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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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想い想われ、こいこがれ 3

あと一話続きます。


「それで、せっかくだからユルグにも協力して欲しいの!」

「おれ?」


 唐突に手を握ってお願いをされる。


「家事の手伝いならできる限りするつもり――」

「そうじゃなくて! あなたもフィノの為に何かしてあげて欲しいの!」

「……なにかって」


 ――ミアと同じように手作りの物を作れと言いたいのか?

 そう問うと、彼女はかぶりを振る。


「ユルグにはもっと簡単な事をしてもらおうかな」

「簡単な事……」

「そうだ! 手紙なんてどう!? 私も書こうと思ってたんだ」

「てっ、手紙ぃ!?」


 ミアの提案にユルグは心底嫌そうに顔を顰めた。

 それを見て彼女はむっと口を尖らせる。


「なによ、そんなに嫌がること?」

「手紙は……勘弁してほしい」


 ぐつぐつと煮える鍋の前に立って、ユルグは苦言を呈した。それにミアはどういうことだと詰め寄る。


「なんでそんなこと言うのよ! いいじゃない手紙くらい!」

「にっ、にがてなんだ! そういう物を書くのが、本当に」

「な、なによそれ! 初耳なんだけど!?」


 驚くミアは、冷静になってふと昔の事を思い起こす。

 ユルグは手紙を書くのが苦手と言った……なんだかそれに思い当たる節があるのだ。


「もしかして……それで私にも手紙の一つも寄越さなかったってこと?」

「それ、いつのはなし」

「昔の話! あなたが村から出て行った後のこと!」


 なぜかミアはとても不機嫌だった。

 にじり寄られて自ずと後退りしてしまう。足元にあった薪置き場に躓いて、バラバラと積み上げていた薪が床に散らばっていく。

 しかしそれに構うこともなく、文句は積もっていく。


「そうよ! ぜったいそう! 私がどれだけ心配してたと思ってるの!? 手紙の一つくらい書いてくれても良かったのに!」

「わ、わるかったよ。でも昔の事だしそんなに怒らなくてもいいだろ」

「昔のことぉ? 今も同じことしようとしてるじゃない。そんなの見苦しい言い訳っていうのよ!」


 ミアの文句に反論の余地もない。彼女の言う通りだ。どうにか宥めようとしていると、焦ったユルグを置いてミアはぐつぐつと煮える鍋の火を消した。


「怒ったらお腹すいた。この話は食べながらする。いい?」

「う、……わかった」


 逃れられないと悟ったユルグはミアの言葉に素直に従った。

 食卓に夕餉を配膳して、対面するように座る。正面から突き刺さる視線が痛い。


 気まずさを感じながら器に盛られたスープを一口食べる。元々味は感じない。それでもいつもより味気ないように思えた。


「これ、おいしい」

「それはよかった」

「全然うで、鈍ってないじゃない。ふつうにおいしい」

「でも凝ったものはつくれないよ。簡単なものだけだ」

「それで充分よ。ありがとうね」


 さっきと打って変わって、ミアは嬉しそうに笑って微笑んだ。それに和んでいると、それで――と、急に声のトーンが下がる。


「さっきの話だけど」

「はい」

「否定しなかったってことは図星だから?」

「うん、まあ……そうなるな」


 当分会いに行けないのだから手紙の一つくらい書いてはどうか、というのは師匠の彼らにも何度か言われたものだ。

 エルリレオやカルラはともかく、あのグランツにさえ気遣われる始末。けれどユルグは頑なにそれを拒否した。


「どうして書いてくれなかったの?」

「それは……何を書いていいか、わからないんだ」


 これを聞けばみんな、何でもいいと言う。そんなに難しく考える必要は無いと。確かにそうなのだが、それが出来ていればこんなに苦労はしていない。


「うーん……こういうのって手紙の内容がすべてじゃないと思う。気持ちが大事なんじゃない?」

「きもち?」

「そう。あなたが少しでも思いやってくれたって事実が重要なの。極端な話、内容なんてどーでもいいの!」


 意気込んで力説するミアにユルグはなるほどと納得する。

 なんだか上手く丸め込まれている気はしなくもないが……そういうことだから、と彼女はユルグに再度お願いをした。


「カルロがくるまで時間もあるし、ユルグも頑張って手紙かいてちょうだいね」

「わかった」


 ミアの説得にユルグは反論を飲み込んで了承した。

 正直言ってやりたくはないが……過去の事を引き合いに出されては無理だとも言えない。



 カルロが来るまでの一月、ユルグの悩みと言えばもっぱらそれだった。

 ミアは気持ちが大事だというが、だとしてもどうすればいいんだ、というのが正直な所。ユルグはフィノへの手紙にほとほと参っていた。


「にいちゃん、なんだか元気ないね」

『……そうか? 普段通りに見えるが』

「最近ためいきばっかだもん。きっと何かなやんでるんだ!」


 エルリレオへと薬草を届けに来ると、ばったりと会ったアルベリクとマモンに邪推をされる。それも図星なのだから尚更バツが悪い。


 手紙を書いて欲しいとミアに言われてから数日経ったが、渡された紙は未だ白紙のままだった。藁にも縋る思いで、ユルグはそれとなく少年に意見を求める。


「離れてる人に手紙……ううん、おれなら元気ですかって書くよ?」


 少年の助言は無難なものだった。

 しかし顔を見せてくれるカルロに聞けば、決まって元気にやっていると言う。わざわざ手紙に書くほどのことでもない。逆も然りだ。

 安否の報告以外といっても、平和なこの場所では大きな事件も起きない。話題性に乏しい。なおさらユルグの書くことがなくなっていく。


 散々悩んだ挙げ句、結局ユルグは一文字もしたためられなかった。


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