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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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謎解き

 村に残ったフィノは、村長らと協力して石版の解読を進めることになった。

 もちろんそれは一朝一夕とはいかない。なんといっても、古代語という不慣れな言語に加え暗号化もされている。すべてを解き明かすには相当な時間を要するはずだ。


 何か分かったら手紙を出すとフィノは言った。

 それを期待して、ユルグはマモンと共にシュネー山……山小屋へと帰還する。


 一月はかかると言って出て行ったユルグだったが、十日程度で帰ってきた幼馴染みを見て、ミアは驚いた様子で出迎えてくれた。


「二人ともおかえり」

「うん、ただいま」


 黒犬のマモンと共に小屋の中へと入ると、ちょうどエルリレオと共にお茶を飲みながら寛いでいたようだ。ユルグの突然の帰還に彼も驚いている。


「もう少し掛かると思ってたのに」

「帰ってこない方が良かった?」

「……もう、そんなわけないでしょ!」


 バンッ、と強い力で背中を叩かれて苦笑を零す。

 軽口を言い合っていると、ミアがあることに気づいた。


「そういえばフィノの姿が見えないけど、どうしたの?」

「あいつとは別行動だ。しばらくこっちには来られない」

「……そうなんだ。帰ってきたら美味しいご飯作ってあげようと思ってたのになあ」


 しょんぼりと肩を落としてミアはテーブルに着くと、ユルグにお茶を淹れてくれた。

 熱いそれに口を付けながら一息ついていると、


「どうやら無事に戻ってきてくれたようで、儂も安心したよ。待っている間は気が気ではなくてなあ。少しばかり寿命が縮んだかもしれん」


 冗談を言って笑い飛ばしたエルリレオは、ユルグの左目に気づいていないようだった。ミアもそうだろう。

 隠し通せることならば公にしない方が良い。


「帰ってきて早々なんだけど……エルに頼みたいことがあるんだ」

「儂に頼み事? なにかね」

「これなんだが……」


 テーブルの上に並べた石版の写しをエルリレオはしげしげと手にとって見つめる。赤色の瞳を眇めてすべてに目を通すと、顎髭を撫で付けながら口を開いた。


「こんな古めかしいもの、一体どこで手に入れてきた? いや……それはたいした問題ではないな。おそらく、何かしらの意味があるものなのだろう?」

「ああ、だからエルにこいつの解読を手伝って欲しい。古代語なら少しは読めるって、前に言っていただろ?」

「ふむ……確かにそうではあるが」


 どうしてか、エルリレオは終始浮かない顔をしている。


「ここに書かれている内容が少し奇妙なのだよ」

「何が書かれているんだ?」

「女神のことについてだな。それを讃えるものばかりだ。こんな内容をわざわざ古代語で書き残す意味はないと思うのだが……」


 エルリレオはそれが一番引っかかると言った。

 けれどログワイドが石版にしてまで後世に遺したものだ。きっと何かしらの意図があるはず。

 二人揃って頭を悩ませていると、椅子の上に丸まっていたマモンが声を上げた。


『それはおかしい』

「何がだ?」

『ログワイドは女神を親の仇の如く嫌っていた。奴に親は居なかったがな。だからそんな内容を遺すわけがない』

「……ということは、何か意味が隠されているってわけか」

『十中八九そうだろう』


 とはいえ、だからといってここに含まれている謎を解き明かすのは至難の業だ。


「ここに書いてある内容を俺が分かるように書き直してくれないか?」

「そうだな、それが良さそうだ。やってみるよ」


 エルリレオへの頼み事は古代語の翻訳作業。

 その間、ユルグも手持ち無沙汰とはいくまい。こちらはこちらでヒントに成り得ることを、欠片でも良い。見つけなければならない。

 そこで活躍するのが、生前のログワイドを知っているマモンだ。


「あれを解き明かすには、お前に色々聞いた方が良さそうだな」

『といっても奴について、己の知っていることはあまり多くはない』

「何も知らない俺よりはマシだ」


 まずは……一番気になる所と言ったらこれだろう。


「ログワイドはなぜそこまで女神を嫌っていたんだ?」

『ふむ、己が聞いた話では……あの阿婆擦れは胡散臭いと言っていたなあ』

「……なんだそれは」


 いまいち要領を得ない発言である。


 マモンの話ではログワイドは女神を親の仇の如く嫌っていたという。

 そもそも他人を嫌悪する要因というのは様々挙げられるものだ。


 一、自尊心を傷つけられたとき。

 二、相手が自分を嫌っているとき。

 三、趣味や意見の不一致のとき。

 四、心理的不利益を受けたとき。

 五、自分の心理状態が悪いとき。

 六、自己領域が侵害されたとき。

 七、相手の容姿や行動。

 八、そのときの状況や環境。


 この八つが主な要因となり得る。


 女神という不確かな存在を嫌悪するのなら、当て嵌まるところといえば……一から三は関係ないように思う。

 というか、絶対的な要因になり得る事と言えば、女神のせいで不利益を被ったと感じた。それに尽きるだろう。

 なんとももやもやとはっきりしない答えではあるが……これ以上にしっくりくるものが思い浮かばない。


 となれば、ログワイドは何が原因でそう感じたのか。それを探る必要がある。


「胡散臭い、ねえ……」


 女神に対して胡散臭いとは、なんとも尊大な文句の付けようだ。それでもユルグも彼の意見には同意する。

 元々信仰心なんて欠片も持ち合わせていないユルグにとっては、女神の存在はそれこそ眉唾であるといっても良い。

 とはいえ、勇者に選ばれたのだからそれを言ってしまえばおしまいである。


「確か神官どもが言っている謳い文句は、女神はこの世に安寧をもたらす存在、だったか」

『安寧なあ……嘘八百であるな』


 確かに一般の大衆を騙くらかすには十分ではあるだろう。なんせ世界に蔓延っている瘴気は魔王が生み出していると思われているのだ。それを倒す勇者を生み出すのが女神というのなら、これ以上無い筋書きである。


「二千年前も同じ文句が言われていたのか?」

『変わりなかったと記憶している』


 マモンの証言を加味するのならば、都合良く改竄されたわけでは無さそうだ。

 それでも消える事のない瘴気とそれによって生まれる魔物。それらを目にして安寧をもたらすと言われても、疑念しか抱かないのは二千年前でも同じだったろう。


 きっとそれを感じてログワイドは胡散臭いなどと思ったのかも知れない。


「他に何か言っていなかったか? 些細な事でもいい」

『ううむ……そうは言ってもなあ。なにぶん二千年前の記憶であるから』


 マモンへと詰め寄っていると、今まで黙って話を聞いていたミアが割り込んできた。


「そう言われてもすぐに思い浮かばないでしょ。こういう時は最初から辿っていけば良いんじゃない?」

「最初から?」

「その人がどんな性格で、どういう人だったか。人と成りを知っていくのも大事だと思うけどなあ」

『確かに……それも一理あるか』


 頷くと、マモンは語り出した。

 彼の創造主である、ログワイドという人物について。


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