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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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別れの時

 脱獄して身を隠していたユルグの元に、いきなりマモンが現われた。


『万事抜かりなく、上手くいったようだ』

「本当か?」


 開口一番、マモンの告げた言葉にユルグは半信半疑だった。あのフィノが相手を出し抜いて上手くやれるなんて想像がつかない。

 けれど、マモンが言うには文句の付けようもない成果らしい。


『今回はフィノのお手柄だ。褒めてやると良い』

「信じられないが……上手くいったのならそれでいいか」


 当初の目的が果たせるのなら何も文句はないのだ。




 ===




 マモンと連れ立って村の中心へ向かうと、そこには背後に村長および村人数人を侍らせたフィノがユルグを待ち構えていた。その中にはカルロもいる。


 まったく状況が掴めないままカルロへと目配せすると、彼女は無言で肩を竦めてみせた。


「これは……どういう状況だ?」

「フィノはここにのこるよ」


 尋ねると、フィノは思ってもみない事を言い出した。


「――は?」

「だからおししょうは、ミアのところにもどって」

「……待て。どうしていきなりそんな話が出てくる。そもそもお前はここに残って何をするつもりだ?」


 いきなりのことに頭が追いつかない。

 どうしてもユルグに着いていくと言って聞かなかったあのフィノが、自分から離れていくと言う事自体おかしい。あいつらに何か言い含められたか。それ以外に考えられない。


『あれらと交渉したのだ。石版の解読を手伝う代わりに、ここに残って奴らの大願を果たせとな。そしてフィノはそれを承諾した』

「……っ、何を馬鹿な事を」


 ユルグがフィノに望んでいるのは、こんな生き方じゃない。自分の人生は自分で決められる……自由に生きていける。そんな人生を望んでいた。

 だから、いずれはユルグの元を去って生きていって欲しかったのだ。断じて、こんな下らないものに一生を掛けて生きていくことを望んではいなかった。

 そんなのは、今までのユルグの生き方と何も変わらない。


「お前はそれで良いのか?」

「うん」

「……っ、本当に、本心からそう言っているのか!?」


 荒々しく踏み出してフィノの肩を掴む。まっすぐに藍色の瞳を見つめて問い質すと、彼女は目を逸らすことなく向き合った。


「フィノがじぶんできめたことだから、これでいいの」


 フィノの答えにユルグは一瞬だけたじろいだ。

 そんな師匠の言動にフィノは驚きを隠せなかった。


 今まで何度も言われてきたことだ。


 ――着いてくるな。

 ――独り立ちしろ。


 やっと厄介払いが出来るのに、どうしてかユルグは少しも嬉しそうな顔をしない。てっきり何の言葉もなくフィノの提案を承諾してくれると思ったのに、彼はフィノに対して怒り出した。

 その理由が、どうしてもフィノには分からなかったのだ。


「……わかった。好きにしろ」


 けれどそれを聞く前に、ユルグは会話を終わらせた。


『待て! あれではあんまりではないか。フィノはお主の為を思って』

「そんなこと、お前に言われなくても分かってるんだよ!」

「ま、まあまあ。ここで言い争っても何にもならないし、一旦落ち着いてちゃんと話したら良いんじゃない?」

「これ以上話すことなんてないだろ」


 頑ななユルグの態度に、先に根を上げたのはカルロだった。


「だああ! なんなの!? ほんっとうに面倒な男だなあ! いいから、ほら!」


 カルロは叫び声を上げるとユルグとフィノの手を取って引っ張って行く。

 村の中心から外れて人気の無い場所まで行くと、そこでやっと手が離された。


「あいつらが居ちゃ、話したいことも話せないでしょ。厄介払いはしたからちゃんと納得のいく答え出しなさいよ」

「……わかったよ」


 彼女には珍しいお節介にかつての師匠を思い出しながら頷くと、改めてフィノと向かい合う。

 フィノはどうしてか、少しだけ浮かない顔をしていた。


「……ごめんなさい」


 ユルグが何かを告げる前に、フィノが口火を切った。けれどそれはしおらしい謝罪の言葉だ。


「何でお前が謝るんだ」

「だって……おししょう、おこってたでしょ」

「それは」

「よけいなこと、しないほうがよかった?」

「そうじゃない。ただ……物凄く驚いたんだ。お前がここに残るなんて言うから」


 たどたどしい言い訳に、フィノは不思議そうな顔をした。彼女はどうしてユルグがこんなことを言うのか、分かっていないのだ。


「ユルグはうれしくないの?」

「……え?」

「まえはついてくるなっていってたよ。ひとりだちしろって」

「確かにそう言ったが、あれは」


 フィノの言葉通りだ。ユルグはそれを望んでいた。けれど、今の状況は想定していたものとは明らかに相違している。

 フィノをここに残して、その後に待つ彼女の未来は明るいものなのか。どう考えても悪い方に向くとしか思えないのだ。


「……フィノのこと、どうでもいいっていったもんね」


 彼女の指摘にユルグは何も答えられなかった。

 ……そうだ。かつてユルグはフィノにそう言った。あの時は心の底から思っていたのだ。けれど、今も同じかと問われれば……どう答えて良いのか。自分でも分からなくなっている。


 それでも、即決できないのなら。もはや答えなど分かりきったことだ。


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