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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第五章
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懐かしい顔ぶれ

 

 思いもよらぬ展開に、フィノは瞠目して一瞬呆然としてしまう。


「……ええと、どうされました?」


 固まっている訪問者に、男は怪訝そうな顔をした。彼の一言でフィノはハッとして意識を戻す。

 ここにはヨエルを追って来たのだった。まずは彼の安否を確認しなくては!


「ここに十歳くらいの子供、来てない?」

「ああ、いるよ。てことは、君はあの子の保護者かな?」

「うん、そんなところ」


 受け答えして男の背後を見遣る。そこには彼の言葉通りにヨエルの姿があった。

 その事にフィノは安堵してほっと息を吐き出すと――ルフレオンの招きに従って室内に入る。

 ――と、同時にフィノの訪問に驚愕を滲ませてライエが声を上げた。


「フィノ!?」

「ライエ、久しぶり」


 彼女は十年前と変わらず、この場所で狩人として生きているみたいだ。先ほどは驚いたけれど、元気そうである。


「この子の保護者ってあなただったのね」


 そう言って、ライエはヨエルに目を向けた。フィノも彼を見遣るが、どういうわけか。ヨエルは俯いたまま顔を上げてくれない。フィノが迎えに来たことにも何も反応を示さないし、なにやらいつもの元気がないように思える。


 ヨエルは黙ったまま膝上にマモンを乗せて椅子に座っている。

 彼のそんな様子を目にして、フィノも何かあったのだと悟った。


「……どうしたの?」


 優しく声を掛けるも、反応はなし。

 代わりにライエがフィノへと説明してくれた。


「ごめんなさい。私が軽率な事を言ってしまって」

「軽率なこと?」

「あなたの、師匠のこと。知りたがっていたから」


 ライエの一言でヨエルがどうしてこんなにも元気がないのか、フィノは察した。

 それと同時に、生前エルリレオに言われていた事を思い出す。


 ヨエルに、母親……ミアのことを話すにしても、父親であるユルグの事を打ち明けるべきか。彼も悩んでいたのだ。

 聞いても楽しい話でもないし、世間的に見てもユルグは善い行いをしたとは言えない。真実を知ったら傷つくだろうとエルリレオは心配していた。

 だから彼は口を噤んでいたのだ。マモンにもフィノにも、事情を知る人には箝口令を敷いて秘め事としていた。


 まだ子供のヨエルには知らせるべきではないとの判断だ。けれど、いつまでも抑え付けておけないことも彼は知っていた。

 だからいずれは……十六歳の成人を迎えたその時に、全てを打ち明けようとエルリレオは決めていたのだ。


 しかし、彼の想い虚しく。思いがけず知ってしまった事実に、ヨエルはずっと黙り込んでいる。

 ライエが何を彼に話したのか知らないが、良くないことであるのは確かだ。


 ユルグの幼馴染みのミアも、師匠のエルリレオも。ユルグの事を知る人物は限られていて、数える程しかいない。

 その中で彼のことを良く言える者は、フィノくらいなものだ。


 慰めてやるべきだろうが、部外者がいるこの場所では落ち着かない。この話は二人だけで話さなければならないことだ。

 だからフィノは、ヨエルの傍に寄って一言だけ告げた。


「帰るよ」

「……うん」


 ヨエルはそれに素直に頷いた。顔は向けてはくれなかったけれど、大人しく従ってくれるみたいだ。

 喜んでも良い事か……とりあえず無事に保護出来たことに安堵して、フィノは帰り支度を始める。


「二人とも、ありがとう」

「……余計なことしちゃったわね」

「気にしないで。今日は会えてよかった」

「いつでも遊びに来て。歓迎するから」


 ライエと握手を交わすと、彼女の隣にいたルフレオンがヨエルへ声を掛ける。


「もう家出なんてしちゃダメだぞ」

「うん……じゃあね、おじさん」


 彼らの会話を聞いて、フィノはふとあることが気に掛かった。

 先ほどは見覚えがないと断じたが、ルフレオンの顔を見ていると何かが気になるのだ。きっと彼とはどこかで会っていると思うのだが……なにぶん十年前の出来事だろうから、記憶を掘り起こすのに時間が掛かる。


 難しい表情をしているフィノに、ライエが不思議そうな顔をした。


「どうしたの?」

「あの人、どこかで見たような気がして」

「ああ、彼の事ならフィノも知っているはず。彼、帝都で看守やってたからね」

「あっ! あの時の!?」


 ライエの話を聞いてフィノもようやく確信した。彼はライエの父親と懇意にしていた看守だったのだ。

 数年前に結婚して、今ではこの場所で二人で暮らしているのだとライエは語った。


「看守の仕事はやめたの?」

「ええ、戦争が始まって看守といえども安全とは言えないでしょう? 戦地に送り込まれるよりはここで静かに暮らすことにしたのよ」


 彼女の話に出た戦争とは、五年前から始まったデンベルクとアルディア間での戦争を言っている。三年前から更に戦火は激しくなり、今のところ帝国の端に位置しているこの場所は安全だけれど、国中が疲弊しているのは確かなことだ。

 そんな状況だからこそ、ライエはルフレオンを傍に呼んだのだろう。


「私もあの仕事にそこまで拘りはなかったし、狩人も楽しそうだから良い機会だと思ったんだ」

「腕はまだまだだけどね」

「はは……彼女、なかなかに厳しいんだ」


 笑いながら文句を言うルフレオンは、それでも楽しそうに見える。

 そんな二人の様子を見てフィノは笑みを浮かべて、さよならを伝えると先に外に出て行ったヨエルを追いかけてログハウスを後にする。


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