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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第二章
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リント坑道

 翌日、ユルグは昨日(こしら)えた魔鉱石を持って、朝早くから魔道具屋を訪れていた。


「この魔鉱石、全部でいくらになる?」

「ふむ……三十ガルドでどうでしょう」

「それで頼む」


 ユルグが予想したよりも高い金額で買い取ってもらえたが、材料費を引けば収入は半分ほどだ。

 やはりこれ一本で稼ぐとなると厳しいものがある。


 フィノに稼いでこいと言ってはいるが、ユルグはそれを当てにしていなかった。

 まとまった金が貰えるまで待つつもりはないし、目標の五百ガルドが貯まればすぐにでも街を出て行くつもりだ。


 といっても、一日の支出は宿代とその他諸々で七十ガルド前後。


 野宿を考えていたが、フィノが寂しがるからと半ば強制的に宿に泊まることとなった。

 これはラーセの圧力に屈服したのもあるが、日中は彼女の店でフィノは働くことになる。

 ユルグが頼み込んだ事もあり、雇い主の希望は極力叶えてやらなければ後で何をされるか分からない。


 フィノは泊まり込みで働けることになったが、仕事のない夜はユルグの元へ来るだろう。

 それも踏まえての、店の隣の宿に宿泊しろと言うことだった。


 一日の稼ぎが多ければ問題ではないのだが、今しがたの魔鉱石の件を見ても芳しくはない。


「この辺りで稼げる話はないか?」

「そうですな……腕に覚えがあるのなら冒険者ギルドへ向かわれては?」


 魔道具屋の店主は眼鏡越しに瞳を細めて、そんなことを告げてきた。



 冒険者ギルドのことを、ユルグは殆ど知らない。


 グランツは、以前そこに所属していたと話していた。

 彼は歴戦の戦士で腕っ節も強かった。

 ギルドの依頼は稼ぎも良く、たんまりと金を稼いでいたようだ。


 それでも彼は金遣いが荒く、貯めていた金も娼館通いで使い切ってしまうんだと笑って話していたのを思い出す。

 カルラやエルリレオからは笑い事ではないと怒られていた。



 兎にも角にも、行ってみる他は無さそうだ。



 ギルドの受付に話を通すと、冒険者登録というものをしなければならないらしい。

 これを行うことで正式に依頼を受けて報酬を貰えるそうだ。


 早速、と意気込んだユルグだったがすぐに壁にぶち当たった。

 職業欄を記入するところで筆が止まる。


 流石に勇者と馬鹿正直に書くことは出来ない。

 少し逡巡したのち、受付に伺いを立てることにした。


「ここのところなんだが……」

「職業欄は虚偽の報告はしないで下さいね。それで後々揉めることが結構ありますので」


 受付の言う揉め事というのは想像に難くない。


 職業によって使える魔法は限られている。

 大方、土壇場で使えると思われていた魔法が使用できなくて危機に陥ったという展開だろう。


 勇者のユルグは魔法の得手不得手はない。

 何でも使えはするが、それを他人に知られてはまずい。


「これで頼む」

「お預かりします。……戦士での登録で間違いないですね?」

「ああ」


 迷った末、ユルグは戦士として冒険者登録を済ませた。

 武器全般の扱いはマスターしているので、これなら怪しまれることはないと判断したのだ。


 銅製のプレートを受け取り首に掛ける。

 これが冒険者としてのランク付けみたいだ。


 ここまで済んだらやっと依頼を受けられる。


 ボードに張り出されている依頼を確認すると、確かに魔道具屋の店主が言ったように報酬は魔鉱石を売るよりも断然良い。

 それに伴ってリスクも発生する訳だが、それを差し引いてもここで稼ぐ方が手っ取り早いだろう。


 タイミング良く、近場のリント坑道での魔物退治の依頼が張り出してあった。

 ついでに魔鉱石も採取できる。一石二鳥の依頼に、ユルグは依頼受注を済ませて坑道へと向かった。




 リント坑道に足を踏み入れたユルグは、岩壁に掛けられていた松明を手に取り奥へと進んでいく。


 こういった場所に生息する魔物は特殊なものが多い。

 環境に適応している者が幅を利かせているとでも言うのだろうか。



 ユルグは周囲を見回して魔物の痕跡を探す。

 岩肌を入念に探っていると、それを見つけた。


「ストーンリザードの幼体か」


 一見するとただの岩にしか見えないが、掴んで裏返してみると岩の殻に護られて小さなトカゲのような生物が這い出してきた。


 こいつは幼体のうちなら攻撃性もなく大人しいが、成体になると途端に凶暴になる。

 鉱物を主食にしていて、今のは幼体だから無かったが、成体だと殻の内側に魔鉱石が生成されていることもあるのだ。

 言わずもがな、ストーンリザードから取れる魔鉱石の方が質は良い。


 おそらく、この坑道の(あるじ)はストーンリザードだろう。

 比較的大人しい魔物だが油断は禁物だ。



 坑道の最奥地には、ユルグが予想した通りストーンリザードの巣があった。

 あれを破壊すれば依頼完了だ。


 けれど、それを阻むようにこの巣の主である成体のストーンリザードが行く手を阻む。


 幼体は掌に収まるほどに小さいものだったが、こいつはデカすぎる。

 奥へ続く道をその巨体だけで塞げるほどの大きさに、ユルグは顔を顰めた。


 この魔物の弱点は岩殻の内側が酷く脆いことだ。加えて俊敏さにも欠ける。

 しかし、この巨体では裏返すのは無理だ。


 おまけに背中に空いた無数の穴から、尖った鉱物を発射してくる。


 対峙して一拍置いたのち、ユルグへと向かってきたそれを、剣を抜いて弾く。

 弾かれた発射物は跳弾して、岩壁を抉っていった。


 あんなのを生身に受けたらと思うとゾッとする。

 今は剣で弾けたが、何度も受けられるものではない。


 ユルグの持つ剣は安物だし、受け止めた刀身は傷が付き少し凹んでいるのがわかった。

 もってあと数発防げれば良い方だ。


「長期戦には持ち込めなさそうだ」


 持っていた松明を放って思案する。


 あの魔物の殻は真正面から斬れるようなものではない。

 唯一の弱点といえば背中に空いたあの穴か。



 ストーンリザードは次の攻撃をしかけようとこちらを伺っている。

 逡巡している暇は無い。


 ここまでの道中で拾ってきた魔鉱石を右手に握り込んで、ユルグは一気に距離を詰めた。


 刹那、放たれた発射物を再度、剣で弾く。

 片手でいなしたせいか、元々剣の耐久がなかったか。

 真っ二つに折れてしまった剣を放って、ユルグはストーンリザードの背に乗り上げた。


 ここまで辿り着ければ後は消化試合だ。


 右手に握りしめていた魔鉱石に魔力を込める。

 出来上がった高威力の炎鉱石(えんこうせき)を岩殻の穴に投げ入れた。


 直後、投げ入れた衝撃で炎鉱石は爆発を巻き起こす。


「ギイイイイイイイイィィィィ!!」


 断末魔の叫びが坑道内に反響する。

 グラグラと揺れだした背から降りてしばらくすると、ストーンリザードは動かなくなった。


「ふぅ……上々って所か」


 今まで相対してきた魔物の数は両手じゃ収まりきらないが、だからといって命の取り合いはどれだけ経験を経ても慣れないものだ。


 元来、ユルグはこういった荒事を好まない。

 勇者になる前は剣すら握った事も無かったし、魔物だって見たことも無い。


 今では恐怖も抱かなくなったが、それは死に限りなく近くなったとも言える。


 これからは一人で生きていかなければならない。

 より一層、気を引き締めていかなければ。


 倒したストーンリザードの体内には、両手で抱えてやっと持ち運べる大きさの魔鉱石が生成されていた。

 運び出すのは大変そうだが、高く売れそうだ。



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