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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第三章
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追い続けた背中

一部、加筆修正しました。

 

 一年振りに会ったお師匠は、フィノの記憶にある姿とはかけ離れていた。


 左目は潰されて包帯を巻いたまま。先ほど首を撥ねた際に浴びた返り血で汚れた身体からは死臭が漂っている。

 これは何も今汚れたからでは無い。ここまで来る間に散々人を殺してきたのだろう。

 王殺しなんてしているのだ。それを警護する兵士とも剣を交えるのは必須。ユルグは彼らにも容赦はしなかったはずだ。

 流石に血まみれの状態で出歩いていれば目立つから、道中で適当に着替えてはきているだろうが……身体に染みついた血の臭いは簡単には落ちない。


 一言で言い表してしまえば、今のユルグは酷い有様だった。


 それに息を呑んで固まっていると……彼は剣を納めると、一瞬だけフィノに目を向けた。

 けれど何を言うでもなくすぐに顔を背けると、足元に転がっていた男の頭部を掴んで、死体が積み重なった山へと放り投げる。

 次いで結構な重さがあるであろう男の死体を担ぐと、それを死体の山の頂上へと重ねる。


 その様子を眺めて……やっとのことでフィノは目の前の状況を飲み込むことが出来た。


「お、おししょう!!」


 ――声を掛ける。


 フィノの必死の呼びかけに、ユルグはまたもやこちらを見据えた。けれど何を言うでもなく、フィノには構わないでふらふらとどこかへ行ってしまう。

 それを留めるように手を伸ばして腕を掴むと、フィノは再度声を張り上げた。


「まっ……まってよ!」

「……はなしてくれ」

「いやだ!」


 ギリギリと締め付ける勢いでユルグの腕を掴んだフィノは、それを離してしまわないよう必死だった。きっとこれを離してしまえば、たちまちにユルグはどこかへ行ってしまう。そんな予感があったのだ。

 ここで出会ったのならば、連れ帰るまで絶対に離せない。


 師匠の指示に逆らう弟子を一瞥して、ユルグはそれでも何も言ってくれない。

 なんでここに居るんだとか。何をしに来たんだとか。一番に聞くべき事は沢山あるというのに、まったく何も尋ねてこない。


 もしかしたらそれを聞く必要もないのかもしれない。フィノがこうしてユルグを追ってきたのならば、何を知っているのか。彼にも理解出来ているはずだ。フィノがこんなにも必死になっているのだって、全てを知っているからに決まっている。

 だからユルグは多くを語らないのかもしれない。だってさっきから、喋っているのはフィノばかりで、ユルグは何も言ってくれないのだ。


「どこにもいかないで!」

「……はあ」


 縋り付いてくるフィノに、ユルグは一つ息を吐いた。


「じゃあお前も手伝えよ」

「……え?」


 思いも掛けない言葉に、フィノは目を円くする。


 ……手伝えって、何を? もしかして、これから国王を殺しに行くからそれを手伝えと言っているのだろうか。

 ぼんやりとそんなことを考えて……フィノはまったく予想していなかった展開に固まってしまう。


 ここまでユルグを追いかけてきたのは彼を止めるためだ。復讐を成すことは責められないけれど、それでもやめてほしい。今のユルグには他にすべきことがある。だからなんとか説き伏せて、産まれたばかりの家族の待つ家に帰してやりたい。その為にフィノはここまで追ってきた。


 だから、ユルグに向けられた言葉はまったく予期せぬものなのだ。

 今もあの大男を殺すかどうかで迷っていたフィノに、彼の復讐を手伝う覚悟は無い。ましてやこんなことを弟子に頼むなど、以前のユルグではあり得なかった。


 一年前の別れ際に、自由に生きろと。確かにユルグはそう言ってくれたのだ。そんな彼が、こんな――


「ばっ……バカお師匠!! そんなっ、そんなこと言わないでよ!!」


 あまりにもフィノの知っているユルグとかけ離れている。それをまじまじと実感させられて、ぽろぽろと涙が溢れて止まらなくなった。

 本当はユルグに出会った瞬間から、泣きじゃくって縋り付きたかった。ミアが居なくなって、ティナも……あんなことがあって。未だ心の傷が癒えていないのはフィノだって同じなのだ。けれどそれに蓋をして、ここまで心を奮い立たせて追ってきた。

 何よりもフィノが泣いていると一番泣きたいユルグが泣けないから。だから必死に我慢していたのに……たったいま、それが決壊してしまった。


「なんでいつも勝手に行っちゃうの!? フィノには何も言わないで……いつもそうやって!!」


 怒鳴りつけるように声を荒げるとそれを目にしたユルグは瞠目して、それから少しだけ困ったように眉を下げた。


「なんでそんなに泣いているんだよ。別に難しい事は何も言ってないだろ。あれを燃やすのを手伝ってくれって頼んでいるだけじゃないか」

「……え?」


 鼻を啜りながら目を円くするフィノに、ユルグは片手を上げてあるものを指した。

 指先を追ってそれを見遣ると、そこには倒壊した家屋が見える。


「あの死体をこのままにしておけないから、木材を重ねて燃やそうとしていたんだ。俺一人じゃ大変だから手伝えって言ったんだが……お前、何か勘違いしてないか?」

「うっ……じゃあそう言ってよ!!」


 やっと口を開いたユルグはいつも通りだった。

 ここまで沢山の人を殺してきただろうお師匠は、そんなことなんて無かったかのようにフィノの記憶の中に居るユルグと同じに見えた。

 ミアを殺されて、怒り狂っていたであろうユルグはどこにもいないのだ。



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