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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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旅は道連れ

 

 そもそも、ログワイドの名前はラガレットでは有名らしい。今まで地元の人間に話を聞いてこなかったのが裏目に出た。

 それでもカルロの言い分を聞くに、それほど良い感情を向けられてはいないみたいだし、情報を集めるのには苦労しそうだ。


 そしてその予感はすぐに的中することになった。


「どういうことだ?」

「残念でした! これ以上は話せないよ。もっと聞きたいならそれ相応の対価を頂かなくちゃ」

「交渉しようってか? 何が望みだ」

「私の要求はさっき言ったでしょ」

「一緒に連れてけってやつか」


 カルロはなかなかに痛いところを突いてきた。


 彼女の持っている情報がどれだけ重要なものか、ユルグには判別出来ない。後出しにされたら確認のしようがないのだ。それを理解していて、こうしてカルロは交渉している。


「……お前がどこまで着いてくるかによる」

「お兄さんはサノワまで情報収集に行くつもりだったんだよね? だったら私もそこまで着いて行くよ。公都までは当てがあって行くんだろうし、無駄足にはならないはずだから。私のことはついでとでも思ってくれればいいかな」


 彼女に開示している情報はほんの少しだと言うのに、予測した答えは非の打ち所がないものだった。

 どうやらカルロはかなり頭が切れるらしい。


「分かった。交渉成立だ」

「やったね!」

「ただし、一つだけ言っておく。俺はどんな危機的状況になってもお前を助けることはしない。頼るならフィノに頼れ」

「うん。まかせて!」


 顎でしゃくるとフィノはうんうんと頷く。

 それにカルロは「よろしく頼むよ」と手を出して握手をせがんでくるのだった。




 ===




 腹ごしらえも済んだところで、ベルゴアを後にして海岸沿いを歩きながらサノワへと向かう。


 北方に位置するシュネー山よりは雪は降っていないが、吹き付ける潮風は身を切るような冷たさだ。押し寄せる波も寒々しく映る。


 陸地から沖合に目を向ければ、小型の船で漁に出ているのがちらほらと見えた。まばらに見える船の船員が全員エルフであるとは言えないが、元来森に住むエルフが海へ漁に出るとはなんとも不思議な感じがする。



 以前エルリレオが、ラガレットはエルフしかいないと言っていたが正確には違う。彼の知識はかなり古いもので、尚且つ偏っているのだ。


 現在のラガレット公国は国内に住むエルフの数が他の国よりもかなり多い。

 人間だって多くはないがたまに見かける。それとカルロのようなハーフエルフも住んでいる。

 多種族については定住している者もいれば、旅行者や旅人もいるのだ。


 けれど、優越思想における差別は他よりも根強い。

 現にカルロだって苦労しているようだし、感覚的にユルグもそれは感じていた。もちろん地域ごとに差はあるのだろう。

 辺境にある田舎街……メイユなどではまったく無かったが都市部や人が多く集まるところならば顕著である。


「サノワまで着いて行くって言ったけどさあ。あそこは出来るなら行きたくないんだよねえ」

「……どうしてだ?」

「だって、私みたいな奴には当たりが強いんだもん。ハーフエルフが一人で出歩こうものなら袋叩きにされちゃうよ」


 肩を竦めて苦言を零すカルロの言葉に、ユルグもかつてのことを思い出す。


 以前、仲間たちとサノワへと赴いたときの話だ。

 普段なら新しい街へと着くと各々に散策へと出掛けるところ、カルラだけ宿の部屋から一歩も出なかった。いつもと違う様子が気になって、具合が悪いのかと聞けば違うと答え、何でも無いとはぐらかされてしまい。

 結局、使い走りで飯を買ってこいと駄賃を渡されて一人街へと繰り出す羽目になったのだが……今のカルロの話を聞いて、あの時の出来事に合点がいった。


「なるほどな」

「だから、公都に着いたらあの子から目を離さない方がいいよ。面倒事を避けたいならね」


 足元に黒犬のマモンを侍らせながら、寒々しい海を瞳を輝かせて眺めているフィノに目配せして、カルロは釘を刺した。


「ああ、わかった」

「まあ、私も着いてるから滅多な事は起きないと思うけど」


 ――感謝してくれても良いんだよ。


 なんて、まだ先の事で恩を売ろうとしている。呆れるほどに強かで図太い性格だ。



 ぽつぽつと話しながら街道を進んでいると、ユルグはあることが気になった。ふと、疑問が脳裏に浮かんだのだ。


 カルロは自由を望んではいないが、それでもハーフエルフへの差別を許容しているわけではない。彼女の言葉からもそれを嫌悪していることは伺える。

 だったらなぜ、人が集まる街で盗みを働いていたのだろう。


「お前は元々ベルゴアの出身なのか?」

「いんや、違うよ。ラガレット出身ではあるけど、故郷の村はここよりもっと南にある小さな村」


 答えて、カルロは元来た道の方角を指差した。

 しかし、そうであったのなら尚更疑問は深まっていく。


「迫害されるって分かっていてどうして街に定住しているんだ?」

「ああ、それねえ。あの村の方針が私には合わなかったから嫌気が差して出てきたってわけ」

「……方針?」

「うん……まあ、行けば分かるよ。私は戻りたくはないけど」


 話したくないのだろう。多くは語らない彼女の態度に、ユルグも察してそれ以上は聞かなかった。

 しかし、カルロの故郷と言うことはユルグの師匠であるカルラの故郷でもある。少し気にはなるのが本音だ。


 公王へ話を聞いて、それで有益な情報を得られなかったら虱潰しに探ることになる。いずれ訪れる機会もあるだろうし、その時まで好奇心は抑えておこう。


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