヴァフにとっては、貴重な水源である。


「へえ、知らなかったなあ」


 件の滝木はのぼれるらしく、二人は天辺まで探検してきたのだと言った。天辺にはくぼみがあり、池のように水を蓄えているのだという。

 色々な場所を訪問してきたフィノだが、世界にはまだまだ知らないものが沢山あるようだ。ヨエルが先ほどから興奮しっぱなしなのも頷ける。


「また行こうね!」

「うん」


 寝転がっていたヨエルは勢いよく起き上がるとレシカの手を握って約束をする。また来るから悲しまないで、と言外に言っているのだ。

 それを察してか、レシカも落ち込んだ表情は見せない。


 二人の微笑ましい様子を眺めて、フィノは提案をする。


「私の用事が終わったら、また来よう」

「ほんと!?」

「うん。ちゃんと観光できなかったしね」


 今回、レルフに呼ばれてアルヴァフに来たフィノは、二人とは違って心ゆくまで楽しむことは出来なかった。

 戦争が終われば、もっと人が訪れて賑わうはずだ。それがいつになるか分からないが……この状況を長引かせることは、フィノもアルディア帝国の皇帝であるアリアンネも望んではいない。

 攻勢に出られれば、あと数年で戦争終結も夢ではないのだ。



 とはいえ、ヨエルにとってはそんな大人の事情など知る由ではない。

 翌日、レシカと別れて山小屋へ戻った後も「いつになったら行くの」と急かされることを、フィノはまだ知らない。


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