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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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想い想われ、こいこがれ 4

遅れました。これで追加エピソードは終わりです。


 何の進展もないまま、ついにその日はやって来た。

 行商の連中と麓の街に一緒に尋ねてきたカルロは山小屋まで足を運んでくれた。二ヶ月ぶりに会った彼女は、変わりなく元気そうである。


「お兄さん! 元気にしてた?」

「ああ……まあ、元気にはしてる」


 彼女は開口一番ユルグの顔を見て挨拶をすると、ドカドカと小屋の中に入ってきた。

 それに無難な返事をすると、カルロはキョロキョロと室内を見渡す。


「あれ? ミアは? いないじゃん」

「ミアなら街に行ってる。荷物を取りに行ってるから、すぐに戻ってくるはずだ」

「あっ、じゃあ行き違いになっちゃったね」


 まるで自分の家のようにテーブルに着いて寛ぐカルロに、ユルグは文句を言いたくなるがぐっと堪えた。

 彼女のこれは今に始まったことでもないし、それに気を荒立てるのも疲れてしまう。

 しかし二人きりでミアの帰りを待つのも心苦しいものがある。


「迎えに行ってくるよ」

「ええーっ、客が来たのにもてなしもせずに一人にする気!?」

「客なら少しは遠慮するもんだろ」

「いいじゃん! 久しぶりに会ったんだし無礼講にしてよ!」

「お前はいつも無礼講だろ。少しは遠慮してくれ」

「はあ……お兄さんはいつにも増してつまらない男だねえ」


 いいからこっちこい、と腕を引かれてユルグはカルロの隣に座らされる。

 すると彼女はどこからか酒瓶を取り出してマグに注ぎ始めた。


「まあまあ、一杯飲みなよ」

「おまえ……何しに来たんだよ」

「なにって、元気にしてるかなーって顔見にきたんだよ」

「なら酒を持ってくる必要ないだろ」

「細かいことは気にしない!」


 そう言ってカルロは酒瓶をあおる。良い飲みっぷりに若干引きながらも、渋々ユルグもマグに口を付ける。


「それで、お兄さんはミアと仲良くやれてるわけ?」

「あ? なにを……」

「酒のつまみの代わりとフィノに土産話を持って行こうと思って。ほら、ミアが居る場所じゃこんなこと聞けないでしょ?」

「ああ、……まあ、うまく……」


 やれている、と答えようとしたところに先日の事が思い起こされた。

 そういえば、手紙の件でミアには色々と言われていたのだ。


「……やれている、というか」

「え? もしかしてなんかあったの? 気になる!!」


 カルロは俄然興味が湧いたようで、こうなってしまったら話すまで諦めない。観念したユルグはこれまでの事の顛末を語って聞かせた。


「ははぁん、なるほどねえ。それで、例の手紙はどうなったの?」

「どうもなにも白紙だよ。本当に何も書くことがないんだ」

「じゃあさ、いっそ白紙でもいいんじゃない?」


 ユルグの話を聞いたカルロは思ってもみない事を言い出した。

 手紙なのに白紙でおくるなんて聞いたことがない。


「こーいうのはね、想いが大事なの。お兄さんは頑張って手紙を書こうとした。でも無理だった。その結果、何も書かれていない白紙の手紙になりました。それでいいじゃん。フィノもわかってくれるよ」


 上機嫌で語るカルロの口上にユルグは少し考える。

 例えば、親しい友人から突然白紙の手紙が届いたとしよう。そんなものを受け取っては逆に混乱してしまう。


「……あいつに意味が伝わるとは思えない」

「そうかなあ。フィノ、結構冴えてるところあると思うけどなあ」


 ――フォローはしとくから!

 と、カルロに押し切られたユルグは、気が乗らないものの懐にしまってあった白紙の手紙をカルロに渡す。

 それを彼女は受け取って、ちらりと中身を見て……それから腹を抱えて爆笑された。


「ぶはっ、マジで何も書いてない! これは流石に笑っちゃうよ!」

「……っ、やっぱり返せ」

「ええ~、ダメダメ! こんなレアもの取っとかないと。あとでフィノにもみせようっと」


 にへへ、と笑って懐にしまったカルロに掴みかかろうとしたら、それを見計らったかのようにミアが街から戻ってきた。


「あっ、カルロ。来てたんだ……何してるの?」

「ぶふっ、い、いや? 何もしてないよ。あ、そうそう。お兄さんと美味しいお酒を嗜んでいたところ」

「なに? 二人だけで楽しんじゃって!」


 ずるい! と叫んでミアはユルグの隣に割り込んできた。

 別にずるくはないし、出来れば代わって欲しいくらいである。……などと、心の中で文句をたれながら、ユルグはミアの荷物に注目した。


「その箱、街まで取りに行ってたやつか?」

「そうそう。運んでる途中で汚れちゃったら悲しいからね。これだったらそんな心配もないと思って」


 ミアが抱えてきたのは頑丈な桐箱だった。これならばちょっとやそっとじゃ壊れない。


「何の話?」

「あのね、フィノに手作りの襟巻きを作ったから持っていって欲しいの。これなんだけど」


 先日やっとのことで完成させたそれは、紺碧色の鮮やかな襟巻きだった。

 初めての色染めにしちゃかなり上手く出来たと、ティルロットも褒めてくれたとミアが嬉しそうに話していた。ユルグも綺麗なもんだと感心したものだ。これならフィノも気に入ってくれるだろう。


「へえ~、これ手作りなんだ! ミアが作ったの!?」

「そうよ。解れないようにしっかり編んだけど、素人が作ったものだから少し心配」

「良く出来てるよ。フィノ喜ぶだろうなあ」


 カルロの一言を聞いて、ミアはちらっとユルグを見た。彼女が何を言いたいのか察したユルグは、適当に相づちを打って誤魔化す。


「手紙ならお兄さんから受け取ったよ。出来はともかく、心は籠もってるから、うん」

「?……そう? ならよかった。やれば出来るじゃない」


 バンッ――と背中を叩かれてユルグは気まずげに首を竦める。

 それを見てカルロは可笑しそうに笑っていた。



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