正反対なふたり
レシカを連れてヨエルの元に戻ると、彼はフィノの言いつけ通りに草むらに隠れていた。
「もどったよ。何もなかった?」
「うん、だいじょうぶ」
呼びかけると、ヨエルは草むらからひょっこりと顔を出して応じる。その腕の中にはマモンもいて、フィノの帰還に彼は大きな欠伸を零した。
『それでは、そろそろ眠るとしようかな』
「もう消えちゃうの?」
『そんなに寂しがらずとも……近いうちにまた顔を見せるよ』
寂しそうな顔をするヨエルを一瞥して、マモンは霧散して消えてしまう。
誰が見ても分かるくらいに落ち込んでいるヨエルだったが……陰鬱な気分を払うかのように、フィノの背後から少女が顔を覗かせた。
「はじめまして! わたし、レシカ。よろしくね!」
良く通る声で、開口一番。レシカは初対面のヨエルに自己紹介を始めた。それに何が何だか分からずに狼狽える少年。
目の前の少女、レシカはヨエルよりも少し背が高いハーフエルフの少女だ。歳も同じくらい。そして、ヨエルとは真逆な性格をしていた。
握手をしようとレシカが差し出した手を呆然と見つめて、ヨエルはぱちぱちと目を瞬かせた。
「な、なに?」
「はじめましての握手! したことないの?」
「うっ……そんなこと、ないけど」
咄嗟に口をついて出た嘘は、彼女にはバレなかった。けれど、いつまで経っても手を握ろうとしないヨエルに痺れを切らして、レシカは強引に彼の手を取るとブンブンと上下に振り抜く。
「よ! ろ! し! く! ね!」
「わ、わかったから! それやめて!」
げんなりとしたヨエルとは対照的に、レシカは満面の笑みを浮かべて笑っている。
なんでこの子はこんなに楽しそうなんだろう……内心でそう思いながらヨエルはフィノへと目配せした。
「あそこにいたから連れてきた。アルヴァフまで一緒に行くよ」
「えっ!」
「だから仲良くしてね。国に着くまで……六日くらいかかるから」
「ええっ!?」
フィノの発言にヨエルは目を円くして叫び声を上げる。
人見知りをしてしまうヨエルには、いくら歳が近いからといって初対面の人と何日も行動を共にするのは憂鬱すぎるのだ。
しかもレシカは、結構強引な所があるような気がする。きっと自分とは相容れないタイプなのだと、ヨエルは戦々恐々とした。
ひとり青ざめているヨエルを余所に、フィノは預けていた背嚢を背負うとこの後の予定を話し出す。
「とりあえず、水場を探して服と身体を洗って……少し早いけど野営の準備、しようか」
「まだお昼になったばかりだけど……」
襲ってきた男たちのおかげで、今日は殆ど進めていない。こうしてアジトまで来て人助けをしたおかげである。
不満げな顔をするヨエルに、フィノはそれらしい口上を述べた。
「ヨエルは野宿、初めてだからね。余裕持って、ってこと!」
それに洗った服も乾かさなければならないし、急いでいるわけでもないのだとフィノは説明した。
「先は長いんだから、のんびりいこう」
「はぁい」
「うん!」
テンション低めの返事をするヨエルに、元気よく応えるレシカ。
正反対な少年少女を見つめて、フィノは微かに笑みを零すのだった。




