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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
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何でも出来るひと

 

 昼飯を食べ終えたフィノはヨエルの手を借りて大木の下に天幕を張る。

 しっかりと骨組みを立てて、その上に、中に風が入り込まないように厚手の布を被せれば完成だ。


「どう? 簡単でしょ」

「うん」


 設置すると、ヨエルは我先にと中に入っていった。

 広さは子供二人が寝るには充分である。フィノは一晩中不寝番をするから、毛布と満天の星空が寝床だ。


 小屋の傍に秘密基地なんてものを作っていたくらいだ。こういった天幕はヨエルにとっては最高に興味がそそられる、格好良いものらしい。


「これいつもやってるの!?」

「慣れれば簡単だよ」


 天幕の入り口から顔を出してヨエルは食い気味に問い質す。無邪気な様子に苦笑して、フィノは適当なことを言う。


 実際はフィノが一人で旅をする場合、寝床は決まって木の上になる。その方が安全だし、急な襲撃にも対応出来るのだ。

 今回は二人の連れもいるから一般的な野営方法を取った。


「それじゃあ、私は狩りに行ってくるね」

「狩り!?」


 その一言を聞いた瞬間、ヨエルはことさら瞳を輝かせた。顔に「ぼくもいきたい」と書いてあるようだ。


「……一緒にいく?」

「いいの!?」

「そんなに遠くには行かないし、罠仕掛けるだけだから」


 いいよ、と言ってやるとヨエルはすぐさま天幕から飛び出してきた。


 小屋での食事は街から買ってくる食材で済ませていたし、エルリレオも狩りなんてしなかったはずだ。だからこそ、彼の目には全てが新鮮に見えるのだ。

 それにこういった技術は覚えておいて損はない。フィノの師匠であるユルグも当たり前のように出来ていたし、この先頼りにしないとも限らないのだ。


「レシカに言ってきて。準備してるから」

「うん!」


 脱兎の如く駆けていったヨエルを見遣って、フィノは手近な小枝と紐を取り出した。

 枝の先に紐を括り付けて、その先端に輪っかを作る。くくり罠というやつだ。出来上がった罠を小動物が通りそうな場所に仕掛けるだけ。


 何個か作っていると、ヨエルが息を切らして戻ってきた。フィノの手中にある罠を見つけると、またもや質問攻めにされる。


「なに捕まえるの!?」

「うさぎがいいかなあ。携帯食は持ってきてるけど、ずっと同じだと飽きるからね」

「……こんなので捕まえられるの?」

「もちろん!」

「ええ……とってもあやしい」


 ヨエルが向ける懐疑の眼差しをはねのけて、みてなさいよ、とフィノは薄らと雪の積もった地面を凝視する。

 獲物を追い詰めるには観察しなければ始まらない。足跡や糞の有無、それらを注意深く観察して見つけるのが上手い狩りの仕方なのだ。

 かつてユルグに教わったことを、そのままヨエルに説明しながらフィノは獲物が掛かりそうなポイントに罠を仕掛けた。


 この方法は、必ず獲物が掛かるものではない。場所選びが悪いといくら待っても掛からないことなんてザラである。

 それ即ち、フィノの沽券にも関わってくるのだ。ヨエルはフィノが想像する以上に期待している。

 つまり……ヨエルの中にあるフィノの株を上げる絶好のチャンス。失敗は許されないのである!




 ===




「よし、こんなものかな」


 パンパンと手を叩いて、フィノは腰を上げた。

 合計で五つの罠を仕掛けた。二時間たった後に獲物が掛かっているか確認しにこよう。


「もどるよ」

「まって!」


 少し離れた場所で、フィノに倣って罠を仕掛けていたヨエルが遅れて戻ってきた。

 やってみたいと言うから、自分で罠を作らせて設置してもらったのだ。


「どう? ちゃんとできた?」

「うん、ばっちり」


 やけに自信満々なヨエルに、フィノは微笑ましさに笑みを浮かべる。

 しかし、彼女が余裕をかましていられるのはここまでである。


 ――二時間後。

 罠を確認しに戻ってきたフィノは、眼前にある結果に愕然とした。獲物が掛かった形跡が一つもないのだ。


「なっ、なんで!?」


 確かに足跡を追跡して、うさぎが通りそうな場所に罠を仕掛けた。こういうこともあるとは知っていたけれど、どうにも納得いかない。

 仁王立ちのまま唸っていると、視界にあるものが映った。


 点々と地面に落ちているのは、青々しい葉っぱの切れ端だ。それがぽつぽつと道を作っている。そしてそれを追うように足跡が続いているのだ。

 最終的に行き着いた場所はヨエルが仕掛けた罠である。


「あっ!」


 少し遅れてフィノの背後からヨエルが顔を出した。彼は自分の仕掛けた罠に獲物が掛かっているのを見ると、勝ち誇ったようにフィノを見つめる。


「す、すごいじゃない」

「フィノは捕れた?」

「……」


 無言で首を横に振ると、ヨエルは驚いたように声をあげた。


「フィノは何でも出来ると思ってた」

「どうかなあ……何でも出来たのは、私のお師匠の方だったよ」

「それって、ぼくのお父さんのこと?」

「……うん、そう。そうだよ」


 短く答えたフィノの様子にヨエルは声を詰まらせた。きっとこれ以上聞いてはいけないと思ったのだろう。

 彼の遠慮を察して、フィノは俯きながら隣を歩くヨエルにこんな提案をする。


「知りたいなら話してあげる。元々、そのつもりだったからね」

「いいの?」

「うん。でも、少しだけ待って」


 内心の動揺を悟られないように、努めて冷静に返すとヨエルは素直に頷いた。

 彼が父親の、ユルグの何をどこまで知りたいかはわからない。けれど、話すからには核心を避けて説明するのは不可能だ。

 勇者や魔王のこと。彼がどんな境遇で、何を想っていたのか。もちろん、フィノはユルグの全てを知っているわけではない。それでも、断片的に。それもフィノの主観を多分に含んだ説明であっても、心の準備が要るのだ。


 簡単に説明できるほど、フィノもユルグへの想いを清算出来たわけではないのだから。



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