シーサイドボーイ
アルヴァフはハーフエルフを優遇する閉鎖的な国だと思われがちだが実際は違う。定住しなければ訪問者には寛容なのだ。
その証拠に、宿で休息を取って翌日――昼過ぎにベルゴアを発った一行が海沿いの街道を通っていると、目的地が同じであろう旅行者と幾度かすれ違った。
その中にはハーフエルフも含まれてはいたが……多種族も当然のようにいる。
昔、フィノが滞在していた小さな村だった時と比べて、急速な発展を遂げたアルヴァフという小国は今や立派な観光名所なのだ。
このご時世でなければ、もっと沢山の人が訪れていただろう。
「ねえ、遊んできてもいい?」
道行く人に気を取られていると、レシカがフィノの服の袖を引っ張ってお願いする。
街道を逸れて少し行くと砂浜があるのだ。危険な場所ではないし浅瀬であれば子供たちだけでも大丈夫だろう。
「ヨエルも行っておいで」
「えっ!? ぼくはいいよ」
レシカと一緒に遊んでおいでと言うと、なぜかヨエルは遠慮した。
彼も海を楽しみにしていたのに、どうしてかそれを目の前にしても乗り気ではないらしい。
「んん?」
フィノはそれに首を傾げた。昨夜に聞いたレシカの話とは少し違うのだ。
フィノは彼女にあるお願いをしていた。友達がいないであろうヨエルと仲良くして欲しいというものだ。
エルリレオにも聞いていたことだが、ヨエルは彼と暮らしていた時も同年代の友達がいなかったらしい。変なところで人見知りをするから、友達作りが下手なのか。それとももっと別の理由があるのか。
ヨエルを傍で見ていてもフィノにはその理由が分からなかった。だから、歳も近いレシカなら良い友達になってくれるのではないかと思ったのだ。
フィノのお願いにレシカは快く引き受けてくれた。
彼女に話を聞いてみると、ヨエルとは仲良くなれそうだと言っていたから心配はしていなかったのだが――
「いかないの?」
「……うん」
レシカの呼びかけに、ヨエルはまたもや頷く。それを聞いて、彼女は強引に少年の手を取った。
「せっかくだし、いこうよ!」
「ええ……でも」
何かを躊躇っているヨエルは、なかなか首を縦に振らない。そこでフィノが「行っておいで」と背中を押して、やっと重い腰を上げる。
レシカに引き摺られるようにして砂浜に駆けていく二人の後ろ姿を眺めながら、フィノは頭上に輝く陽光に目を細めた。
しばらくすると、満足そうな顔をして二人は戻ってきた。
頭から爪先まで海水で濡れて、砂まみれだ。酷いなりをしているというのに、二人は楽しげな表情をしている。
「はあぁ~、たのしかった!!」
「うぅ……しょっぱいしベトベトする」
最初は渋っていたヨエルも、文句を言いつつも初めての海にはしゃいでいた。
「どこかで身体、洗った方がいいね」
二人の様子を眺めて、フィノは地図を取り出す。幸いにして、街道よりも内陸側に行くと水場があるようだ。
ヨエルの背嚢を持って、フィノはそこまで二人を連れて行く。
「そういえば、さっきはなんで行かないなんて言ったの?」
ふと気になって隣を歩いているヨエルに聞いてみると、彼はもじもじと恥ずかしそうに答えてくれた。
曰く――
「誰かと一緒にあそぶの、初めてでその……はずかしかった」
何とも可愛らしい理由である。
それを聞いて、フィノはレシカと顔を見合わせて微笑んだ。二人の様子に、ヨエルが不満げに口を尖らせたのは言うまでもない。




